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対面

 メソンの街で訓練していた彼らの元に、ギルド長からエスト公国の聖女一行が手助けしてくれるという話が持ち込まれた。

 その話から三日後、マリー一行とローザ一行がギルドの一室で顔合わせをする。まずローザ一行が自己紹介をした後、パスカル、トマ、セルジュと続いてマリーの話す番になっていた。

 ローザたちは聖王国聖女一行で、唯一紅一点のマリーに視線を送る。その視線はキラキラと輝かしいものと、優しく見つめるもの、憐れんでいるものと様々だった。


 ちなみにマリーはローザの聖女然とした姿に、気後れしていた。彼女が正々堂々と話す姿を見て平凡な私が聖女で良いのか、と改めて思う。  

 だから少し小声で、俯き気味に話し始めたのだ。


「え、えっと聖女兼支援魔道士兼荷物持ちのマリーと申します……あ、あの?」


 マリーが顔を上げてローザ一行を見ると、目の前に座っているローザが口をぽかんと開けてマリーを見ていた。少し睨まれているように感じるのは気のせいだろうか。

 マリーの様子に気づいたのは、勇者ヴィンスだった。彼はマリーの表情が強張った事に気づき、ローザを見て納得したような顔をする。


「ああ、うちの聖女がごめん、大丈夫これは……」


 とヴィンスが言い切らないうちに、ローザが天を仰ぎ見て祈りを捧げていた。祈りを捧げ終わったローザは涙を流しそうな勢いで、マリーを見つめる。


「ああ、神よ。ありがとうございます!聖王国の聖女様がこんなに可愛いなんて……!しかも声まで可愛いとは……」


「いや、むしろ聖女様のほうが……」


 思わずマリーが否定してしまうのも仕方ない。平々凡々な容姿の自分よりも、ローザの方が何倍も美しいと思っていたからだ。だが、そんなマリーの声も聞こえていなかったローザはマリーの手を取り、目を輝かせて話す。


「マリーさん、是非私と仲良くしてくださる?!はじめに私の事は呼び捨てで構わないわ」


「いや、そんな……」


 流石に無理だろう……マリー一行にそんな空気が流れる中、一歩後ろに下がっていたテレンスが呆れた声でマリーの背中を押す言葉を述べた。


「マリーさん、言う通りにしてやってくれ。そうしないとずっと言い続けるから……」


「……はい」


「うふふふ!嬉しいわぁ〜。テレンス、貴方良い働きをしてくれたわね。ありがとう!それじゃあ、早速私はマリーと特訓してくるわ!あ、呼び捨てでごめんね?良いでしょう?それじゃ、また後でね!!」


 一気に言い終えたローザは、マリーの手を繋いだまま走り出す。その勢いに釣られてマリーもローザの後に付いて走り出した。ギルドの訓練場でも借りるのだろうか。

 呆気にとられるセルジュ一行と、苦笑いで彼女たちを見送るヴィンス一行。ヴィンスとテレンスは、マリーを見た時からこうなる事は気づいていたので問題ない。

 ヴィンスは改めてセルジュ一行に向き直ると、話始める。


「ああ……うちの聖女がごめんね、彼女は可愛い子が大好きなんだ。特にマリーさんみたいな女性が好きでね……彼女たちの居場所は僕がギルド職員に確認しておくよ。せっかくの機会だし僕たちも訓練しようか?」


「ええ、よろしくお願いします」


 代表してパスカルが返答した。パスカルの返事を聞いて二人は困惑しつつも、それを受け入れる。セルジュたち一行は訓練を兼ねて依頼を受けにいくのだった。





 マリーとローザはヴィンスの言った通り、ギルドの訓練場の一部を借りていた。マリーはまず聖女の力が馴染んでいるかどうかの確認である。聖女の力は身体に順応しなければ、行使することすら叶わない。

 聖女の力は実は自分自身の力しか見ることはできない。だが、今回はユーピテルの力によりローザは他人の聖女の力を目視できるようになっている。


 ちなみにローザは一ヶ月ほどで聖女の力を身体に馴染ませていた。ユーピテルも目を見開いて感心していたくらいに早い。彼女はこう見えてエスト公国では十本の指に入るほどの魔力の持ち主であり、その中でも魔力操作が非常に繊細で上手だ。そんな彼女が力を受け取った際に、聖女の力も魔力と同様に身体に馴染ませることができるのでは、と考えたのだ。

 その試みは正しく、ローザは聖女の力を身体全体に覆ってみたり、手だけに集中させてみたりと訓練を行ったことで一ヶ月という驚異的なスピードで力を馴染ませたのである。


 ローザは目の前にいるマリーにその方法を教え、試すように言う。マリーも元々支援魔道士であり空間魔法も使えるため、魔力操作は彼女に指導されただけで理解したようだ。

 ローザに見せてもらったように、聖女の力を操作する。マリーは左腕にあった力を、腕を経由して右手に移動させる。そして移動が終わったところで、目の前のローザを見た。


「ローザ、どうで……かしら?」


 畏った言葉は使わないでくれ、とローザに言われているマリーだったが、気を抜くと彼女の前では敬語が出てしまう。慌てて言い換え、再度ローザの方に顔を向けると、彼女は目を見開いて固まっていた。


「どうしたの?ローザ」


「え……あ、ううん。なんでもないわ!マリーの力を見せてもらったけれど、既に馴染み始めているわね。この魔力操作を行えば、遅くともあと2週間くらいで馴染むと思うわ」


「本当?それじゃあ、頑張らないと!」

 

 マリーは魔力の訓練でも使えると聞いたため、大張り切りである。自分だけだったなら、いつ馴染むか分からない力にプレッシャーを感じていたかもしれないが、今は先輩であるローザが付いている。彼女がいる事でマリーも気負う事なく訓練に勤しむことができるだろう。

 楽しそうに訓練しているマリーを他所に、ローザは彼女をじっと見つめていた。マリーの力はローザの想定以上の速さで馴染んでおり、その事に驚いているのだ。


(……あれだけ馴染むのに私は二週間以上要していたはず。それを彼女は半分の時間で……彼女はメルリアの聖女の力に触れていたという下地があったからかしら?)


 本当の所は分からないが、多分想像した理由であっているだろう、とローザは思い直す。彼女がここに来た理由は、マリーが浄化の力を発動させる手伝いをする事だ。マリーの聖女の力がこんなに早く馴染んでいるのは何故か、を分析するために来たのではない。

 ローザは一度頭から考えを抜くために左右に数回頭を振って、頭の中をすっきりとさせた。そしてこれなら早く浄化の力を発動するための訓練が始められそうだ、とローザは笑みを浮かべながらマリーを目に映していた。


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