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聖王国では

 ユラニブレ聖王国首都にある王城。

 大応接室と呼ばれているこの部屋に、六人の人間が顔を合わせていた。部屋の奥側には国王陛下、枢機卿と宰相。そして真正面にはマリーやセルジュと同年代くらいと思われる男女三人が座っている。

 中心に座り話しているのは、銀色の髪に青い瞳、爽やか系イケメンと呼べそうな笑顔を湛えている男性。彼の右側に座っているのは、ストレートのブロンド髪が美しい美人女性、反対側にいるのは程よく引き締まった筋肉を持つ厳つい顔の男性だ。

 

 実は彼らはユラニブレ聖王国の東隣にあるエスト公国の聖女一行である。勇者ヴィンス、聖女ローザ、魔法戦士テレンスの三人だ。

 彼らは半月前に公国の瘴気の浄化を終わらせており、丁度マリーが新聖女となった一週間後に瘴気浄化の儀を行っていた。 

 ちなみに瘴気浄化の儀式というのは、神であるヘーレーやユーピテルが力の付与と回収を行う儀式のことである。儀式は二度行われ、一度目は聖女として指名された時、そして二度目は浄化が終了した時だ。この儀を行う事によって、聖女の力を授けたり回収するのである。


 今回そんな聖女一行が何故ここに居るかというと、彼らはユーピテルの使者としてユラニブレ聖王国の聖女一行ーーつまりマリーたちのことだがーーを手助けするよう使命を与えられていた。

 普通は他国の人間に手伝わせる事はしないのだが、今回聖女が交代した事、そしてエスト公国の聖女一行の願いをユーピテルが叶えたために、彼らは聖王国に来ている。

 

「こちらが我がエストの大公からの手紙でございます」


 勇者から手紙を受け取った国王は、すぐに封を開けて黙読し始める。そして数分経った頃、手紙を枢機卿に渡す。国王の表情はなんとも言えない笑みが張り付いていた。その後読み終えた枢機卿も、最後に手紙を読んだ宰相も彼と似たような表情になっていた。

 それもその筈。この手紙は一応エスト公国の大公が聖王国の国王宛に送っている手紙である。しかも神託を授かっているのだから真面目で堅苦しい内容になっているはずなのだが、まるで弟が兄に送るような気軽な口調で書かれた手紙だったのだ。

 彼奴らしい、と国王は笑いながら目の前の三人に問う。


「……手紙には『聖女一行がもう少し旅をしたい』と神に祈ったからと書かれていたが、それは真か?」


「ええ!叶うならば、もう少し自由に旅ができたらと思っていましたの。その事を神に相談致しましたところ、この役を頂いたのですわ」


「私たちは聖女の護衛ですから、彼女が願うままに」


 聖女であるローザはエスト公国の大公の娘として、聖女の任が終わると同時に王太子の元に嫁ぐ予定だった。だがお転婆娘である彼女は自由気ままな浄化旅を気に入り、もう少し旅を続けたいと願ったのである。

 正直彼女もそんな我儘は叶うと思っておらず、このまま王太子の元に嫁ぐだろうと考えていた。しかし、事態は急展する。神託でマリー一行を補助するように指示されたからだ。ダメ元で言ってみるものだ、とローザは感動していた。

 しかも公国ではなく、嫁ぎ先の聖王国である。将来の王妃として市井の様子を見る事ができれば、と考えていた彼女にとって、この神託は願ってもない事だったのだ。そこから毎日ローザはユーピテルに感謝の祈りを捧げている。

 ちなみに護衛騎士のテレンスはこの旅が終わると実家に戻る予定だったのだが、旅の途中でローザが「旅が楽しすぎるぅ〜」と言い出していたので、帰省できないかもしれないと言伝していたのだが、実際その通りになってしまったのだ。


 彼らの対面で苦笑いしている国王と枢機卿も、神ヘーレーから神託を授かっており、今回の件は彼らに頼む事にしていた。勿論、貴族の中には「他国の聖女の力を借りるのは如何なものか?」との声もあったが、ヘーレーより先輩聖女であるローザの指導が入る事で浄化の力を早く使いこなせるようになる可能性が高いと話があった事を伝えると、先ほど声を上げた貴族は納得したようで、再度声を出す事はなかった。彼らも元聖女であるメルリアが、浄化の力を使用できるようになるまで半年弱かかった事を思い出したからだろう。

 

 ちなみに今回ヘーレーがここまで手を尽くした理由は、先の事件の謝罪も兼ねている事、そしてマリーが浄化の力をいち早く行使する事ができるようにする事だった。ローザの意向と神の意向が合わさった結果、聖女一行が派遣される事になった上、まさか神から謝罪されると思っていなかった国王と枢機卿は頭を下げることしかできなかったが。


「うむ、聖女を頼む」


「聖女については、お任せくださいませ、義父様。ついでに他のメンバーも訓練させますわ……ヴィンスとテレンスが」


 指名された二人は苦笑いをしていたが、異論は無いようで首を縦に振っている。


「……騎士団長が呟いておりましたが、クロイドン侯爵令息とノークス伯爵令息の様子を心配していまして…‥。もし負担でなければ、彼らの様子も頼みます」


 宰相は三人に対して頭を下げる。その姿を見た聖女一行は、動揺を隠せない様子。それは宰相が頭を下げた事に動揺したのか、それとも頭を下げさせる令息たちがいる事に動揺したのか……どちらなのかは分からないが。

 宰相は頭を上げると、何事も無かったように話し始める。

 

「現在、彼らはメソンに滞在しております。神託を受けた時点で早馬を送っており、昨日メソンのギルド長より『伝達した』との連絡が入りました。皆様には用意した馬車に乗っていただいて向かっていただきます」


「あの、宜しいでしょうか?」


「ローザ様、いかがいたしました?」


「三頭馬を貸して頂ければ、馬で向かいますわ。その方が早いと思いますので」


 その言葉に目をまん丸にする宰相。国王の話した通りになったからだった。神託を受けた後、ローザ一行を送り出す際の事について国王から指示があり、「馬車と馬三頭を用意しておけ」と言われるままに用意していたのだが、まさか本当に馬を選択するとは思っていなかったのだ。


「承知しました。では、馬を用意させます」


「頼んだ、ローザ嬢」


「はい、義父様。行って参ります」


 三人は立ち上がり一礼して部屋を出て行く。その後ろ姿は頼もしく、一旦国王は胸を撫で下ろしたのだった。

 この作品は、今のところ毎週月曜日に更新する予定です。

週1、週2更新になると思いますので、気長に待って頂けると助かります。

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