懸念事項
いつの間にか半年弱経っておりました……
以前書きかけだったものを修正したので載せます。
翌日もその次の日も、ダニエルはマリーとローザの訓練に顔を出していた。訓練中に話しかけてくるのであれば、無理矢理にでも追い返すことができるのだが、彼はそこまで空気が読めない男ではなかったらしい。「聖女様の訓練を拝見したいのです」と懇願されてしまえば、マリーもローザも性格上無下にはできなかったし、彼も彼で静かに二人の様子を見ていたので、彼女たちはそのまま放置していたのだ。
だがローザとマリーの訓練中、ダニエルは彼女たちの見えないところでうすら笑いを浮かべていた。頭の中では二人の聖女に好かれている妄想を展開しており、側から見たら不審者である。その事に早々気づいたセルジュはヴィンスに相談し、万が一のことを考えてマリーとローザが視界に入る位置で訓練をする事にしたのだ。
この事を提案した際、ヴィンスは目を見開いてセルジュを見ていたが、満面の笑みで了承したという。
そしてまた何日か経ち、いよいよショマールの街に出発しようという話になった。ローザから浄化の力のお墨付きを貰ったマリーは、テレンスの訓練により強化されたトマ、パスカルとセルジュで街に向かい、ローザたちエスト公国のメンバーとは此処で別れるつもりであったのだが、「手伝って良いよ、とユーピテル神にお墨付きを貰っているわ」の一言で一緒に移動する事になったのだった。
出立前日マリー達は昼まで訓練をした後、お世話になった人々に軽く挨拶をして回る。誰もが優しく彼らの無事を祈ってくれ、ローザもこの国に嫁いでくるのが楽しみになった程、心温まる時間だったに違いない。
ある程度挨拶回りが終わったところで、最後にダニエルの元を訪れる事をマリーは提案した。この領地の息子だからと激励を述べてくれた彼に無言で出発するのは宜しくないのでは、とマリーは話す。トマとパスカルは彼女の意見に同意し、テレンスとヴィンス、セルジュも気は進まない様ではあったが同意した。ローザは内心不本意ではあったが、全員が同意しているのを見て、了承し彼の元へ向かった。
そして今に至るのだが……彼は何を思ったのか、聖女一向に着いて行くと言い張った。
「ショマールの街でしたら、私も足を運んだことがございます!宜しければ、そこまでご案内しましょう!デル、早急に馬車をもう一台用意しておくように」
「畏まりました」
いつの間にか彼の頭の中では、全員が馬車で向かう事になっているようだ。返事も聞かず、使用人であるデルに直ぐ指示する彼に、一同は困惑の表情を隠せない。
使用人デルがドアノブに手をかけた時、ダニエルの言葉を予想していたであろうローザが「お待ちください」と声をかけた。
「お気持ちは大変有り難いのですが……私共は歩きで向かいますわ。ショマールの街には瘴気の渦があると伺っておりますし、いつ魔物が出てもおかしくない状況ですわ。魔物が出たら即戦闘態勢に入れるように私共全員、常に臨戦態勢で向かう予定ですの」
暗に「お前は邪魔だ」と言っているのだが、そこまで空気が読めるダニエルではない。彼は彼女の返しに、胸を張って堂々と答える。
「こちらも護衛に精鋭を雇っております!そこは問題ありません!デル、行ってこい!」
……その後もローザが何度拒否するも、ダニエルは引かない。勿論、トマやパスカル、ヴィンスもローザと共に彼に諦めるよう声をかけたし、セルジュにおいては無言で彼を睨みつけていたくらいだ。だが、自分が拒否されている事に気づかない彼は、馬車で向かうよう手配してしまう。
そして翌日。ダニエルに言った時間よりも数刻早い時間帯ーー朝日が登り始めた時間。宿の女将さんたちには少し多めの金子を渡して早めの朝食と昼食用の弁当を用意してもらい、朝食を取った後一行は宿を出た。
ショマールの街に向かうには、入り口と正反対の西門から出る必要がある。西門の衛兵に滞在証を返却し、いざ向かおうとしたその時。
「お待ちしておりました!馬車も用意してありますので、ショマールの街に向かいましょう!」
と後ろから声をかけてきたのはダニエルだった。
トマとパスカルは頭を抱え、ローザは無表情で彼を見ている。
彼を置いていくのも悪いと思ったマリーは、宿の女将さんに謝罪の手紙を託していたのだが、それも無駄になった様だ。
この国の王太子妃を怒らせても大丈夫なのかしらーーと、この先が非常に不安になるマリーだった。




