戦場の医師長という役割
血生臭い空間。
ここでは負傷した兵士たちが運ばれてくる救護所。
腕の無いもの、足を切られたもの、目玉が飛び出ているもの。どんな負傷でも受け入れざるを得なかった。
「医師長! また、大人数が運ばれてくるそうです!」
「ああ、くっそがぁ! わかった! 順番に整理しておけ! あと看護長も呼んどけ!」
「はいッ!」
今は腕を切られた兵士の止血を行っている所で、追加の負傷兵の搬送が来る。
朝から晩まで毎日このような状況だ。
白かった白衣は赤く染まり、所々は赤黒く変色している。
まったく。
この戦場に来てからというもの、血だまりばかりだ。
「医師長!」
「ああ、看護長。先に搬送されてきた負傷兵の整理を頼む」
「わかりましたわ。アイズ! ノーハン! 私を手伝って!」
「「はい!」」
これでしばらくは大丈夫なはずだ。
さて、この兵はここの血管さえ縫って止血できれば……。
「これでよし! あとの皮膚縫合は任せたぞリーマン」
「わかりました」
「次だ」
次の兵は腹を刺されていた。
鎧も貫通しており大変な手術が必要となる。
なので……。
「時間が無い。このまま引き抜いて応急処置をして時間を稼ごう。手足を抑えてくれ」
二人で押さえてもらって刺さっている剣を一気に引き抜く!
「ぐゥうぅぅぅぅッ……! ぐ、くふ……」
あまりの痛さに気絶か?
頸動脈に手を置いて拍動を確かめる。
通常よりも弱っている。
急がねば……。
「ナイフ!」
気絶したのは丁度よい。
剣の刺さっていた場所からナイフを使って切り開く。
お腹の中はもちろん血まみれだ。
荒っぽいが致し方ない。
「大量の水で洗え! 腸に気をつけろよ。一つずつつなぎ合わせたら急いで後方へ搬送しろ」
「わかりました医師長!」
この世界の戦場の医療というのは破綻している。
だから、お腹を開けた兵士の生存はほぼ皆無に等しいだろう。
少しでも上げる努力はするべきと思っているが。
これがなかなか難しい。
「医師長。外で看護長がお待ちです」
「わかったすぐ行く」
ここは他のスタッフに任せて、搬送されてきた兵を見に行く。
その間にも死んでいったものの報告、治療の相談、感謝の言葉などが途切れることなく入ってきた。
救える命が目の前で消えていくのは、この世界では当たり前のようで、というよりもこの環境が劣悪すぎるので正直、やっていられんが。
ここで治療できるものは私と数名だけで、おまけに医師長の管理職までついている。
逃げ出せるはずもなかった。
まだまだ、この非日常が続く。