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第七話 メジャースキルを侮って申し訳ない

ヒロイン(?)登場。です。

 城主はかなり落胆していた。

「男爵家の未亡人だと言っていたんです。家を義弟が継いで、自分は追い出されたと。働き者で、行く当てがないというので娶ったのですが、まさか。よく確かめもしなかったわたしの落ち度。ご迷惑をおかけしました」

 まちがいなく一番の被害者と思われる人物に謝られては、許すしかないよな。

「あなたが悪かったわけではないと思いますよ。ねえ?」

騎士の二人に確認したら、二人も同意して頷いていた。

 シュタークが口を開く。

「援軍の陣容についてお話しする前に内通者が見つかって、不幸中の幸いでした。我々二人が率いる弓兵、槍兵に続き、わたしの妹が指揮する弩弓部隊百人が、バリスタ10門を運んで明日到着する手はずです。さらに先ほど、現状を知らせるハトを飛ばしましたので、新たな援軍が編成されてくるでしょう。到着は早ければ三日後」

「まずは、バリスタを城壁の上に据えて、守りを固めましょう。さらに援軍が来たら反撃も可能かと」

ホーリックは城主にというより俺に向かって説明しているようだった。シュタークも俺を見ている。そして、その目はある種の期待を含んでいるようだった。英雄を見る目だ。応えてやるべきかな。

「やつらの砦とやらを見てみたいのですが。ついでに試したいこともありまして。うまくいけば一泡吹かせられます」

「先手必勝というわけですね!」

シュタークはどうやらかなり俺のことを買いかぶっているぞ。高揚した様子だ。

「ならば、明日の朝の出発ということで。城から案内の兵をお借りして、シュタークと弓兵30人をお連れ下さい」

 ホーリックは、落ち着いたふうだが、やはり止めたりしないところを見ると、俺が行ってきた方がいいと思っているようだ。


 昨日、行軍の直後に戦闘を行なった兵たちを休める為、出発は朝と言うより昼前あたりの時間帯になった。修理したばかりの門を開けて、俺とシュタークを先頭に一隊が城を出たとき、昨日俺たちが降ってきた斜面の上に、騎馬と数十人の兵士があらわれた。方向からすると敵ではないが、味方の弩級部隊にしては弩級が見えないし、まだ早すぎる。俺が不審に思うと、スキルが勝手に発動した。

「デテクトイビル」

反応はない。やはり敵ではない。騎馬が一騎で駆け下りてくる。その後ろを揃いの鎧の剣士たちが列を保ちながら走って降りてくる。

 先頭の騎士は女だ。金色に透き通る長髪をヴェールのように兜から垂らしている。シュタークたちとお揃いの鎧。サイズは断然小柄で細身。小柄でスリムな女の子だ。

 顔が判別できるほど近くなると、成る程シュタークの妹らしい。騎士よりも騎士に守られる姫君がお似合いの美少女。あんあ華奢な身体で騎士団に所属というのは、剣技に長けているのだろうか。家柄が良さそうなので、コネなのかもしれない。

「兄さま!」

 まだ三十メートルほどあるところまで来た彼女が呼びかけてきた。手綱を引いて馬を俺たちの前で止めながら彼女は見かけによらぬ低い声で言った。

「昨日、街道で都へ向かう伝書鳩を見かけたという者がいましたので、弩級を運ぶ最低限の人数を残して急いで移動して来ました。ご無事でなにより」

 兄よりも俺の方をジロジロ見ながら喋っている。

「そちらの方は?」

 あれだけ俺を見ながらだから、俺のことだろう。シュタークが例によって興奮気味に俺を持ち上げて紹介する。

「トロンダプトから聖騎士を目指して来られたオリアルト・ハウアー殿だ。昨日、城を魔物の襲撃から守り、上級魔族を一人で退治なさった。大賢者ハウアーが養子にしたというのも納得だ」

 兄の舞い上がった様子に、逆に冷めたようで、彼女は怪しいものを見る視線で、俺の全身を再度見回した。

「たしかに、英雄の丘にある聖騎士ダッカー・フレイトルの石像そっくりの格好をしていらっしゃるわね。形から入るタイプなのかしら?」

 どうやら、第一印象は良くないらしい。何かひっかかる言い方だ。しかし、聖騎士は石像まであったりするのか。

「この装備はフレイトル卿が手放したものです。私が装備を選んだのじゃなくて、装備が私に反応するからと、武器屋がタダ同然でくれたものなのです」

 この説明にシュタークは目を輝かせて称えるような表情をし、妹のほうはというと、疑いの眼だった。さらに彼女は兄の様子に気付いて眉を顰め、もっと不愉快そうになった。

 そうか、こいつブラコンなんだ。自分が慕う兄が俺にぞっこんなので面白くないわけか。美人だけど、ブラコンはお断りだな。彼女に対するこっちの第一印象も良くないものになった。

「あ、紹介が遅れました。我が妹で騎士団員の一人、レイナです」

 シュタークに紹介されたときには、もう、彼女に対しては興味よりも、これ以上突っかかられて面倒な対応はしたくない、という避けたい気持ちの方が強くなっていた。

 そのとき城内から様子を見に来たホーリックがその場に参加した。

「レイナ、強行軍ご苦労だったな。兵たちは休ませて、君も休憩しなさい。シュタークたちは敵の砦に威力偵察に行くところだ」

 騎士団ではホーリックは彼女に指示を与える位置にいるらしい。

「威力偵察。この人数でですか?」

 露骨に呆れ声だ。どうやらすなおに命令として従うような上下関係ではないらしい。それとも彼女がはねっかえりなだけか。

「ハウアー殿おひとりでも我ら全員よりお強い。戦力は十分さ」

 シュタークの言葉は火に油だな。

「兵たちには休息させます。でも私はこのままご一緒しますわ、威力偵察とやらに」

 彼女は棘を隠さない。

「よろしいですね」

 ホーリックが決めることらしい。振られたホーリックは、どうやら状況を把握したうえで面倒を避けるように言った。

「わかった。君の好きにしなさい。シュタークたちに同行することを認めよう」

 どうやら彼女のわがままに対面するのは初めてではなさそうだ。言っても無駄、感がにじみ出ていた。

 案内の兵が先頭を馬で進み、俺と騎士の兄妹がそれに続く。さらに整列して進む弓兵たち。

 レイナが俺の横に並んで、ひかり号をじろじろ見ている。

「すばらしい馬ね。これほどの馬は見たことがないわ」

「馬屋の父親の咳を直したお礼にもらったんだ」

直すつもりで行ったことではないから、結果論なんだが、嘘ではないよな。

「タダ同然にもらった装備にお礼にもらった名馬? ずいぶん安上がりなのね」

 俺が取り乱すところが見たいのかもしれないが、その嫌味は許容範囲だ。なにせ、守るべき家柄やプライドがない。

「ああ、一文無しだからな。ははは」

悪びれずに笑って見せたら、彼女は意外だったのかキョトンとしてる。


 木や草が無くなり、黒い溶岩が固まったようなごつごつした岩場が続くようになった。案内の兵が

「もうすぐ魔物の砦が見えます」

と言った時、上空でこうもりがUターンして飛んでいくのが見えた。どうやら敵にみつかったらしい。


 斜面を登り切ると、砦が見えた。砦という言葉で想像していてような丸太で組んだ拠点ではなかった。あたりに木がないんだからあたりまえだが、石で組まれた立派な城だ。中央の建物が低くて地味なところだけが城と砦の違いだろうか。門は石ではなく木のようだ。どこかから持ってきたのだろうか。

 城壁は立派なものだ。一辺が二百メートルはあるだろうか。高さも二十メートルはありそうで、上の通路に見張りらしい魔物が動いているのが見える。距離は五百メートルくらいはある。

 それにしてもこの世界では城や砦は高台には作らないのだろうか。周囲との高低でいうと、アバルーン城と似ている。岩場の荒れ地だというところは異なっているが。一方が開けた盆地の底のようなところに建てられている。周囲に睨みを効かせるという点では高台と同じだろうか。近寄るものの姿は丸見えだろうし、坂を下るときに、こちらの数や装備も丸見えになってしまうだろう。

 砦からこちらが見えているだろうが、動きはない。中に籠っていればこの程度の人数ではどうにも手出しできそうにないものな。

 見るものは見たので、もうひとつの目的を果たすことにしよう。

 一度思いっきりやってみたかったんだよな。

 メジャースキルっていうぐらいだから、もう少し派手なことできるんじゃないかなあと。ホーリーウォーターの、量と勢いはコントロールできそうだから、思いっきりやったらどうなるか、ここで試すのがいいだろうし。

 集中だ。

 何か思い浮かべよう。そうだな、デカい波なんてどうだ。カリフォルニアかオーストラリアの海岸で、プロサーファーが乗るような波だ。波頭が巻いて、チューブとか出来ちゃうような、大波。

「クリエイトホーリーウォーター」

 ゴゴゴ、って音が鳴った。

 斜面の中程に、幅二百メートル、高さは三十メートルあろうかという、波が起き上がった。

 まるで荒地の地面が海面であるかのように、その上にそびえ立つ波。水色のの本体、上部は白く泡立つように。そして、高さを維持したまま、斜面を降り始めた。本物の波のようなスピードだ。砦の壁に向かっていく。波の方が壁より高い。

 大きな音とともに覆いかぶさるようにしながら、壁に激突した。

 飛び散る水しぶき、爆発したように真上に上る真っ白なしぶきが壁のあちこちにできる。流石に石の壁は簡単に崩れたりはしなかったが、波の上部は壁を乗り越えて中になだれ込む。そして、波の激突に耐えられなかった門が内側に抜け、そこからも水がなだれ込むように侵入する。

 壁の上や、中から、湯気があちこち上がり、「ぎええええ」「いてぇぇぇ!」とかいう悲鳴めいた声が聞こえてくる。イビルにとってはホーリーウォーターは酸のようなものだ。大量に浴びたら大火傷だろう。

 もう一度集中だ。こいつも回数制限なしなんだろうなあ?

「クリエイトホーリーウォーター」

 二つ目の波が起き上がる。さっきと同じくらいのサイズの。これがいっぱいかな? いや、十分すごいんだが。

 ちらりと横を見ると、シュタークは口をぽかーんと開けて、目を見開いて見ている。ところが妹のレイナのほうは、あきれ顔で、俺の視線に気が付くと批判した。

「あれが全部、貴重なホーリーウォーターだっていうの? どんだけ無駄遣いなわけ?」

「無駄じゃないよ。限度があるわけじゃないんだから」

集中の合間に、彼女の方に気を向けて返事をする。すぐに集中して、次の波を起こす。

「クリエイトホーリーウォーター」

ゴゴゴ! ザッパーン!

 三つ目を見舞ったところで、砦に動きがあった。羽をはばたかせて飛び上がる影がひとつ。毛色から察するに、あの城主の妻になっていた魔物らしい。こちらに少し近づいて滞空する。

「七つ星のオリアルト! あんた、またなんてチートな真似をして! 許さないよ!」

 色っぽい体つきは遠目にもわかる。かなり怒ってるようだ。

「あらまあ、素敵なガールフレンドさんねぇ。口は悪いようだけど」

 レイナがすかさずつっこんでくる。シュタークがとがめるような視線を妹に送るが、おかまいなしのようだ。

 砦の中から赤い光の柱が上る。そして波のときよりも大きな地響きがあたりに響き渡る。ひかり号は落ち着いているが、レイナやシュタークの馬はおびえたような足踏みをした。案内の城の兵の馬やヴォルトックの馬は、後ろ脚で立ち上がって乗り手を振り落とさんばかりに狼狽していた。

 地響きの元は砦の中だ。大きな岩が盛り上がる。人型をしている。岩の巨人。ストーンゴーレムということらしい。そいつは最初の一歩で、高さ二十メートルほどの砦の壁を跨いで乗り越えた。身長は百五十メートルはあるだろうか。高層ビルを見上げるように、視線を上げると顎が上がるのを感じた。




ちょっと間が空きましたが、週一のつもりで続けますのでよろしく。

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