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第六話 チートなスキルで悪かったね

ちょっと間が空きましたが、今後も毎週連載で更新予定です。

 騎士の二人は連れてきた兵たちに細かい指示を与えるためその場に残ろうとしたが、城主と細君が強く勧めるので副官らしいのにまかせて、俺といっしょに城に入った。外から見たより広く、通された大広間は壁のろうそくの光が届かないくらい天井が高く、シャープなイメージの飾りが施されたアーチ状の柱で支えられていた。ちょっとした体育館くらいの広さはある。使用人らしい男女が十人ほどせっせと働いていて、長机を連ねて白い布を被せ、歓迎の宴の席を準備しているようだった。ヴォルトックは入口のところで

「わたしは外で控えております」

と遠慮し、俺の盾とハルバート、それに腰からはずした長剣と脱いだ兜を受け取って部屋を出た。鎧は着たままだ。失礼にならないなら、俺自身はまったく着ている感がないので、そのままで居させてもらうことにした。また敵襲があるかもしれないから、ゆっくり装備を外していられない。シュタークとホーリックも同じ考えなのか俺に倣ってなのか、鎧を身に着けているままだ。武器だけ預けてきたようだ。

 テーブルと椅子の配置が終わり、食事や飲み物が運び込まれる前に、出席者が席に着く段取りとなる。城主が主人の席であるテーブルの短辺の席に座り、その左手には城のスタッフがもてなし側として座り、右手に客として騎士たちが座る。

 シュタークが俺に上座である主人の近くの席を譲ろうとしたが、さすがにこの国で爵位を持つだろう二人を差し置いて座るわけにもいかない。俺は三番目に座る。シュタークとホーリックは、年長のホーリックが上座に座った。そういう序列らしい。

 城主がまず、俺に向かって声をかけた。

「通りがかりとおっしゃられたが、さきほどの戦いや、その装備はまさに聖騎士のもの。聖王国のご出身かな? 未来の聖騎士さまのお名前をおきかせください。わたしはこのアバルーン城をまかされているコールワートと申す者」

「トロンダプトから来ました。オリアルト・ハウアーです。お察しの通り、聖騎士を目指してこちらへ参りました」

「トロンダプトのハウアー殿。もしや大賢者ハウアー殿の縁者でいらっしゃる?」

隣国の城主も知ってる大賢者って、司祭長は有名人だったらしい。

「最近養子になりまして。親子ということになります」

「おお! やはり」

声を上げたのはキラキラした目で俺を見ているシュタークだった。城主は満足げに頷いている。

「なるほど、あの強さにも納得です。大賢者が養子縁組をなさるほどの逸材ということですね。これは心強い。実は最近になって、北のフォトム荒地の端に、魔族が砦を作りまして。そこから何度も兵を繰り出してこの城を攻めるようになったのです。都に報告し、援軍を求めておりまして、落城寸前に間に合った、という状況です」

 城主の言葉に、シュタークとホーリックは、やや恐縮した様子だ。ホーリックが言葉を返す。

「いえ、ハウアー殿のおかげで追い払えただけで、我々は間に合っていなかった。そもそも騎士団が派遣したわたしたちの兵力では、今後対抗できるかどうか。すぐに状況を知らせ、増援をよこさせます。せめて、それまででも、ハウアー殿がご滞在いただければ安泰なのですが」

「もちろん、こういうことでお役に立とうと思い、国境を越えてきたのです。城主様さえよろしければ、こちらに留まらせていただきたい」

 戦力としてあてにされるというのは、なんて心地よいことだろうか。

「もちろん。是非、お願いいたします」

「まあ! すばらしい! ハウアー様に騎士団の方々、これで安心して暮らせますわ」

城主の左手、ホーリックの向かいの席に座っていた色っぽい細君が両手を祈るように合わせて言った。

 ウエーブがかかった黒髪が右目を隠すような髪型の妖艶な女性だ。真面目そうな事務職っぽい城主には釣り合わない美女。

 ちょうど使用人が空のグラスを皆の前に置いて行っているときだった。細君はなにやら指図していた。酒を指定したらしい。

「特別な時のためのシャンパンがありますの。今宵はふさわしい席ですわ」

 妙にガタイが良い使用人の男が、腕にナプキンを掛けて、ソムリエのような仕草で、上座の客からシャンパンを注いでいった。

 ホーリックとシュターク、そして俺に注ぎ終わると、瓶が空になったのか、同じ銘柄らしい別の瓶に持ち替えて、城主以下城側の人間にも注いでいく。全員に行き渡ったところで、城主がグラスを掲げ乾杯の発声をした。

「勝利に」

 俺も含め、他の出席者もグラスを掲げて唱和した。

「勝利に」

その瞬間、俺の左手の甲の星が金色に輝いて、男性アナウンサーの声が部屋に響き渡った。

「ナリファイ・ザ・ポイズン」

同時に、俺とホーリックとシュタークのグラスが金色に輝き、すぐに収まった。

 穏やかではない。

 俺の新しいスキルらしいが、毒を無効化したようだ。自動発動のスキル、しかも、毒を感知する「デテクトポイズン」に相当する力を常時発動しているのだろう。勝手に毒の危機から守ってくれるチートなスキルらしい。注がれた酒になんらかの毒が含まれていた。しかもそれが俺のスキルで無効化されたことは、この場の全員が知るところとなった。また、全員が知ってしまったことを全員が認識している。コモンナレッジというやつだ。ごまかしは効かない場面だ。俺は、手が止まった周りの面々を尻目に、自分のスキルを信じて、手にしたグラスの酒を一気に飲み干した。隣のシュタークが口をポカーンとあけて、俺の飲みっぷりに驚いている。

「で? どなたが説明してくださるんでしょうか?」

グラスを置きながら、俺は城主、細君、マッチョな使用人の順で見まわした。口を開いたのは細君だった。

「あ、あの。お疲れだと思って、ぐっすりおやすみになられるように、わたしが普段使っている睡眠薬をちょっとお入れしただけで」

 城主はおどろいて細君を見ている。どうやら加担していないらしい。細君の言い分に反論したのはシュタークだった。

「どんな屈強な戦士も、眠っていては寝首をかかれてしまいます。戦闘中のスリープの呪文はまぎれもなく攻撃呪文です」

 細君を睨む。

 話を単純にしよう。俺は、精神を集中した。

「デテクトイビル」

俺の足元から金色の光の波紋が広がる。イビル反応を示して、足元から頭に向けて金色に光ったのは、細君とマッチョな使用人だった。城主や他の人はシロだ。

「ちっ!」

細君が、さっきまでの穏やかな様子が嘘のような・・・嘘なんだが、下品な舌打ちをした。

 そして、ドロン、と姿を変えた。体中が紫色の体毛で覆われ、顔も頬の部分に鼻のあたりまで体毛が生えた猿のような、それでいて妖艶な体のラインはそのままで、コウモリのような羽根が生えた、見るからに魔物の姿だ。

 男の方も、身長が2メートル以上に膨らみ、オレンジ色の体毛のゴリラに下あごから牙が生えた顔、そしてコウモリタイプの羽根がある魔物になった。

 俺と騎士の二人は席を立ちあがり身構える。座っていた椅子がバタンバタンと音を立てて後ろに倒れた。構えたが武器はない。騎士の二人は、左の腕のところから、20センチほどのナイフを取り出して構えた。隠し武器らしいが、魔物に効くかどうかは疑わしい。

「この城で接戦を演じて、都から小出しに戦力を誘い出して騎士団の戦力を削ぐはずが、おかしなのが来たせいで、初回でおしまいだわね。せめて、おまえたちは全滅させてやるわ」

 魔物たちは武器などの装備を身に着けていないが、爪や牙が十分に殺傷力を持っていそうだ。

「ひいい! おまえたちが魔物だったなんて!」

城主は頭を抱えてテーブルに突っ伏して怖がっている。

 異変を感じ取ったヴォルトックが、俺の装備を抱えて入り口から入ってこようとしたが、男の魔物のほうが牙をむいてそれをけん制した。

 装備がないなら、スキルで攻撃するしかない。俺は騎士と城主の後ろを回って、魔物たちに歩み寄った。相対距離は二十メートル以内。十分効果範囲内だ。

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

俺の足元を中心に緑がかった青白い光が、魔法陣のような模様を描いて広がり、二匹の魔物が燃え上がる。ほかの人間には影響ない。

「こんな、屁みたいな攻撃でやられるのは下級モンスターだけだ! 俺たちは・・・」

 男の魔物のセリフを待ってるつもりはない。

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

 消えかけた炎が再度燃え上がる。俺は一歩近づく。

 女の方は、俺の意図を察したようだ。羽根をはばたかせて飛び上がり逃れようとする。男は燃え上がりながら俺を睨みつける。

「こんなもんじゃ痒い程度だ・・・」

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

魔法陣の半径三十メートル圏内であれば、飛んでいても効果あるらしい。女は空中で燃え上がった。女は飛行を続け、圏外へ逃れて部屋の隅の柱の上の方の飾りにとまった。

 俺は歩みをゆっくりと進める。

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

 いちいち男性アナウンサーが宣言する時間が必要なのかもしれないが、使用回数に制限は感じられない。デテクトイビルで試験済みだ。

 ピアノの打撃音がするたびに、男の魔物が燃え上がる。城主の後ろを回り込んで、まっすぐ障害物なしに向き合ったとき、魔物が首を前に突き出すように振った。

 油断した!

 魔物の額から黒い角が伸びる。飛び道具のように、俺に向かってくる。身体をひねるようにして避けようとしたが、その物干し竿ほどの太さの角は、聖騎士の鎧を突き抜け、俺の左肩の鎖骨の下に突き刺さって背中に貫通した。

 伸びてきたのと同じ速さで縮んで、額に戻る。俺の左胸の上部に大穴があいて、血がごぽり、と噴き出した。やばい、致命傷なんじゃないか、これ。そのとき、左の甲が光った。新しい星、新しいスキルだ。

「キュアシリアスウーンズ・マイセルフ」

自動発動の癒しスキルだ。しかも致命傷を治す効果の。

 傷口は、あっという間にふさがり、痛みを感じる間もなかった。さらに年配のアナウンサー声も続く。

「セルフリペアー」

 鎧のスキルだ。大穴が銀色に光ったかと思うと元通りの鎧に戻ってしまった。

 なんて便利なんだ。いや、しかし、あの角が縮まずに刺さったまんまだったらやばかったんじゃないのか? 警戒しなければ。だが、とりあえず、今やることは、

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

反撃だ。

「この、聖騎士やろうが、こざかしい真似を・・・」

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

「まともに戦いやがれ、きさまなんぞ、軽く・・・」

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

別に、セリフを待ってやるいわれはないので、一歩前に踏み出すたびに精神集中してスキル発動する。

 上級魔族だかなんだか知らないが、さすがにふらふらしている。高いところから女が声をかけた。

「ゴーガン」それが男の名らしい「やせ我慢せずに逃げな! ゴミみたいな攻撃でも、やられちまうよ!」

そのアドバイスは明らかに逆効果だった。ゴーガンは俺と彼女を睨んで歯をむき出し、その場で意地を張ることを選択した。最悪の選択だ。

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

 ついに、ゴーガンからうめき声が上がる。

「ぐぎぎぎぎ、ちくしょう!」

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

さすがに、意地を張り続けられなくなったようで、距離を取ろうと羽根を拡げ、俺に後ろを見せて飛び立とうと羽ばたいた。

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

その広げた羽根が、燃え上がり、黒い墨になって崩れ落ち、飛び上がることはかなわなかった。

「ゴーガン!」

女の声は悲鳴まじりだった。

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

ついに、やつの身体は、城門のゴブリンたちのように燃え上がって燃え尽き、墨になってその場に崩れ落ちた。二メートル越えのゴリラのような巨体が、バケツ一杯分くらいの墨の粉の山になってしまった。

「なんて、チートなスキルなんだい! 七つ星のオリアルト! あんたの顔と名前、忘れないよ! いつかゴーガンの仇を取ってやる! 覚えときな!」

 魔物の女は、壁の高い位置にあるステンドグラスを割って、外に飛んで行ってしまった。

 たしかに、回数制限なしの小技で大物を倒すというのはチート行為かもしれんが。それにしても、彼女は名乗ってもいない。覚えとけと言われてもなあ。



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