第一話 復活の邪魔してごめんなさい
テンプレ的な、転生、俺ツエエエ、を書いてみることにしました。
週一くらいのペースでアップする予定です。
「あなたは七つのスキルを得ることができます。メジャースキルがひとつとマイナースキルが6つです。その証をあなたの身体に刻みます」
柔らかな女性の声が、どこからともなく響いてくる。あたりは白い光につつまれ、俺の身体はベッドに横たわっていたときの姿勢のまま、ゆっくり落ちていく。俺は、聖歌隊が着るような白いひらひらのローブをまとっていて、広がった裾が旗のように波打っている。上から金色に輝く星が列になって現れ、俺の落下に追いつくように落ちてきて俺の左手の甲に吸い込まれていく。どこかの映画会社のオープニングのような星の動きだ。数はよくわからなかったが、さっきの声の話からすると、七つなんだろう。
左手はちゃんと動く。手の甲を顔の前にかざすと、そこには星型のほくろが大小七つあった。中央に大きめの星、その周囲に正六角形の頂点を成して六つの星。これがスキルの証ってことか。
やがて落下が終わり、平らな面に仰向けに寝るような姿勢になった。小三の夏からずっと俺の生活の場だった病院のベッドの感じじゃない。硬い。硬くて、冷たい。しかも枕がなく、後頭部も背中と同じ高さだ。
さっきまで光に包まれていて、その光を見ていたはずなんだが、いつのまにか目を閉じた状態だった。
「さあ、目覚めなさい。あなたの新しい人生です」
その女性の声はどんどん遠ざかっていく感じだった。
さっき星を確認するために顔の前に持ってきていたはずの左手は、腰の横、身体の左側に伸ばした状態になっていた。もう一度動かしてみる。手指は動くぞ。
頭を持ち上げてみると、硬い面から浮き上がった。首を曲げて、頭を起こし、瞼を開ける。
まぶしくない。薄暗い感じだ。天井が高い。
教会の大聖堂のような。
俺の右足の近くに、ローマ法王みたいな恰好のおっさんが立っている。そして左足の近くには、五十くらいの男女が、寄り添うようにかがんでいて、それぞれ両手を合わせて指を組み、祈るようなポーズで俺を見ている。
あたりを見回すと、やはり大聖堂のようだ。装飾が施された柱や壁。ステンドグラス。そして木製の大きな扉の両側に、長槍を持った衛兵っぽいのがふたり。
「ここは? どこだ?」
誰に尋ねるでもなく声に出した。
すると、左側に居た男女が突然声を上げて泣き始め、二人で慰め合うように頭を寄せ合う。俺の言葉がなにか彼らにとってショックだったらしい。法王っぽい格好のおっさんが二人に声をかけた。
「ホーブラン、ディアルバルビラーダ(残念ですが、彼ではありません)」
聞いたことがない言語だったが、意味が分かった。
「バルドハーテア、ボラデイン(彼の魂は天に召され)バクア、ディアルソーブラン(別の魂が宿ったようです)」
長年病院のベッド生活で、読んだ本やゲームとかで得た知識に照らし合わせると、さっきの女性の言葉は、転生する俺へのメッセージで、ここは異世界の教会。僧侶による復活の呪文かなにかで生き返るはずの若者の魂は成仏してしまっていて、代わりに俺の魂が収まったってことだろう。さしずめ、左に居る男女はこの身体の持ち主の両親ということか。
「ダカハヒー、スクレガンバルトータ(すみません。彼じゃなくて)」
俺の口からも、聞きなれぬ言葉が自然と出た。それを聞いたとたん、母親らしい女性がさらに大声で泣きだしてしまった。
亭主と僧侶が慰めている。その言葉がストレートに頭に入ってくるようになった、どうやら俺の思考がこっちの言葉に切り替わったようだ。
「どうなさいますか? 彼を連れ帰りますか?」
気の毒そうに僧侶が夫婦に言った。
亭主の方が、妻が泣き続ける様子を見ながら答える。
「息子の魂が天に召されたのであれば、もう別人です。教会にお任せします。帰って息子の葬儀を出してやらねば」
亭主が妻を支えるようにして、大聖堂から出て行った。
上半身を起こしてそれを見送ってから、載せられていた石の台を降りた。裸足だった。ひんやりした石の床の硬い感触。ベッド生活が続いていた俺にとっては久しぶりの姿勢だ。身に着けているのは相撲取りのTシャツのようなダボダボの白いシャツだけだ。あの、落ちてく感じのときのひらひらローブではなかったが、似たようなものだな。着替えはあるんだろうか。
この身体の持ち主の親には捨てられたわけで、これからどうすればいいんだろうか。法王っぽい格好のおっさんを見ていたら、こっちの考えが伝わったらしい。
「ああ、心配することはないよ。こういうことはたまにあってね。どうするかもちゃんと決まっている。わたしは司祭長のビキッド・ハウアー。君はなんと呼べばいいかね?」
言われて自分の名前を答えようとしたが、純和風の俺の名前は、まったく似つかわしくなさそうだ。人差し指で自分の胸を指しながら訊いた。
「彼の・・・この身体の元の持ち主の名前はなんです?」
「オリアルト。家名のほうは、もう使わないほうがいいだろうな。わたしの家名を名乗りなさい。オリアルト・ハウアーと」
すんなりと自分の苗字をくれた司祭長に感謝しながら、頷いた。いい人みたいだ。この人に任せていいだろう、と思った。
「それで、オリアルト。君はいったん教会に所属することになる、教会の仕事を手伝って、聖職者として暮らし続けてもいいし、なにかの職に就きたいなら、教会が身元保証することになる。君は、元は何をやっていたのかね?」
「あ~、病人です。寝たきりの。まだ子供で、職に就いたことはありません」
資格も技能も経験もなし。さぞかしがっかりしてるだろうと思ったら、そうでもない。いや、そうでもないように振舞っているのかな、俺のために。
「なるほど。では、やりたいことが見つかるまでは、教会の手伝いをしなさい。左手の甲を見せてごらん。お、おお、すごいな七つ星とは、聞いたことがない。なにか使命をいただいているのではないかね? これほどのものを授かるとは」
「女の人に、ひとつのメジャースキルと六つのマイナースキルを授けるって言われましたが、何かをやれとは言われてません」
「再生の女神クノーティアの御言葉じゃ。ありがたや。ならば君は、好きなように生きるがよいだろう」
たぶん、あっちの世界の俺は寿命が尽きたんだろうから、元の世界に帰る方法とか探しても無駄だろう。こっちの世界で生きていくには、まず世界のことを知って、人の役に立てるような職に就かなきゃな。できればスキルが生かせるような。
七つもあるんだから、役に立つのもあるだろう、と思ったのだが、現実の厳しさを思い知るのは、その後のことだった。