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気がついたら本屋だった。

 私の名前はゾディア。


 もう数十年前から本屋に並べられている。


 自分で言っていて意味が分からないが、私はどうも本に転生したらしいのだ。


 何故か自分の名前以外の記憶がほとんど無い状態で目覚めたので、当初は激しく混乱したのだが数十年も経過したので、今ではあまり気にしなくなっていた。


 ちなみに私は本なのに人の話す内容が聞けるし、言葉も理解する事が出来たのだが話すことは出来なかった。


 せめて賑やかな場所ならば人の話を聞いたりして暇を潰すことも出来たのだろうが、私の置かれているこの本屋には無口な店主以外はほとんど人が来ない静かな場所だった。


 簡単に言えば暇な本屋である。


 私が目覚めた時の店主は既に引退しており、現在は息子に店を継がせたみたいだが、こんなに暇でよく潰れないなと私は逆に心配してしまう。


 しかし、それよりも私にはとある衝動が押さえられなくなっていた……


 それは……


『誰かと話がしたい。』


 本には口がないのであまり前だが、数十年も会話がないと凄く誰かと話がしたいという願望が日々強くなっていたのだ。


『何とかして会話をする方法は無いのだろうか?』


 そんな事を考えている間に、更に数年の月日が経過したのだがひとりの客により転機が訪れた。


「店主、娘に魔法書を買いたいのだが良いのはないか? オススメがあれば何冊でも買おう。」


 20代位の見た目が怖そうな男性が魔法書とか言うものを買いに来たのだ。


 娘の為に魔法書とかいう本を何冊も買うなんて、よほど娘が好きなお父さんなのだろうか?


「全部ですか? 魔法書はかなり高価な物なので1冊でもかなりの値段になりますよ?」


「ああ、お金に関しては気にしなくて大丈夫だ。」


 ドンッ


 男性は何かがいっぱい入った布袋を店主の前に置いた。


「えっ? これは全て金貨!?」


「いくら高い魔法書でも、これだけあれば足りるだろう。」


「足りるどころか店の商品全てを買えるくらいの金額ですよ!?」


「む、そうなのか? なら良さそうな魔法書を全て買おう。」


「……ちなみに娘さんの属性はなんですか?」


「全属性だ。」


「え? 全属性?」


 店主はお客の発言に物凄くびっくりしていた。


 何をそんなにびっくりしたのだろうか?


 記憶の無い私には分からない。


「全属性なんておとぎ話に出てくる英雄の部類ではないですか、それでしたら将来が楽しみですね。」


「そうなのだ。 俺は魔法に関してはさっぱり分からないが、娘はきっと天才魔法師になる筈だ。

 」


「なるほど、それで魔法書なんですね。 それでしたらいろいろなジャンルの魔法書などをいくつか集めて来ます。」


 そう言うと店主は私の置いてある本棚に来て、いくつかの本を選んでいく。


 おっ、もしかして私の置いてある本棚は魔法書なのか?


 自分が何の本か分からないが、近くの本が魔法書ならば私も魔法書の可能性は高い気がする。


『店主ー! 私も選んで!』


 これは数十年に一度の変化である。


 このチャンスを逃したら、また数十年も本棚に居ないといけないかもしれないのだ。


 ここにずっといる位なら、売られた方がよい気がする。


「こんなものかな。」


 店主は10冊近くの本を抱えてお客の方へいこうしてしまう。


『ああ! 私も!』


 私は店主に思いが伝われっと強く念じた。


 ピコン!


【念波を習得しました。】


 えっ、念波?


 最初は変な声が聞こえてきてびっくりしたが、何故か自然と違和感はなく念波の使い方が分かった。


 そして店主は向かって念波を使い、最後の一冊にして欲しいと祈った。


「あっ、全属性ならこいつも売るか。 たしか伝説の魔導書だとか親父が言っていたな。」


 思いが店主に届いたのか、思い出したかのように引き返して本棚から私を取り出してくれた。


『やったぁ!』



 そして、男性のお客さんはお金持ちなのか分からないけど、店主が選んだ魔導書を全て買っていった。


 私を買ってくれたおじさんは街で有名人なのか、街の人とすれ違う度に挨拶されたり感謝されたりしていた。


『このおじさんは何をしている人なのだろうか?』


 そんな事を考えているうちに男性の家に着いたみたいだ。


「ミリア、オリビア帰ったぞ!」


「パパ、おかえり!」


「あら、あなた。 そんなに沢山の本をどうしたの?」


「これは将来の天才魔法師であるオリビアが読むための魔法書だ。」


「私の本?」


「ああ、そうだぞ。 全部オリビアの本だ。」


「あなた、魔法書の文字はまだオリビアには難しいわよ。 通常、魔法書は学生ですら難しいのに3歳に買ってくるものではないわよ?」


「うっ、そうなのか? しかし、オリビアは天才だし、もしかしたら読めるかも?」


「無理よ。 まだ文字も簡単なものしか読めないのに魔法書の難しい文字は読めないわよ。」


「……そうなのか。」 


 おじさんは奥さんみたいな人からの指摘にがっかりしていた。


 しかし、魔法書は読むのが難しいのか。


「まあ、オリビアが成長したら役に立つかもしれないから無駄にはならないかもね。 オリビア、パパが本を買ってくれたからいつか読みましょうね。」 


「パパ、ありがとー!」


「おお、オリビアの笑顔は天使の様だな。」


「それじゃあ、オリビアが大きくなるまでは本棚に入れておきましょうね。」


「私も少し持つ!」


 オリビアが私を含む数冊の魔法書に触れた時に変化が訪れた。


【深淵の魔導を極めし王の適合者を確認しました。 オリビアをマスターとして承認しますか?】


 ん?


 深淵の魔導を極めし王の適合者?


 オリビアってこの3歳の子供だよね。


『承認します。』


 私はオリビアなら良いかなと、自然と迷わずに承認していた。


【マスターを得た事により魔導書ゾディアに封印されている記憶の一部と能力の一部が解放されました。】


 記憶の一部が解放された事により、私が前世では魔導を極めし王と呼ばれていた存在だった事を思い出すのだった。




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