学院の案内
どうも、綾瀬優です。今回は少し長くなりました。
洗い物をすぐに終わらせた俺は中央のテーブルへと移動し、席に座る。反対側にはミーナとアルティナが座って待っていた。
朝日が窓から差し込み、部屋の中を照らし出す。森が近いせいか小鳥のさえずりも聞こえて実に心地いい。
俺は席に座る二人へと質問する。
「さて、今更だが二人は何をしにここに来たんだ?」
「本当に今更だな…」
アルティナが呆れたように言った。シリアスっぽく言ってる時にツッコミを入れるのはやめて欲しい。シリアスっぽく言った俺が凄く格好悪いから…だがしかし、ここでやられっぱなしの俺ではないわ…!
「俺の手料理を美味しく食べてたのは誰だったかな…?」
「うぐっ……」
アルティナが言葉を詰まらせる。まったくもって正論なので言い返せないのだろう。俺は勝ち誇った笑みを浮かべてアルティナを見下ろした。
食器を洗っている時に聞いたが、朝飯は俺を呼んで一緒に食べるつもりだったらしい。ミーナとアルティナが朝飯を食べていないのも納得だ。
それはさておき、俺は視線をミーナの方へと移して話を進める。
「え、えと、今日私達がここに来たのはマナさんの件についてです」
予想はしてたがやはりそうか。ミーナは真剣な表情で話を続けた。
「詳しく言うとマナさんの今後の予定ですね……マナさんは学院長が言っていた通り、家庭向きの召喚獣なので主に家事をやってもらいます。でも、召喚されて一日目なのでいきなりやれと言われても困るでしょう?」
「ええ、まぁ」
「だからそれは三日後で構いませんよ」
三日後……か。それはありがたい提案だ。色々と試す事や考える事があるのでとても助かる。内心、ほっとしているとミーナはタイミングを見計らって、話の続きをする。
「それに、今日は休日なので学院はお休みなんです。ですので、ここの案内とか色々とやらなきゃいけないことが多いので…」
「今日はそれをしにここへ?」
「はい。そうですよ」
ふむ……なるほど。そういう理由か。面倒な事はちゃっちゃと終わらせたいのでミーナの意見には勿論、賛成だ。
(それに、俺は召喚されたばかりでこの世界の常識や知識に疎すぎる。それはあまりにも危険……。ならば、ミーナ達に教えてもらうしかないだろうな…)
俺はふぅ、と小さく息を吐く。今日の方針は大体決まっているので考える必要もない。この世界の常識を覚えるのはかなり大変だろうなと思って、内心頭を抱えていたが。
「うん、事情は分かった。俺の為にわざわざありがとう…」
「いえ、マナさんは私のパートナーですから当然ですよ」
俺がミーナに感謝の言葉を述べると、ミーナは嬉しそうに微笑んだ。
「では、早速行きましょうか!」
「………え?」
ミーナが席から立ち上がって言った。その言葉に俺は少し呆然とした。
「今すぐなのか?」
「ええ、ここは広いですから案内だけでもかなりの時間が掛かるんです」
「そうだな、この学院は色々と理由があって校舎の構造が複雑なんだ。新入生が迷子になるのはさほど珍しくない」
「へぇ……ってか、色々な理由?」
俺がアルティナに問い掛けるとアルティナは「ああ」と答えた。
「これは理由の一つに過ぎないが……ここは、この国で最も魔力の濃度が高い場所なんだ。それに魔力も高いと精霊も出やすくなるからな。校舎の構造が複雑なのは精霊の好みに合わせて造った結果だ」
「へぇ…」
俺は相づちを打ちながらMMORPGアルザストルーナにあった精霊についての記述を思い出す。
―――――精霊、それは魔力の濃度が高い場所からたまに生まれてくる魔力に自我が芽生えた存在。精霊は下級、中級、上級、超級というように分類されており、ごく稀にだが、超級を上回る王級というのもいる。王級の精霊は一般に精霊王と呼ばれており、人々から崇められている。
精霊にはそれぞれ決まった属性があり、火属性、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性という様に六つに分類されている。そして、精霊と契約することを精霊契約と呼ぶ。精霊契約をすると、少量の魔力でも強力な魔法を使用することが可能になる。
しかし、精霊は珍しい上にとてもデリケートな存在のため、精霊契約を交わすこと自体が非常に困難である。例えば精霊に好かれやすい人もいれば、逆に嫌われやすい人もいるということだ。
精霊契約による恩恵などは個体により様々な種類がある。そして超級以上の精霊は人の姿をしている事が多く、言葉を交わす事が可能の高度な知的生命体である。
まぁ、もちろん。それはMMORPGアルザストルーナの物語上の設定なのでプレイヤーが精霊契約など出来るわけがないが。
「じゃあ、日も完全に昇ったみたいだし行こうか」
「ええ、そうですね!」
俺は窓から外の様子を見る。暖かい日差しが目立ち、だいぶ明るくなっている。時間は大体七~八時くらいかな、と目測する。
俺達は椅子から立ち上がって小屋を出た。外に出ると俺はミーナとアルティナの後について行く。しばらく歩いていると白を基準とした清潔感のある学院の正面玄関に辿り着いた。
反対側を見れば見上げる程の巨大な正門があり、その両端には警備員が立っている。
「おぉ、こりゃ凄い」
俺が驚いているとミーナの隣を歩いていたアルティナがこちらの方へと向き、口を開いた。
「それはそうだろう。ここは貴族の者だけが通える学院だからな」
「へぇ、そうなのか。………ん?…ならミーナとアルティナも貴族なのか?」
「ええ、一応、貴族です」
「一応?」
俺はミーナの言葉に違和感を覚えてつい聞き返した。ミーナの表情が少し陰る。その表情から察するにあまりこの話に触れてはいけないと感じた。
「話たくないなら話さなくていいぞ…?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、マナさんは私のパートナー、だからこのまま黙っておいてもいずれ知る事になると思いますので……………また後でお話いたしますね」
そう言ってミーナは笑ってみせるが、その表情はやはり少し陰っていた。
「……………分かった」
俺は一言呟くと話を変えるために辺りを見回す。俺達は学院の正面玄関へと向かって歩いているが、特にこれといって気になるものがない。
(ヤバい……さっきの重い話のせいで会話しづらいし続かない……!)
俺が内心苦悩していると重い空気に耐えきれなくなったのか、アルティナがミーナに話し掛けた。
「そういえば、ミーナ。学院を案内すると言ってもまずどこから案内するんだ?」
「そうですね…。まずは近くにある図書館からでしょうか?」
ミーナが確認するかのようにアルティナへと言葉を投げ掛ける。
「ああ、なるほど。確かにあそこならそこまで距離があるわけでもないしな」
アルティナが納得すると俺たちは図書館へと向けて歩き出した。図書館はミーナが言った通り、すぐ近くにあった。時間にして約一分程。
「ここが図書館なのか……」
俺は図書館に入ると驚きと共に呟く。中を見回してみるが図書館の広さは高校の体育館より大きいのではないかと思うくらいだ。もはや図書館より大図書館と呼んだ方が適切ではないだろうか…?
見渡す限り本、本、本。どこを見ても本が本棚にぎっしり並んでいる。更には図書館の中央が吹き抜けになっており、二階、三階とはっきり見える。てか、ここの図書館三階もあるのかよ……!
「見ての通り、ここが学院の図書館です…」
「でかすぎるだろ…書物が十万三千冊くらいあるんじゃないか?」
「何故そんな微妙な数字なんだ…?というより、さすがにそこまではないだろ…」
アルティナがツッコミを入れた。
「大体、どんな種類の本が置かれているんだ?」
「いろいろですよ。ここ一階は初級の魔法書や授業で習う範囲の歴史書、魔物に関する図鑑などが置かれてます…」
ミーナは説明しながらどの場所にあるのかを指を差して教えてくれる。それは実に分かりやすくて助かる。
「へぇ……」
「二階、三階は私達の学年は立ち入り禁止なのでまだ何が置いてあるかは大体でしか分かりませんけど……」
「………ん?…大体でも分かるんだ…?」
俺の疑問にミーナは笑顔で答えてくれる。
「はい、私達はまだ一学年ですから。学院の案内の時に先生が説明してくれました。二階、三階と上へ進むごとに置かれている本の重要度も上がり、二学年の生徒は二階まで、三学年の生徒は三階まで閲覧可能になっているんです」
説明を聞いた俺はある程度理解した。二階、三階には一階の内容からすると中級や上級の魔法書があるのだろうと推測する。それはたぶん、事故防止などが目的で決められているのかもしれない。
「学年ごとに決められているのは事故防止とかのためなのか?」
「ええ。そうですよ」
一応、ミーナに聞いてみたが予想通りの答えが返ってきたので俺は「やはりか…」と軽く頷いた。
「休日に生徒がここへ来るとは意外だ……しかもこんな朝早くに」
左側から声がしたのでそちらの方へと視線を向けるとそはこには長身の男性がいた。灰色の髪に刃物のように鋭い目。生徒とは違うデザインの服装をしている。
「あ、グレイド先生…!おはようございます。あと今は八時くらいなので朝早くにとは言いませんよ」
「ああ、おはようミーナ・クロスフィア。……それからアルティナ・ランデスト」
「おはようございます、グレイド先生」
ミーナとアルティナはグレイド先生と呼ばれた男性と挨拶を交わす。
「それで……後ろにいるもう一人は誰だ?」
元から鋭い目が俺を捉えると更に鋭さが増した。もうこの視線だけで人殺せるんじゃね?って思うくらいだ。だからその鋭い目で俺を見ないでくれませんか?めっちゃ怖いから……。
「えと、一応私が召喚したマナさんです」
「召喚……召喚獣か。だが、人の形をした召喚獣は聞いた事がないな」
「ええ、召喚した私も正直驚きました…」
だから俺は召喚獣ではなく人間ですって……。ミーナとアルティナは知ってるはずなのに何故、訂正しないのだ……。
長身の男性もといグレイド先生は、顎に手を当てて何か考える素振りをする。
「学院長には報告したのか?」
「はい、一番に」
「そうか……なら問題ない」
(問題ないのかよ……)
つい心の中でツッコんだ。今朝会った学院長を思い出すがこの学院は大丈夫なのだろうかと何度も思ってしまう。
「グレイド先生こそ何故ここに?」
「少し調べものをしていてな。まだ時間が掛かりそうだからオレはもう少しここにいるつもりだ」
「そうですか…。私達はもう行きますね」
「そうか」
グレイド先生は短く答えると左側の奥にある階段を上っていった。
「ふぅ…怖かった」
グレイド先生の姿が見えなくなると俺は小さく息を漏らして呟いた。
「……それには私も同感だ」
「ああ、だから今まで挨拶以外で黙っていたのか」
「特にあの目が……な」
「あー、分かるぞそれは」
「二人とも失礼ですよ…」
俺がグレイド先生の怖さをアルティナと共感していると、苦笑したミーナに注意された。確かに失礼だな、と反省するがあれは仕方ないと思う部分もある。
「そういえば次はどこへ行くんだ?」
「そうですね……。食堂と教室はそんなに距離が変わりませんから……マナさんはどっちがいいですか?」
「んー、じゃあ食堂で」
「はい…!」
こうして俺たちは食堂へと向けて歩く。いくつもの廊下と階段を通り、5分程で食堂に着いた。
「ここ……食堂というよりレストランって言った方が適切なんじゃない?」
食堂を見た俺の第一声がそれであった。扉は大きく、その隣には看板が立ててある。中は煌びやかな装飾に高級そうな調度品、テーブルなどもかなり凝った作りになっている。
奥の厨房からは音が聞こえるので、多分料理の下準備をしているのだろう。食堂に流れる曲は心を落ち着けるような実に心地のよいものだ。
「えと、レストランというとここよりもう少し大きな所ですよ?」
「いや、ここも十分大きいだろ。ここが高級レストランに見えるのは俺だけか?」
(貴族って普段どんな生活してんだよ……てか、どんだけ金あんだよ…!)
心の中でも俺はツッコミを入れた。いや、もうこれは当然の疑問か…。そんな事を思いながら俺はよく辺りを見ておく。
「あら、ミーナちゃんにアルティナちゃんじゃないかい。どうしたんだい?こんなところで…」
奥にある厨房から声が聞こえたのでそちらの方へと視線を向ける。そしてそこで俺は驚愕した。厨房から出てきたのはおばちゃんといっていい歳の女性。いかにも学食にいそうなおばちゃんである。しかし、服装はコック長が着るような服である。おまけに帽子まである。
(えぇ……見た目は学食のおばちゃんなのに食堂(高級レストランだろう)で働いて格好もコック長って……違和感しか感じねぇ…!)
「あ、バーデルネさん、おはようございます」
「バーデルネさん、おはようございます」
「ああ、二人とも元気そうでなによりだよ」
そういって学食のおばちゃんもとい、バーデルネさんはにかっと笑って見せる。
「ところでそっちの嬢ちゃんはお友達かい?」
「俺は嬢ちゃんじゃない」
バーデルネさんが間違った事を言ったので取り敢えず訂正しておく。俺の訂正に疑問を覚えたのか、バーデルネさんは不思議そうな顔をする。そうだよね、皆最初はそんな顔をするよ…。
「…なんだい?だったらミーナちゃんの彼氏か何かかい?」
「か、かか彼氏ッ!?ち、ちちち違いますよッ!!わ、私と彼はそんな関係じゃありませんッ!!」
バーデルネさんの言葉にミーナは顔を真っ赤にして否定する。
(いや~、純情だねぇ…)
ミーナの様子を見てそんな事を思う。
「まぁ、ミーナちゃんたちの関係は詮索したりなんかしやしないよ」
「そ、それはそれで助かります…」
「ああ、そうだ……ここへ来たってことはいつものやつかい?」
「あ、いえ、今回はマナさんに学院の案内をしているんです。今後、使うかもしれない場所を優先して順番に。覚えておいて損はないですから…」
「マナさん……?その後ろの嬢ちゃ………坊っちゃんのことかい?」
「ええ、そうですよ」
おいこらおばちゃん、今俺の事を嬢ちゃんと言おうとしただろ……。正直、言い直しても坊っちゃんはどうかと思う。間違えなかったのはいいことなんだけど……なんだか複雑な心境だ。
「コック長ーッ!今朝の分の下準備できましたーッ!」
「あいよーッ!!」
奥の厨房から部下らしき人がバーデルネさんを呼ぶ。バーデルネさんってコック長だったのか…。学食のおばちゃんにしか見えないのに…。
バーデルネさんはすぐに返事をするとこちらへと向き直る。
「すまないねぇ、ミーナちゃん。あたしはまだ仕事あるから戻らなくちゃ」
「いえ、お気になさらず…」
「いいよ、そんなに畏まらなくたって」
バーデルネさんは軽く手を振る素振りをして笑う。
「コック長ーッ!!まだですかーッ!!」
「うるさいねぇ!!今行くところだよっ!!静かにしてなッッ!!」
「ひぃっ…!す、すみませんでしたッ!」
バーデルネさんは苛立たしげに叫ぶと厨房にいる部下の人は怯えて謝った。なんだか部下の人が可哀想に思えてきた…。
「はぁ、まったく……ここの生徒には困ったもんだよ。休日でも食いに来るから忙しいったらありゃしない」
「そう言ってる割には顔が嬉しそうに見えるけど…?」
「おや、言うねぇ、坊っちゃん!」
「出来れば坊っちゃんはやめてくれ」
「じゃあ、嬢ちゃんがいいのかい?」
「はは、勘弁してくれよ…」
そう言って俺は乾いた笑みを浮かべる。
「さて、そろそろほんとに戻らなきゃ、うちの部下がうるさいからねぇ……それじゃあね」
バーデルネさんは俺たちに背中を向けると奥の厨房へと姿を消した。なんというか、部下には厳しい感じの人……なのかな…?それに失礼だと思うがとてもコック長には見えない。
「あのバーデルネって人、コック長だったんだ…」
「ああ。彼女は貴族ではないが腕は確かだ…」
「そうなの?」
「なんでも料理の世界大会で優勝したことがあるらしい」
「ええぇッ!?」
アルティナの情報に驚愕して思わず叫ぶ。意外過ぎるだろ……。何度も言うが、見た目は学食のおばちゃんなのに料理の世界王者だなんて…
俺は口を半開きにしてしばらく呆然とする。そして俺は思った事を口にした。
「何でそんな人がここで働いてるんだよ……」
「学院長がバーデルネさんをを雇ったそうですよ」
「マジか…」
世界トップの料理人を雇うなんて……最早呆れてものも言えない。いちいち気にしてると持たないので俺はいくつか質問をミーナにする。
「それで、ここってやっぱ使う人多いのか?」
「ええ、それはもう多いですよ。どのお店よりもここの料理が美味しいと評判ですから」
「でしょうね……世界一の料理人が料理作ってるわけだし」
「ミーナもここをよく使うのか?」
「……いえ、私は自炊ですよ」
「…え?貴族なのに?」
俺は思わず面食らう。てっきりミーナもここを使ってると思ったのだが……意外な答えが返ってきたな。
「……自炊している理由もまた後でお話しますので、次へ行きましょうか…」
「あ、ああ。分かった」
今のミーナの表情はやはりどこか暗い。俺はその表情とさっきの言葉から、学院の正面玄関で言っていた事となにかしらの関係があるのだろうと推測する。
アルティナの方も今は沈黙していて何も言おうとはしない。俺たちは食堂を抜けて廊下へ出る。
「次はどこを案内するんだ…?」
俺は歩きながらミーナに話し掛けると、ミーナは気を取り直すように軽く頭を振る。
「そうですね……次は教室に案内します」
「それって必要あるの?」
「ちゃんとありますよ。もし、私が忘れ物などをした時に届けて欲しいですから」
「そういや俺は家庭向きの召喚獣って扱いでしたね…」
「当然、私のお世話も入ってますよ♪」
「さいですか…」
そう言ってミーナはにこっと笑ってみせる。実に笑顔が眩しい。ほら、その眩しさを抑えてよく見てごらん。こんなに嫌そうな顔をした人が………………いるわけでもないか。
まぁ、今後の話はまたするそうだしそんなに急ぐ必要もないか…。少し気楽過ぎるかなと思うが、俺はゆっくりやっていけばいいと考え、これからの生活や、しなければならない事などをあらかじめいくつか予想しておく。
もちろん、不安な事は山ほどある。それでも…この異世界で生きていくためにはやらなければいけないことだ。今の貧弱なステータスでは俺なんかすぐにあの世行きだ。後戻りは出来ない、先に進むしかないと、自分の中ではもうとっくに答えが出ている。
(だからこそ、今を……この現実をちゃんと把握し、その先を見据えていられる)
(そしてそれは、普通の高校生ならしない考え方なのかもしれない。もっと違う反応をする可能性だってある。例え普通ではないと自覚していても、俺は―――――)
「マナさん?どうかしたんですか?」
ミーナが心配そうに俺の顔を覗いている。考え事をしていたせいか、俺は今更気づいた。とても顔が近い。気のせいか、ミーナからいい匂いがした。
「え、あ、いや、少し考え事をしていただけだよ」
そう答えると俺はすぐにミーナから距離を取った。少し顔が熱い。
「そうですか…?なら、いいですけど……」
ミーナは俺を見て不思議そうに小首を傾げる。顔が近かったことに気づいていないはずがないと思うんだけど……。基本、彼女は控えめな性格だがたまに抜けているところがある……のだろうかとその時の俺は思った。
「そう言えば案内するのってもしかして……」
「ああ、私とミーナのクラスだ」
「やはりか…」
アルティナの言葉に俺はなるほどと納得すると、ミーナとアルティナの後ろについていく。太陽の位置を見るに約十時頃、こうして俺たちはミーナ達のクラスへ向けて学院の廊下を歩いていった。
次も少し長くなるかもしれません。(多分)