アイテムボックスを確認してみる。
暇潰しに読んでいただければ幸いです。
まだ日が昇りきっていない早朝、俺は目を覚ますと寝ていたベッドから降りる。辺りは薄暗く、外は霧が少し目立つ。
「あの夢は何だったんだ…?」
今日、見た夢の内容を思い返しながらひとり呟く。実に不思議な体験だった……夢だと言うのに内容をハッキリと覚えている。普通は忘れていると思うし覚えていたとしても大体であり、あまり気にしない。
「………………………………………………はぁ」
しばらく沈黙し、もう一度辺りを見渡してため息を吐いた。
「本当に異世界に来てしまったのか……」
今までの事をいっそ夢だと思いたいが、この肌寒い感覚が夢ではないと教えてくれる。まだ少し寝ぼけてはいるものの、俺はゆっくりと歩きながら水場へと向かう。
水場はこの小屋の裏側にあり、その先には森がある。俺は水を手で掬い上げて顔を洗う。水の冷たさが染み渡ってくるのでとても気持ちがいい。
「ぷはっ、……あー、スッキリしたー」
顔を洗い終わった俺は小屋へと戻る。ちょうど小腹が空いたので何か作ろうとして食材を………
「あれ?そういえば食材がないな……」
調理器具や台所はあるが、肝心の食材が一つもない。いや、当たり前か……。長いこと使っていないらしいので、食材が置いてある訳がないか。
さて、どうしたものかと悩むものの、いい案が思い浮かぶはずもなく刻々と時間は過ぎていく。
「そう言えば、この世界にはステータスがあったな…。もう一度自分で確認しておくか」
どうやって確認するのか分からないが、取り敢えず頭の中でステータスと念じてみる。
するとブゥン、と機械のような音がしたかと思えば俺の目の前には緑色をした薄い板状のものがでてきた。間違いない……これが昨日、学院長室で見た俺のステータス表だ。
それを認識すると俺はすぐに自分のステータス表を見た。
―――――<ステータス表>―――――
LV:1/1
名前:マナ・ヤトガミ(夜刀神 真奈)
職業:なし
HP:50/50
MP:0/0
攻撃力:13
防御力:78
魔法攻撃力:10
魔法防御力:80
素早さ:230
命中:42
回避:169
<称号>
・異世界人 ・ゲーマー ・男の娘 ・影に潜む者 ・奴隷契約を結んだ者
<特殊スキル>
・言語理解 ・言語通訳 ・レベル制限 ・【ソウルリバース】
―――――――――――――――――
「ん?少し変わってるな…」
よくみたら名前がマナ・ヤトガミとなっているし、職業が消えている。
初めて見るが、今度は新しく称号や特殊スキルなども記載されている。
「いや、なんだよ男の娘とか影に潜む者とか……。確かに高校とかでもよく少女と勘違いされたり、人の影にいたけどさ…」
なんとも言えない雰囲気の中、俺は称号の詳細から見てみる。
<称号>
・異世界人
[全てのステータスが上昇する]
・ゲーマー
[物事に対する集中力が上昇する]
・男の娘
[見た目が少女から美少女クラスにアップ♪]
・影に潜む者
[気配の遮断が得意になる]
・奴隷契約を結んだ者
[契約者により、制限が課せられる。また、職業が空白になる。再び習得する事は可能]
「………………………………………」
「………………ちょっと待てぇぇええええッッ!!」
「なんだよ!称号の男の娘ってやつ!完全に嫌がらせか何かだろ!?他の称号の効果は分かるが今の見た目からこれ以上クラスアップしてどうしろと言うんだっ!!そして「♪」が地味に腹立つわ!!」
声を荒げて叫んだ俺はハァ、ハァ、と息を吐き、深呼吸をして心を落ち着かせる。それと何故、職業の部分が変わっていたのかを理解することが出来た。
「………く、この際気にしても仕方のないことだ……次いこ、次」
<特殊スキル>
・言語理解
[全ての言葉を理解することが可能]
・言語通訳
[自身の言葉が何語であっても相手に通じる]
・レベル制限
[レベル1が上限値になる]
・【ソウルリバース】
[???]
言語理解や言語通訳はかなり便利なスキルだが、レベル制限というマイナスのスキルが大き過ぎて差し引いてもプラスにはならない。
更になんかよく分からないスキルもあるし……。???ってなんだよ、効果がランダムとかなのか?
『困った時は【ソウルリバース】と左胸に手を当てて言えば、私はいつでもお前を必ず助けに来る』
「………………………ッッ!!」
何故か今、夢の中で言われた事を思い出した。そうか、確かにこのスキルはレン・クロスフィアから貰ったものだ。でも何故このスキルを持っている?…もしかしたらあれは夢ではなかったのか?
自問するも、答えが出てくることはないので、俺は思考を切り替える。
「………異世界だからって理由かもしれんが……一応それで納得しておこう……」
ぐぅ……という音と共に空腹感が俺を襲う。そろそろ本格的に腹が減ってきたので俺はステータスを閉じた。
ぬぅ…やっぱりどこかで食材を調達しなきゃいけないのだろうか……?
(はぁ、……こんなことならいっそメニューとか出てきてくれないものだろうか……)
(…………………………………………………………………………)
(ん?メニューだって?)
なんとなくそう思った俺だが、自分の言葉にある可能性を見つけた。もし、MMORPGアルザストルーナの時と同じようにメニュー画面のようなものを開けるのだとしたら……?
(やってみる価値はある……か)
俺は目を閉じてメニューと念じてみる。すると目の前に青色の板状のものが現れ、仄かに薄暗いこの部屋をぼんやりと照らした。色は違えどステータス表と同じようだ。
メニューを覗いてみると上から順に、スキル欄、装備欄、アイテム欄、というように別れている。そしてアイテム欄は食材、道具、素材、貴重品の四つにそれぞれ分類されている。
メニューを開け、アイテムボックスもあることを確認した俺は「ふぅ…」と小さく安堵した。
(助かった…。ますますゲームのようだが、この際何か食えるのならどうでもいいか)
俺はアイテム欄を操作して食材を見ていく。
「ふむ、ホワイトミルクにコカトリスの卵、炎龍の極上肉、夢見の果実………って、久しぶりに見たけど食材の量が大変なことになってるな……」
他の食材も見ていくが、それぞれの量が三桁を越えている。せめてアイテムボックスの中で保存しておくと腐る事がないと信じたい。
一時期、食材集めにハマって全ての食材を集めてたっけ…。苦労したなぁ、なんせボスモンスターまで食材アイテムが出たりするんだから。
懐かしき思い出に浸りながら何の料理を作ろうかと考える。
しばらくして、あらかた作る料理を決めた俺は台所へ向かうとその上にアイテムボックスから食材を引っ張り出す。
「コカトリスの卵、黒煙豚のベーコン、上質な植物油、味噌、光沢した米………うん、このくらいでいいか」
台所に食材を乗せた俺は、周りの調理器具を調べて服の袖をめくり、手を洗う。
「よし、やるかっ!!」
両手で頬を軽く叩いて気合いを入れると、俺は少し心踊らせながら料理をするのであった。
一応、ゆっくりやっていきます。