レン・クロスフィア
どうもこんにちは。いつもマイペースでやっております。
ミーナ達と学院長室から出て俺は地図を見ながら目的の部屋へと行ったが……
「部屋というよりは小屋だな…」
「…そうみたいですね…」
月と星が夜空を照らす中、俺達は学院寮の外れにある少し古びた木製の小屋の前にいた。場所が間違っていなければここで俺が住むことになる。
「取り敢えず中に入ってみましょう…」
「ああ、そうだな」
ミーナに促されて小屋の中に入る。やはりと言うべきか小屋同様に古く、所々に傷が見られる。結構な時間使用されていたのが一目で分かった。
机、椅子、窓が一つ、ベッドも一つか。もう長い間使用されていないのか少し埃が被っている。野宿するよりはマシだが、使う前に掃除しなければならないようだ。
「………………私、学院長に同室にするように申請してきます」
「いきなりどうしたっ!?」
小屋の中を見て沈黙していたミーナがいきなり突拍子もないことを言うので思わず叫んでしまった。アルティナの方へ目を向けると額に手を当てて溜め息を吐いていた。
「ミーナは綺麗好きだからな。こういう埃まみれのところは嫌いなんだよ…」
「それで同室を許可するとかやべぇな…」
「まぁまぁ、そう言ってやるな…」
「お二人とも…何か言いましたか…?」
「「いえっ!何もっ!」」
アルティナと二人で話してたら背後から物凄く黒いオーラが漂って来たので無意識に姿勢を正した。どうやらアルティナも同様らしく、綺麗に背筋を伸ばしていた。頬には一筋の汗がタラーっと流れていた。
どうしてだろう?…笑顔なのに恐怖を感じるのは…。この時の俺はミーナを怒らせまいと固く誓った。まぁ、怒っているのか分からんけど。
「同室の申請は嬉しいけど流石に汚れてるって理由だけでは通らないと思うぞ?…だから俺はこのままでいいよ」
「…………そうですか」
重い空気(というかオーラ?)に耐えかねた俺は話を終わらせるべく同室の申請を断っておく。ミーナは俺に可哀想な目を向けていたが気にしないで置くことにした。
「……とにかく場所はここであってるようだしそろそろ自室に戻ろうか…。また明日にでもここに来ればいいだろう」
「それもそうですね…」
「マナもそれでいいか?」
「ああ、構わないよ」
アルティナの提案に乗ることにした俺は別れを告げると、ミーナとアルティナは「お休み」と言って小屋から出ていった。
「………さて、どうしたものか」
俺は今までに起きた出来事を頭の中で確認しようとベッドに腰掛けようとしたが…。
「まずは掃除からだな…」
部屋中の埃を見るなり苦笑いをするのであった。
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「…ん?」
気づくと俺は見知らぬ場所に立っていた。
「そう言えば…俺は掃除したあと眠ったんだっけか…?」
周りを見渡しながら俺は状況を整理する。どこまでも続くモノクロ世界に辺り一面に咲く彼岸花。しかしその花びらだけは毒々しくも美しい鮮烈な赤に染まっていた。
「…………………………夢か…」
一瞬で答えが出た。いつの間にか眠っていたらしい。辺りの景色は普通ではあり得ないので夢だと断定した。俺は彼岸花のない道を数分歩くと、岩の上に誰かが座っているのが見えたのでそちらへと歩を進める。
「あれは…。まさか……」
段々と近づくにつれ姿がはっきりしてきた。そしてそれは俺がよく知っている姿をしていた。
「レン・クロスフィア…」
MMORPGアルザストルーナで使っていたアバターの名前を口にした。白金色の腰まで伸びた髪に整った顔立ち、黄金のような瞳はまるで鋭利な刃のように冷たく鋭い。身長は170センチ程あり、アルザストルーナで使っていた装備一式を身に付けている。
俺の発した声に気づいたのか、レン・クロスフィアは俺の方へと視線を向ける。
「…………………………………意外と可愛いな…」
「……………………へ?」
声を発したかと思えば第一声が予想斜め上だったので俺は口をポカンと開けて間抜けな顔をしてしまった。第一、声を掛けられるとも思っていなかったのだ。間抜けな顔をするのも無理はないだろう。
「ふむ…奴から聞いていたが私の予想を遥かに上回る可愛さを持っているようだな」
「……ち、ちょっと待ってくれ。話が見えないんだけど…?」
レン・クロスフィアは何やら一人で納得しているらしく、ふむふむと小さく顔を上下に揺らしながら頷いていた。その姿は最初に見た印象とかなり違うものだった。取り敢えず、俺は少し混乱しているので深呼吸をして心を落ち着かせた。
「何故、レン・クロスフィアが……いや、夢だから何でもありか…?」
「……言っておくがここは夢に似て全く非なるものだぞ」
「どういうことだ……?」
俺は眉を寄せ、レン・クロスフィアへと問いかける。
「……ふむ、…そのままの意味だが…。そうだな、分かりやすく言うとまぁ、精神世界というやつだな。そう思ってくれて構わない」
「精神世界ねぇ……」
「そう疑うような目を向けるな。表現的にはかなり近いのだから間違ってはいない」
ジト目を向ける俺にレン・クロスフィアは嫌そうな顔をする。仕方がないだろう。いきなりそんな事を言われてもそうそう信じられない。
「……で、さっき言ってた"奴“って誰の事なんだ?」
何気に一番気になる事を聞いてみる。それを聞いたレン・クロスフィアは顔を曇らせて申し訳なさそうにする。
「すまないが、それは教える事は出来ない。……ただ、そいつはお前に危害を加えることは絶対にない」
「それに、“奴”は私を創造したのが…………夜刀神・真奈だと教えてくれた。そして私に人の心を…感情をくれた」
「…………………………………」
「お前は私を創造し育て、“奴”は私に人としての大切なものを刻み込んだ」
「………………そうか」
もし、この話が夢などではなく本当だとしたら俺は“奴”というのに感謝しても仕切れないだろう。自分が一から育て上げ、とても大切にしていたキャラクターだ。それに人格を与え、こうして会話させてくれるだけで……例えそれが夢であったとしても俺はとても幸せなんだろうな。
自然と頬が緩んでしまう。それにつられるようにレン・クロスフィアもほんの少しだけ口角を上げた。
「真奈は…どっちなんだ…?」
悩むような顔をしたレンが俺に問い掛ける。俺は訳も分からずその質問を質問で返した。
「………?……何が?」
「性別…」
「はぁっ!?」
予想外の答えが返って来たことに驚愕した。お前もかよ!…と心の中でツッコミを入れて、表面的には冷静を装って答える。
「はぁ…………男だけど」
「ふむ、そうか……そうなのか」
その答えを聞いたレンは、どこか安堵したような感じがした。
「何故、急にそんな質問を?」
「いや、見た目は少女なのに口調が男なのでな…。正直どっちか迷っていた」
「うん、知ってた。てかもう慣れた」
初対面の人は大抵間違えるし、同じような反応をする。今までに間違えたことのなかった人は俺の妹と姉くらいなものだ。
「で、実際に本人と会ってみてどう思ったんだ?」
「……そうだな。………嬉しさ半分、残りは意外な感じだったな」
「意外……ねぇ…」
「私の想像していた人物とはかなり違っていたからな。意外だとも思うさ」
「因みにどんな人物を想像してたんだ……?」
レン・クロスフィアは「そうだな…」と呟いくと空を見つめて話し出した。
「もう少し歳をとっていて男らしい感じの人物を想像していた」
「男らしくなくて悪かったな…」
「男らしくないのは事実だからな」
「うぐ…」
「まず格好からしてアウトだ」
「いや、シャツにパーカー、長ズボンなんだけど…?」
「服ではなくて、髪型とかだな。少し幼い顔立ちにその髪の長さは少女にしか見えん。しかも、男物の服装をしているせいで好きな人の服を着ちゃう系の少女のように見える」
「ちょ、おま、なんでそんなに詳しいの?」
俺がゲームで作ったキャラクターなのに何故現代の事について詳しいんだ…。おかしいだろ…。
「"奴"が私に真奈の記憶の一部を入れたんだ。それなら知っていて当然だろう?」
「いや、そんなこと言われても…」
前言撤回。おのれ"奴"め、俺の大切なレン・クロスフィアに変な知識を吹き込みよって…。もし会うことがあるのならその時に一度しばいてやろうか……。
俺が"奴"をどうしてやろうかと考えているとレン・クロスフィアは少し沈黙した。
「…………………どうやらそろそろ時間のようだ」
レン・クロスフィアがモノクロの空を見上げて少し寂しげに呟いた。俺もその声につられてモノクロの空を見上げる。
空にはいくつかの小さな亀裂が入っていた。それは時間が立つにつれ、段々と大きくなっていく。
「……まるで世界の終焉を思わせるような景色だな」
「だが、幻想的で綺麗だろう?」
「それもそうだな」
レン・クロスフィアの返しに俺は苦笑した。モノクロの世界が半分くらい崩壊したところで何かを思い出したかのような仕草をする。
「そういえば忘れていた。お前にこれをやろう」
そう言ってレン・クロスフィアは俺の額に指先を軽く当てて目を閉じた。すると指先からぼんやりとした光が宿ると数秒で消えた。何をされたのか分からず俺は首を傾げる。
「困った時は【ソウルリバース】と左胸に手を当てて言えば、私はいつでもお前を必ず助けに来る」
「助けに…?」
「ああ、そのステータスではもしもの時に対応することが出来ないだろう?」
「まぁ、それはそうだが…」
どうやって助けに来るのか謎だが、反論出来ないところが痛い。ここは元の世界とはまるで違う。何が起こるか誰にも分からないし、備えはいくつもあった方がいいだろう。
「ありがとう、レン・クロスフィア」
モノクロ世界がほとんど崩壊した中で、俺はレン・クロスフィアに感謝の念を伝える。それを聞いたレン・クロスフィアは、ふっ…と微笑むと口を開いた。
「私の事はレン・クロスフィアではなく、レンと呼んでくれ。………次に会う時を楽しみに待っているよ」
モノクロ世界の崩壊と共に俺の意識も薄れていく。そんな中で、レンはその言葉を残すとどこかへ歩き去っていった。レンの背中を見て、どこに行くのだろうかと考えていた俺は背中が見えなくなると同時に完全に意識を失った。
もう少し会話増やそうかと思います。