学院と学院長
投稿遅いですがちょくちょくやっていくつもりです。
広々とした廊下をミーナ、アルティナ、俺の順で静かに歩く。
辺りは朱色に染まっていて正確な時間は分からないが夕方だということだけは分かる。
多分、ミーナは放課後に残って召喚魔法の練習をしていたんだろう。それにアルティナが付き合っていた感じかな…。
ここ、魔術学院は白を基準とした建物で清潔感がある。ミーナに教えて貰ったが土地の面積はとんでもなく広く、近くにある森も敷地内らしい。他にも敷地内には森だけでなく、闘技場や訓練場、更に訓練用の迷宮まであるそうだ。
一体どれくらいの資金と労力が必要なのか想像出来ない。
ふと、俺は学院長がどういった人物なのか気になったのでミーナに聞いてみることにした。
「ところで…学院長ってどんな人なんだ?」
「学院長…ですか?」
ミーナがこちらを向いて聞き返す。
「ああ、どういった人物なのか聞いておきたいんだ…」
「何故そんなことを聞くんだ?」
アルティナが不思議そうに疑問を口にする。
「ん、まぁ、興味本意かな……」
「……そうか。私は学院長はあまり好きではないな…」
アルティナが少し不機嫌そうに呟く。隣にいるミーナはそれを見て苦笑している。
「クロスフィアさんはどうなんだ…?」
俺はアルティナの隣にいるミーナに聞く。すると二人とも意外そうな顔をして俺を見る。
「どうしたんだ?」
「いや、ヤトガミがさんづけでしかも名字で呼ぶと違和感があるなと思って…」
「なんで?」
「今まで言葉遣いとか遠慮がなかったからな」
「そうですね。あと私はミーナで結構ですよ」
どうやら違和感があってさんづけと名字は駄目らしい。確かに自分でもおかしいとは思うが。
「いや、でも俺だけ名前で呼ぶのも気が引けるんだが…」
「だったら私もヤトガミではなく、マナと呼ぶことにしよう」
「ええ、私もヤトガミさんではなくマナさん、と呼びますね」
いきなり名前で呼ばれることになって少し戸惑う。不公平ではなくなったし、俺も敬語とか使わなくていいので気が楽でいいんだが。
「話が逸れたな。結局、学院長はどういった人なんだ…?」
「そうですね…。優秀な方で、地位も結構高い人ですが……それと同時に少し変わった人でもありますね」
「変わった人…?」
俺はミーナの意外な言葉に聞き返す。
「ええ、何を考えてるのか分からないくらいには」
「うむ。そうだな。私から見れば悪戯好きで、出来れば用がない限りあまり会いたくない相手だ」
「そんなにか…?」
「否定はしません…」
学院長がそれで学院は大丈夫なのだろうか…?二人の話を聞く限り、今からその人と会わなければいけないのに会いたくなくなってきた。
「まぁ、そんなに嫌そうな顔をすることはないさ」
「まるで他人事みたいに言うんだな」
「他人事だからな」
そんなこんなでしばらく廊下を歩いていると、他の扉より一際大きな木製の扉の前に着いた。一番奥にあるので多分、これが学院長の部屋なのだろう。
ミーナは扉を二回ノックするとその中から「入っていいぞ」という声が聞こえる。
「失礼します」
そう言ってミーナは扉を開けると中へ入る。その後にアルティナと俺が続いて院長室の中へ入る。
院長室は想像していたのより飾り気がなく、必要最低限の物が所々に置かれている。ちゃんと掃除が行き届いているのか清潔感があり、居心地がいい。
「それで、ミーナ・クロスフィア。君は私に何の用だ?」
ミーナに問い掛けて来たのは三角帽子に黒いローブの様なものを着た女性だ。紫の髪と瞳に整った顔立ち。服装のせいか、まるで典型的な魔女に見える。歳は二十から三十歳くらいだろうか…?そして少し顔をニヤつかせながら俺の方へと視線を向けている。
「はい。私が放課後に練習していた召喚魔法について知らせておきたい事があります」
「知らせておきたい事か…。それは君の後ろにいる黒髪の少女にも関係あるのか?」
「………………ええ、その通りです」
ミーナは少し間を開けると肯定した。おい待て誰が少女だ。俺は男だぞ。なんで肯定したんだよ、頼むから否定してくれ。じゃないとマジで泣くよ?泣いちゃうよ?
「単刀直入に言います。学院長が言うこの黒髪の少女…もといヤトガミ・マナさんは、私の召喚獣です」
「…………ほう」
ミーナがそう言うと学院長は目を細め、興味深そうに呟く。
「そこのヤトガミとやらを見たときからもしかしてと思っていたが……。ふむ、少し信じがたいな」
「やはり信じてもらえないのですか?」
「半信半疑といったところだな」
学院長が溜め息混じりに言う。
それからミーナは今まで起こった事の経緯を説明すると、学院長は訝しげな表情で俺を見る。
「……実は先程、この学院で不可解な魔力を感知してな…」
「不可解な魔力…ですか?」
学院長の言葉に俺たちは首を傾げる。
「ああ、そうだ。今までに感じた事のないものだったな」
「それで、その不可解な魔力はどの辺りで発生したのか分かりますか?」
アルティナの問いに学院長は不適な笑みを浮かべて「当然だ」と答えた。
「場所は西棟の第二魔法実験室。放課後にミーナが使っていた召喚魔法の練習室だ」
「「―――――――ッ!?」」
(ふむ…学院長の言う不可解な魔力…。場所と時間的に俺が原因なんだろうな…)
(うわぁ…だとしたらめちゃくちゃ警戒されてるなこれ)
驚愕しているミーナとアルティナに学院長は少し呆れた顔をすると俺に視線を向けて更に言葉を続けた。
「原因は間違いなくヤトガミだろうが、お前からはあの時感じた不可解な魔力が全く感じない。いや、不可解な魔力というより魔力そのものが感知出来ない…」
「……!それは本当なのか?」
「ああ、そうだ」
学院長の瞳を見るが嘘を言っているようには見えない。多分、本当の事だろう。
「でも、魔力そのものが感知出来ない…ですか…?」
「その通りだ。ミーナ、君の予想通りヤトガミには魔力がないと思う」
「そんな…」
ミーナは眉を寄せて悲しそうな顔をする。それを見た学院長はふぅ、と小さく息を吐いた。
「まぁ、詳しい事はステータスを見ればいいだろう?」
「ええ、確かにそうですね…」
俺は学院長とミーナが話している隣で静かに情報を整理する。
まずその一。ミーナによって俺はこの訳も分からない場所…恐らく異世界に召喚される。
その二。召喚された俺は帰る術もなく、行く宛てもないのでミーナの契約奴隷になる。
その三。俺が召喚された頃、学院長が不可解な魔力を感知した。そしてその魔力は俺からは感じないとのこと。また、その魔力の正体と原因は不明。
その四。そして現在に至る。
こんなところか…。そして気になるのは今後俺はどうなるのか、また、学院長の言っていたステータスだ。今の俺は元の世界、日本にいたころの身体である。ただでさえ体力の少なかった俺が異世界で生き抜く事は出来ない。
「さて、ヤトガミよ。まずはこれに触ってくれ」
そう言った学院長はどこから取り出したのか掌サイズの紫色の水晶玉を手にしていた。
「何ですか…?それ…」
目の前に出された紫色の水晶玉を訝しげに見る。占い師が使いそうな物にしか見えない。これから占いでもするというのか………そんな訳ないか。
「これは魔道具の一種でステータス測定器と言ってね…。この水晶玉に触れた者のステータスをある程度表示することが出来る代物だ。冒険者ギルドとかにもそれぞれ一つずつ置いてある」
「へぇ、そうなのか。でもある程度なんだな」
「まぁ、これは旧型だからな。ここは学院だから正確に測らずとも大体の目安さえ分かればいい」
「ただ、冒険者ギルドや国に関係ある所にあるステータス測定器は、犯罪などの防止のために全てのステータスを表示することが出来る新型だ」
全てねぇ…犯罪防止のためとはいえ、個人情報保護法とかガン無視じゃねぇか…。異世界だからそんな法律とかないんだろうけどさ。
「話が逸れたな。取り敢えずこのステータス測定器に手を当てろ。これは空気中の魔力を使って起動するから魔力は流さなくていい」
俺が元の世界を懐かしんでいると不機嫌そうな顔をした学院長がいた。そう言えばずっと手で持ってたんだっけな…。なんかごめん。
俺は早速ステータス測定器に手を当てると薄く輝きだした。所々に魔法陣が浮かび上がって実に不思議な光景である。多分、解析してるんだろうなぁ…と思っているとステータス測定器から魔法陣が消えて光る文字が浮かび上がった。
―――――<ステータス>―――――
レベル1/1
名前:夜刀神 真奈
職業:高校生
HP:50/50
MP:0/0
攻撃力:13
防御力:78
魔法攻撃力:10
魔法防御力:80
素早さ:230
命中:42
回避:169
――――――――――――――――――
…………………。これは……強いのか弱いのかよく分からない…。てか、レベル1で上限ってどうなんだ…?これには流石の俺もショックで泣きそうなんだが。それにしても冷静に考えるとかなり弱くないか…?あと、初めて知ったが高校生って職業のところに入るんだ…。今はそんな事どうでもいいけど。
俺が自身のステータス表を見て固まっているとミーナ達も思うところがあるのか、顔を俯かせて目を逸らしている。ただ、学院長はミーナ達と違い面白いものを見るような目で俺のステータス表を見ている。
「ほぅ…。随分と面白いステータスだな。防御力や素早さ、回避などの値が高いが攻撃力が一般人以下だ。しかもレベル1が上限というのは初めて見たぞ」
学院長は口角を上げ、嫌な笑みを浮かべる。遠慮のない物言いに俺は心に傷を負った。もうやめて!ヤトガミのHPはもうゼロよ!
「このステータス測定器…。ある程度しか測れないんじゃなかったのか?思いっきり正確な数字だしてんじゃねぇか」
「む?新型の方はスキルや称号、出身地など様々なものを表示するぞ?」
「……………………………ソウデスカ」
学院長は当たり前のように言うので、俺はもう何も言えなくなった。常識が音を立てて崩れていくような気がした。まぁ、魔法とかがある時点で常識なんて崩れているんだろうけど。
「わ、私も初めて見ました。こんなこともあるのですね、アルティナ」
「ああ、そうだな。だが、これは戦闘向きではないな」
「戦闘向き?」
俺がオウム返しに聞くとアルティナは「ああ」と答えると言葉を続けた。
「まぁ、まずは召喚獣の一般的な扱いから説明した方がいいだろう…」
「まず、召喚獣には戦闘向きと家庭向きがある。戦闘向きはそのままの意味で敵と戦う事が主な役割だな。そして、家庭向きと言うのは…戦う事は出来ないが召喚者の世話をするのが主な役割だ。具体例を挙げるなら掃除、洗濯、料理などだな」
「……………………」
それってただのお手伝いさんでは……?と言いたくなるが一々ツッコミを入れていると話が進まないので我慢する。いや、まぁ、戦闘向きよりはマシだけどさ…。
「あとは人によるが、奴隷でも物扱いかパートナー扱いの違いがあるな。主に物扱いされるのは家庭向きで、パートナー扱いされるのはもう一方の戦闘向きだ」
え、俺って物扱いされるの?なにそれ酷くね?ちょっと泣きたい。
「でも、私は物ではなくパートナーとして扱いたいと思っています」
物扱いされるのかと不安になっていたがミーナはそんなことはないと否定する。良かった…。でもパートナー扱いするから戦わされるとかなら嫌だけどミーナの表情を見る限りそれはないなと心の中で否定する。
「そんで、俺はこれからミーナの世話をしろと?」
「言ってしまえばその通りだ」
俺が結論を出すと学院長が「そうだ」と肯定した。出来れば肯定してほしくなかったけど。
でもいきなりこんな異世界に呼ばれて召喚者の世話をしろと…?あれ、これかなり理不尽な展開な気がするんだけど…?まぁ、普通の人なら怒るんだろうな…とは思う。残念ながら俺は普通じゃないけど。元の世界に家族もいないし未練はない。
俺の答えはもう決まっている。誰に何を言われようと決してその意志を曲げることは出来ないだろう。俺は口を開いて言葉を紡いだ。
「勿論、こと―――「断るのなら私の学院から出ていって貰うぞ」―――喜んでお受け致しますっ!」
学院長の脅迫により俺の意志は簡単にねじ曲げられた。だって仕方ないじゃん、ここ追い出されたら行き先ないんだもん。ここでミーナの世話をしてた方がよっぽどマシだ。て、俺は一体誰に言い訳してるんだ…。
「ん…?そう言えばミーナの意思はどうなんだ?そういう事を決めるのはやはり召喚者だと思うんだが…」
俺はミーナの方に向くとミーナは頬を少し赤らめて恥ずかしそうにしている。
「い、いえ、き、気にしてない…です」
めっちゃ気にしてた…。気にしてるのが丸わかりだ。あと可愛い。
「だ、そうだが?」
「いや、本人めっちゃ気にしてるじゃん…」
「だが、その本人は気にしてないと言っているぞ?本当に嫌ならあんな態度にはならないさ」
「うぐ……」
口論するもことごとく論破されていく。ヤバい…勝てる気がしない。諦めるの早いな…俺。
「ところでミーナ・クロスフィア、お前はヤトガミにどういう風な規制を掛けている?」
学院長が思い出したように何気に重要な事を言ってくる。てか、俺ってなんか規制とか掛けられてんの?知らなかったんだけど…。
ミーナは「あ、規制ですか」みたいな感じで納得してるし。知ってたのかよ…そして教えてくれなかったのか…。いや、俺も聞いてないから何も言えないけど。
「規制の内容は五つに設定してあります」
「一つ目は召喚者である私や学院の生徒に危害を加えることが出来ない…です」
「二つ目はただし、決闘や大会などでは一つ目の規制は一時的に無効となる…というもの」
「三つ目は私を裏切らないこと」
「四つ目は戦闘向きの魔法は私の許可なしに使わないこと」
「五つ目は自分で稼いだお金は好きにしていいけど、その他のお金は私の許可が必要…っと言ったところですね」
「………………………………………………」
内容を聞いた俺は目を丸くした。想像していたものよりかなり自由度が高い。というか最後のやつが何気に一番明るい内容だな。貴女は俺のお母さんですか…。お小遣い没収とかされるんだろうか…?
ミーナが俺に掛けた規制の内容を聞いたアルティナは少し可笑しそうにミーナを見て声を掛けた。
「あぁ、そう言えばミーナは召喚する前からそんな事を考えては口元を綻ばせていたな」
「えっ!?…な、なんでそれをアルティナが知ってるんですか!」
ミーナが顔を赤くして叫ぶ。その慌てぶりからどうやら事実のようだ…。
「まず顔に出ている。それからたまに独り言を呟くから聞こえてくる」
「……ッ!!、…も、もう!アルティナったら!知っていたなら教えてくれても良かったのにっ!」
「ははは、すまないな。とても幸せそうな顔をしていたから言えなくてな」
耳まで真っ赤にしたミーナがポカポカとアルティナの背中を叩いている。第三者の俺から見てもそれはとても楽しそうな光景であった。
「さて、時間も遅いし面倒な話は嫌いだから明日の放課後にでもここに来てくれ」
学院長の言葉通り、辺りはもう薄暗くなっている。大体5~6時くらいだろうか…?
「ん、それもそうだな。あまり遅いとルームメイトを心配させてしまう」
「アルティナの言う通りですね」
「俺はどうすれば?」
俺の問いかけに学院長は楽しそうに顔をニヤつかせて言った。
「ミーナ・クロスフィアと同室に決まっているだろう?」
「はぁっ!?」
「え、えぇっ!?」
「…………………冗談だ」
「今の間はなにっ!?」
思わずツッコミを入れてしまった。真顔で言われると冗談に聞こえないので止めて欲しい。
そして俺の住む部屋は空き部屋があるそうなので俺はそこを使わさせてもらえるらしい。俺は学院長に学院の地図を貰うと一礼をしてミーナ達と学院長室から出ていくのだった。
【おまけ】
マナ「会話増えてたの?」
作者「えー、と…前よりかは増えてる……かな?」
マナ「……………………………」
作者「頼むから睨まないでくれ」
作者「まぁ、ゆっくりやっていくつもりだから気長に待っててくれよー」
マナ「ほんと頼むよ…?」
作者「任せておくれ」
マナ「ならいいんだけど」
作者「まぁ、次はまだ未てー「何か言った?」ーいえ、なんでも御座いません。だからこっちに包丁向けないで…」
マナ「問答無用っ!!」
作者「いやぁぁああああッッ!!」
ーこのあと作者の姿を見たものは誰もいなかったー