呪いの紋章
とりあえずアカウントを作っておこうとか思って作ってそれっきり――数年経ってしまった作品
ことのはじまりはギルドメンバーと口論になったことです。 私は憤怒きわまっていました。
私の名前はフラム、見習いウィッチです。 迷いの森―――中に入ると簡単にだ出することができなくなるという、古典的なダンジョンの一つです。
見習いの多い私たちパーティのにとってはちょうどいい初心者向け探索場所だったのでです。 迷いの盛りといっても地図さえ持っていれば迷わないと言う不思議なダンジョンだからです。
探索を終え帰還した私たちは、当分で分け前を配分してきました。 今回は運がよかったと言うべきか、悪かったと言うべきか。 とにかく大物、大金に相当するであろう、プラチナで縁取られたペンダントをみつけたのです。
そのペンダントの中央にでかでかと刻まれた紋章はまさしく、ここら一帯を支配しているレイン・フォレスト王国の紋章でした。 仮に贋作であったとしても、こったプラチナ細工のアクセサリーはそうとうなお値打ち品に違いありません。
問題はその後、何でももしこれが真作、つまりは正真正銘、本物のお受けの紋章だった場合、一生遊んで暮らせるほどの価値があるというのです。 ラッキーって思うかも知れないでしょ? でも世の中そんなに甘くないのわけなのです。
もし真作だった場合、そんなものがこんな森の中で見つかるなんて不自然じゃないですか? なんたって王家の品なんだから。 当然持ち主はここを通った時に相当な数の護衛を引き連れていたことは想像に難しくありません。
そんな状態で大事なアクセサリーをなくしたりするでしょうか
つまりこれは贋作と言うことになるわけ、だったらそれでいいのですが、でも、もし、もしですよ、これが真作、正真正銘王家のペンダントだった場合。
鑑定屋に叩き売ろうとしている私達全員に窃盗の容疑がかかるわけなんですよ。
酷いと思いますよね? 一攫千金を狙えるチャンス、でも、もしペンダントが真作だったら私達は牢獄行き確定。 ここで意見が分かれたわけです。
もしこれで真作だという結果が出た場合私達のお先真っ暗ってわけなのです。
偽物なら、細工の高度さなどから大金に換金できるのですが……
「だからいってるでしょ、こんなペンダント真作な訳がないわ、贋作よ。 これを売ればしばらくは贅沢な暮らしができるし、ギルドでの評判も上がるわ。 一石二鳥よ。 こんなチャンスどうやって見過ごせって言うのよ! 冗談じゃないわ」
ひときわかん高い声でキンキンとがなり立てているのは、魔法剣士のレイリアさんです。
このギルドのリーダーでありながら、その能力はトップで一人だけ飛び抜けてレベルが高いのです
他のメンバーはと言えば、みな安全策をとることに決めたようです、彼女をなだめ、説得を続けています。 私はと言えばその様子を少し離れたところから観察しているです。
私は実力的にも、実質的にもギルドの中でも新参、その上この見習いギルドの中でも輪をかけて見習い、詰まるところ実力的には最弱、先輩達を差し置いて発言権が認められるわけがないのです。
その先輩方でも最も実力と発言権を持つのが、先程からがなり立てているレイリアというわけです。
「さっきから黙ってるけど、フラムあんたはどう思ってるのよ!?」
埒があかないと判断したのか、怒りの矛先が私へと向きました。 唐突に話しかけられて面を喰います。 たぶんレイリア先輩は私を味方につけることで、少しでも自分を優勢に傾けようと考えたのでしょう。
「わっ、私は、やっぱり今回何も―――」
―――なかったことにした方がいいと思う。と言おうとした矢先レイリア先輩が先回りして私を恫喝してきました。
「あんた、自分の立場話かってんの? ウィッチっていたってろくな魔法使えないし、明らかに今まで一番役に立ってないでしょ! 専門職のあんたに使えて私に使えない魔法があると思っているの!? だいたい、私達はみんな親なしの教会育ちなのよ。
あんたこのままでにいいと本気で思ってる。 あんたがこのギルドにいられんのは将来性を見込んでのことだけよ。 今の時点じゃ全く何の役にも立ってないんだからね。
誰のおかげで今の生活があると思ってんのよ。 他でもないギルドリーダーの私のおかげでしょうが。 分かったってるのかしら!?」
―――等と明らかに恫喝を含んだ口調で言うのです。 とてもとても怖いです。
でも、それでももし、最悪みんなで牢獄かと思うと、とても彼女に賛同する気にはなれません。
その時、私の手元に光るペンダントを思い出しました。
この中で一番自主性がない私の手に一時的に、預けられていたものです。
「もう、煮えきれないわね。 じゃあいいわそれ、私によこしなさいよ!」
ついに強行手段にでるレミリア先輩。 しかし、その身体に他のメンバーが押さえつける。
「フラム、それをもって逃げろ。 もうどこかに捨ててきてくれ。 こいつは俺たちで押さえておくから、早くいってくれ」
「もう、ふざけないでくれる。 離しなさい、あなたたち、いい加減にしろ!」
それはもうしどろもどろになりました。 だって手には例のペンダント―――それを以て逃げろって、いったいどこへ。 町中になど逃げようものならレミリアの追跡魔法でとたんに見つかってしまってしまうでしょう。 私はとに頭がいっぱいいっぱいだったのです。私はむんが夢中で逃げました目指すは待ちの外、それ以外の具体的な場所など、頭の悪い私には思い浮かびませんでした。 無我夢中で駆け回った結果、そこは今回の探索場所迷いの森の中でした。 そうダンジョンの中なのです。
言うまでもないことかも知れませんがこれはとても危険な状況です。 例え低級モンスターしかエンカウントしないとは言え。このダンジョンを安定して探索できたのは一重にパーティー行動を行っていたからに他なりません。 私個人では命を失ったとしても何の不思議もないのです。
何とかここから脱出しないと、そう思って懐の地図を探しました。 迷いの森などと言っても単なる複雑な針葉樹の迷路に過ぎません。 方位磁石が使えなくなるとか、出入りするたびに迷路が変わるとか、そういった特殊な作用もあるようですが、基本地図さえ持っていれば脱出は容易なのです。
「ない、どうして?」
懐を念入りに探しました。 しかしいっこうに地図は出てきません。
どうやら、今回の稼ぎをひとまとめにする時にあわてて引っ張り出してしまったようです。
「どうしよう。 このままじゃ、私―――」
全身から血の気が引いていくのが驚くほど克明に感じられます。
「う゛ぁああああ―――!」
そのときは背後から獣の方向が轟きました。
「キャアアアアアアアア―――!」
恐ろしい雄叫びに思わず叫び声を上げてしまいます。
身体がすくみ上がってしまい、その場に尻餅をついていました。
これはピンチに違いありません。 問題のモンスターはといえば、最悪なことに森の奥地に行かなければほぼ遭遇することのないタイラント・モスピガー、名前からでは想像つきにくいので補足しますが、大きなイノシシのような動物です、肉食でとてもどう猛です。
正直な話、私一人ではかなり辛い相手です。 しかも恐怖で身体が動きません。
でもこういうと機に限って臆病で変に冷静な頭が勝率および生存確率を高速回転で演算します。 結果生存率0.1%―――急激に頭が冷えていきます。
このまま行けば私は99%死んでしまいます。 あのどう猛そうな牙の餌食になり数分後にはイノシシのおなかに収まっているに違いありません。
「だ、誰かたすけて……」
とっさに助けを求めるも当然森の中にには誰もいません。 運良く他の冒険者かけつけてくれるとか言う感じの希望的展開にはなりそうもありません。
その間にも目の前の猛禽はどう猛なうなり声をあげながら鋭い牙で目の前の得物を吟味します。 もう数秒もすれば襲いかかってくることは間違いありません。
やばい、死んだ―――そう思ったときのことでした。
目の前のイノシシが突如として背後へと振り向きます。 そこに立っていたのは魔法剣士こと、レイリア先輩でした。 おそらく私を追ってここまで来たのでしょう。
助かった―――と同時に今彼女とであうのはまずいんのでは? って相反する二つの感情がわき上がります。 だが、事ここに至れば命が助かってよかったという安堵の感情が圧倒的な優位となってわき上がります。 いくらレイリア先輩といえど私のいのちまではとりはしないでしょう。 ここは素直に感謝してしかるべきに違いありません。
「助けてくださいレイリア先輩!」
無様に腰を抜かして助けを求める私を見下ろしレイリア先輩がほくそ笑みました。
「いいのかしら? あなたは私から逃げてここまで来たのでしょう? まだ鬼ごっこはおわっていないのではなくて、私から逃げるなら今をおいて他に内規がするのだけど?」
勝者の余裕というやつでしょうか? レイリア先輩はどす黒い満面の笑みを浮かべます
「そ、そんなこといってる場合じゃ……」
確かにその通りかもしれません。 今この次点でどう猛な猛禽―――タイラント・モスピガーの注意はレイリア先輩に移っています。 今ならば逃げられるかもしれません。
しかし、困ったことに私の身体は動きません。 身体が完全にすくみ上がっています。 すぐには身動きがとれません。 情けないことに目尻には涙さえうかんでさえいます。 これではレイリア先輩から逃げ切るのは不可能です。
「あらあら、情けないことね。 腰を抜かしているなんて、流石見習いの上にとんまのフラムね。 でもそうね、私もどう猛なタイラントの相手なんて御免こうむるわ、ここは一時撤退してあとで、あなたの持ち物を回収するというのはどうかしら?」
底意地悪い笑みを浮かべて勝ち誇るレイリア先輩、この後に及んで助けてくれないなんてあんまりです。
「ごめんなさい、何でもするから助けてください。 お願いします!」
私は精一杯叫びました。 しかし先輩は―――
「あらそう、じゃあ、最後にわびるのね、あの世で、私から逃げたことを―――」
「スルーリングライト」
レイリア先輩は無慈悲にも静観を選びました。 スルーリングライトとは光を透過する特殊名魔法で姿を消すことができます。 先輩ほどの強力な使い手が使えば姿のみならず、完全に気配を断つことが可能だと聞きます。 つまり獣は先輩からターゲットをはずし、再び私の方を振り返りました。
「そんな、先輩、無慈悲な。 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「もうおそい、イノシシにくわれてしんでしまいなさい、私に逆らった報いよ」
なんて酷い先輩なのでしょう、そうこうしているうちにもイノシシがこちらに向かってのしのしと前進してくるではありませんか。
「いやー、こないで、あっちいってよー! まだ死にたくない」
その時です、胸に下げてあった件の王家の家紋が光り始めました。 それと同時に動かなかった身体が軽快に動くではありませんか。
なんということでしょう、私のパラメーターが一気にすうレベルはアップしています。
「おこまりなの、おねいさん? ボクは王家の守護神・ガーディアンなの。
どうやらお困りのご様子、少し私の力を分けてあげました」
「へ、ガーディアン? 確かに身体の調子が異常によくなったわ。 こんなの普通じゃない、もしかしてこれってものすごいお宝なの?」
高価なアイテムや強力な魔法道具には持ち主を助ける力が込められている場合があるそうです。 しかし、これはすごい力です、まさかここまでのものとは想像していませんでした。 私は唖然としてしまいます。 あの冷酷無慈悲なレイリア先輩でさえもことを理解できない様子でした。
「しかし、ここまでしてもおねいさんのちからではまだ足りないの、イノシシはともかくそっちの魔法剣士のおねいさんを倒すには力が足りないの そこで提案なの、ちからをわけてあがるから、ボクと契約してなの」
私は一歩後ずさります。 これが噂に聞く契約商法、通商呪いの押し売りというヤツでしょうか? 契約したが最後、きっと奴隷のように扱われてしまうに違いありません。
「そんな怖がらなくても大丈夫なの、詐欺じゃないの、お試し期間だってあるの」
「お試し期間というあたりがますます詐欺くさい、きっとあともどりできなくなるわけですね」「いやいや、そんなことはないの」
ここではたとガーディアンとやらをみつめます。 見た感じは騎士の甲冑を身につけたこがたのねんどにんぎょうみないなののなのですが、つぶらな瞳がかえってすごく怖いのでした。
「とりあえず契約はしません、やれるところまでひとりでやってみることにします」
「そうなの、残念なの」
「先手必勝ライト・ストーム!」
そうと決まったら先手必勝です。 イノシシめがけて嵐の呪文を唱えます。
私のレベルではたいした魔法はつかえませんが、パラメータアップによる魔力増加のこうかは絶大。 イノシシはあっという間に細かい傷だらけになり、その場から一目散に逃げ去って行きました。
「やった、やりましたよ。 私、勝てちゃいました」
やってやったぞとばかりにガッツポーズを決めちゃいます。 うそ、私ってばつよいかも?
「喜ぶのはそこまでよ、ますます、そのお守りほしくなったわ。 おとなしくそれをこっちによこしなさいな」
「いやです。 こんな便利なもの、そう簡単に渡せません」
「ついに本音が出たわね、この守銭奴!」「守銭奴はレイリア先輩のほうじゃないですか、いいかげんなこといわないでください」
「なんですって、いってはならないことをいったわね、とんまのフラムの癖に」
「そういう先輩だって強欲レイリアってみんなから恐れられてるんですからね、ひとのこといえません」
「そう、交渉決別というわけね」底冷えするような声が響き渡ります。
私は勝利の興奮とちょっとイケイケムードに酔って地雷を踏んでしまったようです。
レイリア先輩の目が殺意をはなっているではありませんか、とんでもなく怖いです。
でもいまなら、いまなら、勝てる気がします!
「先手必勝、ライト・ストーム!」「甘いわね、マジカル・バリア」
「うそ、効きません」「ちょっと強くなった程度にちょうしにのってんじゃないわよ! そういういけない子にはお仕置きがひつようね。 バーニング・タックル」
レイリア先輩の上級魔法を受け盛大に吹っ飛ぶわたし、いたいです。 あっという間に負けてしまいました。 がっくりです。 炎の塊となった先輩は魔法を解呪して優雅に舞い降ります。
「さあ、今お紋章をわたせば、説教だけでにゆるしてあげるわよ、どうするの?」
私は迷います。 もちろんノーといえば先輩に殺されてしまうのは明白です。 かといって私にはもうどうすることもできません。
「ねえねえ、ボクと契約すれば助けてあげるの、契約しない、契約?」
「わかりました、死にたくないので契約します」
私は刹那的に楽な方を選択しました。 きっと後で後悔するに違いありませんが、たすかりたかったのです。 命を秤にかければプライドなんて安いものです。
契約の輝き―――身体が萌えるように熱くなり、一気にレベルが30ぐらい上がった感覚、力が体中を駆け巡ります。焼けるような力の放流の中でレイリア先輩をにらめつけます。
「こんどこそいきますよ、グランドストーム!」
とどろく魔力の放流―――轟音を響かせ暴風があたりを包みます。
もはや、森一帯が台風の中にあるかのごとく、樹はへし折れ、すべてのものが激しく飛び交います。
「なんですって、上級魔法なんて、どういうことなの!? きゃあああああ―――!」
飛び交うものというものが凶器となりレイリア先輩を襲います。 これには先輩もなすすべがありません。 加えて暴風に吹き飛ばされ、木々に体中を打ち付けて動かなくなりました。
私は先輩の生死を確認するために脈をとります。 どうやら生きているようでした。
私は先輩懐から迷いの森の地図をとりだすと、コピーのまほうで地図をふやし、それを持って無事に森を脱出しました。
ギルドに戻った私は仲間のもとにもどり、今までの経緯をはなし、王家の紋章を処分しようとしましたが、悲しいことに王家の紋章は私の装備品からはずすことができませんでした。「やっぱりのろわれています、このアイテム―――!」
「ねえねえ、ボクと契約したんだからお城に帰ってお姫様になろうなの、この証で契約をたてたものは王家の血筋としてカウントされるの、これからはお姫様だよ、やったね」
それからというもの私を悩ませるのはこの声でした、ことあるごとにお姫様になるように進めてきます。 しかし、どう考えても正当な血筋をひいていない私がお姫様になれるわけがありません。 名乗り出たが最後、私は紋章を詐称した罪で打ち首にされるに違いありません。 それだけは勘弁です。
しかし、この紋章のやかましことといったら、筆舌しがたいほどです。
四六時中お姫様、お姫様と催眠術のように語りかけてきます。
頭が変になってしまいそうです。その日以来私は睡眠不足に陥りました。 こんなことなら、契約なんてするんじゃなかった―――!
私は自身の軽はずみな行動を心底後悔したのでした。
テスト投下作品だけど、小説読み慣れてない知り合いとかには割と好評だったので、一応ちゃんと正規短編策という扱いにしますが、ダラーと書いてるだけなのを直す気はあまりありません。ごめんなさい。
すごい過去の作品でとあるリクエスト二答えて書いた短編ですね。