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プリュヴィオーズ①・波瀾の予兆

 学園の二学期は終わりと迎えて冬季休暇に入った。

 ちなみに神様から教えを授かったって聖者の誕生日を祝う催しや年末年始の行事はきちんと行われた。革命暦が基盤になっているのにどうしてこの時期が年始なのか少し気になっていたけれど何て事は無い。全部私のせいだ、はははっ。


 年末年始だからってオルレアン家の方々の生活が休止するわけではない。ただ使用人の何割かが休みを頂いて帰省したり報酬を大目に頂いた臨時の使用人が顔を見せたりとせわしなかった。わたしの場合は連休を貰ったってやる事も無いのでそのままシフトに組み込んでもらった。

 ……尤も、夏季休暇と同様に立法府に駆り出される破目になったのだけれど。


「新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「オタク変わってるね。今の時期にソレ言う奴あまりいないよ」


 年明けの立法府出勤初日、顔を合わせた仮上司のラウールさんに新年のあいさつをしたらそんな事言われた。まあ正月三が日とかの風習は私世界の色合いが強い。普通は聖者の誕生祭で同時に新年の到来を祝うものだし。けれど私どうしても言いたい衝動を堪えきれなかったんです。


 立法府での仕事は相変わらず議事録作成が多かったけれど、段々と立案や資料作成まで手を伸ばすようになった。明らかにインターンシップもどきを超えて文官としての責務を果たしているんですがねえ。その分賃金も貰っているから文句も言えないし。


「ところでオタクの姉さんはこの時期やっぱ王宮で教育を受けてるの?」

「はい。王太子妃としての、そしていずれはなるだろう王妃としての教養と作法を学んでいます」

「ご苦労様なこった。オレが女だったらそんな窮屈なのはごめんだけれどね」

「ジャンヌからしたら日常の延長にすぎません。ラウールさんだってその環境に置かれれば慣れますよ」


 一旦仕事から離れて休憩所で時間を取っている間、ラウールさん達とはたまにそんな感じに雑談を交わす。勿論男女の会話なんてものではなく仕事仲間としての談笑に過ぎない。市民階級だったり貴族の次男坊だったりと様々な身分の同僚達と分け隔てなく言葉を交わし合う。

 で、お父様から公の場でオルレアン家の娘と認められたわたしは格好の話題になっていた。さすがに個人的事情にまで踏み込んでは来ない。それでも抱かれた好奇心を満たす程度には好き勝手言い合ったと思う。こう遠慮も気兼ねもなく言えるのは地味に楽しいものだ。

 もう一つ、ご懐妊が発表されたジャンヌについても話し合われた。さすがにまだ王都市民への発表はされていないものの貴族の間では周知の事実になっているらしい。概ねの方々はめでたいと新たな命の誕生を祝福していた。


 ただ一抹の不安はあった。もしジャンヌが宿した子の父親がシャルルではないって疑われてしまったらどうしよう、と。

 下種な勘繰りとは分かっている。それでも二人はまだ婚約関係であり正式な夫婦にはなっていない。マッシリアでのやりとりを思い返すに、王家の夜の営みの作法があったとしたら反している可能性が高いし。寝具の乱れ具合をメイドが確認する、とかだったっけ?


 疑惑の発生を心配していたらラウールさんは口角を吊り上げて手を横に振った。


「その心配は無いね。ジャンヌ様のお腹の中にいるのは正真正銘王太子殿下との御子らしい」

「どうして分かるんですか?」

「魔導の適性を計る装置があったじゃん。オレ等は色とかから属性を確認するのが精一杯だけれど、専門職の魔導師なら個人の状態や特徴まで分かるんだとさ」

「えっと……つまり妊婦だと計測器に出る反応も異なると?」

「オレも聞いた話なんで詳しくは置いておくとして、父親と子本人の『色』も出るんだとよ」


 成程、それで父親がシャルルだと断定出来たのか。私世界の歴史上、支配者の妃が浮気した子がそのまま王の座に収まった例もあったし。正式な手順を飛ばしたせいでジャンヌが罪を告発されたらって懸念はこれで一掃されたわけだ。


「相変わらずカトリーヌ様は心配性でいらっしゃる。そんなに双子の姉さんが気になるのかい?」

「否定はしません。油断しているとあっという間に谷底に転がり落ちるかもしれませんから」

「オレには順風満帆に見えるけれどね。ま、用心に越した事はない。カトリーヌ様の警戒は実にオレ好みだ」

「口説いても遅いですよ。わたしにはこれでもかってぐらい好きになってくれた方がいますから」

「おいおいよしてくれ。異性として愛しているなんて一言も言ってないって。そんな噂が広がったら最後、あの女男の旦那に何されるか分かったもんじゃない」

「ふふっ、それも聞かれない方がいいですね」


 で、どうもジャンヌの断罪と破滅を回避しようと動き回るわたしは過保護だと思われているみたい。確かに傍から見れば考えすぎなんでしょう。けれどまた運命が嘲笑ってくるかも分からない以上、ラウールさんの言った通りに注意を払うのは当然ね。最後まで油断せずに行きましょう、ってね。


 そんな感じに送っていた冬季休暇のある日。もうじき学園生活が始まるってぐらいだった。


「カトリーヌ、ここにいたか」


 そんな感じに盛り上がっていたら休憩室に突如お父様が入って来たんだ。


 昼食以外ろくに休まずに仕事に打ち込むお父様の来襲には他の文官方も驚きを隠さないご様子。名指しされたわたしなんて何もやましい事はしていないのに心臓の鼓動が高鳴っている。


「申し訳ありませんお父様、すぐに仕事に戻ります」

「そんなのはどうでもいい。今すぐに王宮へ行くぞ。馬車は既に入口で待たせている」


 お父様はわたしの手を取るとすぐさま歩みだした。わたしは慌ててラウールさんに頭を下げつつ早足のお父様の歩調に合わせる。わたしの手首を握ったお父様の手はとても大きく、しかし今日は少し痛いぐらいに力がこもっていた。その面持ちもいつも以上に険しく、怖い。


「あの、お父様? 王宮へ行きわたしは何をすれば?」

「表向きは私の付き添いだ。立法府より提出される議案の中には前もって国王陛下の承認が必要となるものもある。その場合は立法府の長官またはその代理の者が陛下へと提出する必要がある。儀礼的な意味合いもあるがね」

「でしたらまだ文官ではないわたしが付き添う意味がありません。裏の事情があるのですね」

「ここでは話せない。行きがてらの馬車の中で話す」


 立法府の建物の前に止められていたのはオルレアン家の家紋が刻まれた馬車だった。お父様がまずは乗り込み、わたしが御者の手を借りつつ続く。いつもの調子で進行方向と逆向きになる下座に座ろうとしたらお父様に腕を掴まれて引き寄せられた。結局隣に座らされる形になった。


「以前カトリーヌとジャンヌは私とエルマントルドにジャンヌが迎える破滅の未来を説明したな」

「はい」

「メインヒロインとやらがどの者と結ばれようとジャンヌは必ず断罪される。婚約者である王太子殿下によって……だったな」

「……はい」


 お父様から口火を切られた途端に不穏な空気になってきた。正直何も聞かなかったふりをしたかった。それでもいよいよ降りかかってきた試練に正面から向かっていかないとって気概を宿らせて耳を傾ける。


「単刀直入に言おう。王太子殿下の様子がどうもおかしいらしい」

「……らしい、ですか?」

「と言うのも私はおろか陛下から見ても特に変わったように感じられないのだ。だがエルマントルドや王妃様からすれば明らかに変わったらしい」


 とうとう王太子殿下がジャンヌの敵に回るのか、ここまでたどり着いたのに……なんて嘆いていたらどうにもお父様の弁はあやふやだった。どうやら変化の兆候を察したのは女性の直感かららしい。そんなお母様方もお父様に上手く説明出来なかったみたいね。


「それで、お使いという建前で足を運び、王太子殿下の様子を確認すればいいでしょうか?」

「そうだ。さすがにジャンヌ本人に確認させたくはない。王妃様のご協力も有って、変わってからの殿下とジャンヌは顔を合わせていない」

「その御配慮痛み入ります」


 シャルルは必ずジャンヌを守ると公言した。ジャンヌとは結ばれて新たな命も誕生しようとしている。なのにここにきて豹変されてしまったら……ジャンヌは今度こそ立ち直れなくなってしまう。そんな悪夢は悲しすぎるし絶対に現実のものにしたくはない。


 王太子様に生じた変化、必ず見極めてみせる。

お読みくださりありがとうございました。

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