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ニヴォーズ②・誕生会に招待します

 オルレアン公爵令嬢としての誕生会の招待状はお父様が世話になった方や親しい方に宛てる。普段催す夜会ならオルレアン家を盤石とする人脈作りに利用するらしいけれど、娘の祝いはその限りではないらしい。とは言え王太子殿下の婚約者の誕生会でもあるから結構多くの貴族を招待するようね。

 で、オルレアン公爵夫人の娘としての誕生会はお母様が招待状を書き綴った。送り先はお母様が学園に通われていた時代に良好な関係を築いた当時の貴族令嬢方。ダランソン公爵夫人のイングリド様やポワティエ侯爵夫人のジュリエッタ様。そして王妃のベルナデット様もそうなんだとか。

 更にジャンヌ個人の誕生会って面ではジャンヌ本人が招待状を作成。ところが今回のジャンヌは度重なる断罪と破滅で人との絆が信じられなくなりそれほど人間関係を築いてきていない。結局完成した招待状は片手の指で数えられる程度に過ぎなかった。


「クロード。これを受け取ってもらえない?」

「これは……!? 私めにですか?」

「ええ、クロードだからこそよ。幼い頃から仕えてくれたクロードは私にとっては姉のような存在だもの。是非従者ではなく招待客として参加してもらいたいの」

「……勿体ないお言葉です。では頂戴いたします」


 その内の一人はなんとクロードさんだった。大丈夫なのかと心配したのだけれど、ジャンヌの話ではクロードさんは側室の子とは言えれっきとした男爵令嬢、つまり貴族の一員らしい。意外な真実だったものだから驚きの声があがったわね。


「シャルル。私、ただ今このような物を持っているのですが」

「ジャンヌ……! 君から誘ってもらうのは初めてだったね。とても光栄だよ」

「駄ー目。ただでは差し上げられませんわ。欲しいのでしたらおねだりしていただけませんか?」

「ジャンヌ嬢、どうかこの私を貴女の誕生会に誘っていただけませんか?」

「全く迷いがありませんでしたね……。ええよろしくてよ。特別に招待して差し上げますわ」

「ありがとうジャンヌ。愛しているよ」

「っっ。そういう不意打ちはいいですからっ」


 もう一人は言わずもななシャルル殿下。ただシャルルは哀れにも今までジャンヌ個人から誕生会に招待されていなかったらしい。悪役令嬢は毎年個人的にシャルルへ熱烈な招待状を贈っていたのに凄まじい冷遇っぷりだ。まあその反動で濃厚な関係に至れたんだけれど。


「クレマンティーヌ様。これを受け取って頂けませんか?」

「これは果たし状……ではございませんわね。ジャンヌ様の誕生会の招待状ですの? ですがポワティエ家としてオルレアン公閣下から、お母様もエルマントルド様より招待状を頂いておりますわ」

「振り返ってみたらクレマンティーヌ様とは良好な関係を築けていましたから。私個人よりお贈りしたかたったのです」

「そこまで仰るなら頂きます。お誘い感謝いたしますわ」


 最後の一人はクレマンティーヌ様だった。あらゆる人を遠ざけようとしていたジャンヌにも数少なく普通に接したクレマンティーヌ様とはおそらく『双子座』より仲良くなっている。ジャンヌは無造作に招待状を放り投げ、クレマンティーヌ様も顔色一つ変えずに受け取ったし。


 以上。ジャンヌ曰く、他の方々はお父様が招待したついでに来るでしょう、だった。ご尤もなんだけれど悪役令嬢としてのジャンヌ・ドルレアンしか知らないアルテミシア辺りが聞いたら驚くんじゃあないかしらね。


「ねえアルテュール。ジャンヌの誕生会って誘われてる?」

「はい。父上が招待を受けているので同級生の私も参加するように言われています」

「悪いんだけれどわたしの話し相手になってもらえないかな? 何なら傍にいてくれるだけでいいから」

「これは……招待状ですか。私宛てに……カトリーヌ・ドルレアンより!?」

「駄目、かな?」

「いえ、とても嬉しいです」


 で、何故かわたしも招待状を書けって話になりました。やっぱりわたしの誕生会も兼ねてるんじゃないですかやだーっ! とは言え貧民街で親しくしていた人達を呼ぶ馬鹿な真似は出来ないし、結局わたしも二通に留まった。うわ、わたしの友人関係希薄すぎ。その分ジャンヌとの絆が濃厚だったとも言う。


 そんなわけでわたし個人からはアルテュールを誘う事にした。彼だってわたしと同じぐらい社交界と縁が無かったのにわたしの不安に巻き込んでしまって申し訳ない。それでも彼が傍らにいるか否かで安心度が全く違うもの。

 ジャンヌがシャルルやクレマンティーヌ様とやりとりしている最中にわたしは招待状をアルテュールに渡す。彼は軽く驚きを見せたものの、歓喜にも近い満面の笑みをさせて受け取ってくれた。それを目にしたわたし、打算を綺麗に忘れて惹かれてしまう。


 そしてもう一人。どうしても直に手渡ししたかったわたしは学園の授業が終わったらジャンヌと別行動を取る。向かう先は立法府。定時を迎えているのに相変わらず皆さん仕事に励んでいらっしゃった。そんな方々を尻目にわたしは三階にある彼の仕事机の前に立った。


「お仕事お疲れ様です、ラウールさん」

「ん? おお、これはこれは珍客がおいでなすった」


 夏期講習の講師、立法府での上司、そして攻略対象の一人ラウールさんだ。彼はわたしが声をかけてようやく書類から顔を上げた。わたしは今一度軽く会釈をする。何だか三階にいらっしゃる皆さんから注目を集めているような気がするけれど気にしない気にしない。


「で、オタクは今日オレに何の用事なワケ? 差し入れだったら有難く受け取っちゃうよ」

「差し入れとは違いますけれど、受け取っていただきたいのがあるんです」

「うおっ!? コレオルレアン公爵令嬢誕生会の招待状!? マジ?」

「マジです。夏の間世話になったラウールさんには是非来ていただきたいかなって」


 夏の癖で部下から書類を受け取るように受け取ったラウールさんはそれを目にして驚きを露わにした。彼は洒落た造形のペーパーナイフで丁寧に封を切って中身を読んでいく。読了すると今度は丁寧に畳んでから封に入れ直し、机にしまい込んだ。

 しばらく口を閉ざすラウールさんは腕組みしたままわたしを見つめる。


「オタク、誰かと婚約結んだわけ?」

「えっ!? きゅ、求婚は受けました……」


 不意打ちにも程があるでしょうよ! 声が裏返っちゃったわ。きっとわたしの左手薬指にはめられたアルテュールからの婚約指輪を見てそう判断したんでしょうね。彼は慌てふためくわたしに優しげに笑いかけた。


「いや、アランソン家の坊ちゃんがオタクに心奪われたって聞いてたものだからね。その様子だと満更でもないんでしょ?」

「少なくとも断る理由はどこにも見当たりません」

「玉の輿? いやこの場合は公爵家同士の婚姻? まあ何にせよオタクが幸せになるならそれでいいんだけれどさ。いいよ、何とか仕事を片付けてそっち行くからさ」

「ありがとうございます」


 わたしは彼に深々とお辞儀をさせてから帰路に付いた。とは言え既に太陽は地平線の彼方に没しているので、闇から闇の移動でオルレアン邸まであっという間なのだけれど。

 こう自分の手で招待状を渡していくと段々と当事者なんだって実感が湧いてくるものね。


 ■■■


 闇属性発覚イベントを境にわたしがオルレアン家メイド服に着替えるのも従者用宿舎ではなくオルレアン邸に用意されたカトリーヌ・ドルレアンの部屋になっている。しかも着替えにはわたし付き侍女のリュリュが甲斐甲斐しく手伝ってくれるのだ。何だかこそばゆい。


「お帰りなさいませお嬢様。お客様が参られています」

「お客様? わたしに?」

「はい。夜遅くなのでお帰り頂こうとも考えたんですけど、お嬢様がお戻りになられるまで待つと仰っていまして」

「……誰だろう? 見当が付かないや」


 お父様はまだ正式にはわたしをオルレアン家に迎えるとは表明していない。けれどただのカトリーヌに用事があってオルレアン家を訪れる人に心当たりが無い。首を傾げながらも応接室に足を運ぶ。応接室の扉を叩いてから入室、客人に一礼する。


「従者カトリーヌただ今参りました」

「夜遅くに来てしまってすまないね。けれど君とはこうして一度は話し合いたかったんだ」

「……っ!?」


 声を聴いて真っ先に浮かんだ感想は「何故!?」だった。何しろ今の今までわたしは声の主とは全く接点を持たないままでいた筈。なのにどうして彼がわたしを知っている? どうしてわたしに会いに来たんだ? 何もかもが分からなくて混乱するばかりだ。

 動揺を悟られまいと努めながら面を上げる。やはりというかわたしが想像していた人物がそこにはいた。彼が身に纏うのは王立図書館司書の制服。背丈は高めでやや暗い印象を抱かせるもののその容姿は恵まれていると言っていい。眼鏡に手を触れつつ彼はわたしに一礼した。


「まずは自己紹介を。僕の名はダミアン。王立図書館で司書を務めている」


 ダミアン、唯一会っていなかった『双子座』の攻略対象の一人が――。

お読みくださりありがとうございました。

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