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フリメール②・面会に来ました

 『双子座』だと投獄イベントが発生してしまうと魔女として処刑一直線になってしまいもう取り返しが付かない。だからそうならないようプレイヤーには闇属性発覚時期やその際味方になってくれる攻略対象者の好感度の調整が求められる。

 ちなみにこのイベントってこれまで歩んだ過程が試される受け身形なのよね。メインヒロインの選択やミニゲームの成績次第でどうとでも変わる他のイベントと違ってさ。


 この危機を乗り越えられるとより攻略対象者との絆が深まる褒美があったりする。勿論わたしは別に攻略対象者の好感度を増やしたいと思わなかったから発生させない気満々だった。素直に白状するとアルテミシアの告げ口は少々計算外だったわ。


 とは言え、アルテミシアの転入から何も対策を講じなかったわけでもない。後はどこまで効果を発揮するかだけれど、本来の流れから外れすぎていてこの先は正直未知数だと言わざるを得ない。これまでわたしが培った絆が試されるので戦々恐々だった。


「あら、思っていたよりは元気そうね」


 そんなわたしの不安を振り払ったのは他でもないジャンヌだった。面会室で厚みのある硝子越しに現れた彼女は気品を感じさせるゆったりとしたドレスを身に纏っていた。腰を落ち着ける仕草も洗練されていて優雅の一言。正に手本とすべき貴族令嬢の鏡の佇まいだった。

 一方のわたしは拘束された際の学園の制服からは着替えている。所謂囚人服なのだけれど質素ながら生地はしっかりしている。多分貧民街で過ごした幼少期の穴開きボロ服が恨み言を呟くぐらいはるかにマシだと思う。

 ちなみにアルテュールから送られた婚約指輪は外していない。正確には外れなかった。肉に程よく食い込む丁度いい大きさだから別に油で滑らせなくても外れると思ったのにね。まさかわたしを逃がすまいとする呪いの指輪じゃあないでしょうね?


「わたしももっと拷問に近い取り調べを受けると思っていたのだけれど……」

「後でアルテュール様には感謝しておきなさい。あの方が奔走して公正な裁きを受けられるようにしたようだから」


 ジャンヌの話だと闇の申し子は問答無用で終身監禁または処刑されるらしい。当の本人ばかりか今まで育ててきた家族まで秘匿した罪で裁きの対象になるんだとか。「魔女だろ?」と拷問を受けて口を割らなければ地獄は続き、認めれば魔女として罰を受ける。完全に詰んでいる。

 わたしが捕まった後でジャンヌは真っ先にわたしの家族を保護、今は従業員宿舎に匿われている。と同時にアルテュールがわたしが教会の異端審問官達から拷問や私刑を受けないよう司法を司るアランソン家を動かして瀬戸際で食い止めているらしい。


 ……道理で投獄されてからそこまで酷い扱いを受けないわけね。初回で絞首刑前に勾留されたジャンヌの方がはるかに酷い目に遭っているのに。ジャンヌにもアルテュールにも感謝してもしきれないわ。


「カトリーヌの裁きについては異常なぐらいの速さで審議が進んでいるんでいるみたい。多分一週間もかからずに何らかの処遇を言い渡される筈よ」

「神様の信仰を揺るがす存在、闇の担い手なのに随分と簡単に決まっちゃうのね」

「アランソン公家が教会が介入する前に片付けたいようだから。時代によって解釈が違っている宗教的解釈は極力排除するつもりのようね」

「宗教と王権はまだ切っても切り離せないのに……」


 焦点は闇の申し子はその存在から罪になるのか、だとジャンヌは語ってくれた。驚いた事に二人だけじゃなくてシャルルやお母様もわたしを助け出すべく多くの人達に接触しているんだとか。そして旦那様も水面下で国王陛下方と協議を重ねているらしい。

 ただの貧弱一般娘でしかないわたしのために多くの人達が発起している。それがわたしには嬉しくてたまらなかった。


「それに、いざとなったら伝家の宝刀を抜けばいいんだしね」

「奥の手を?」


 喜びを噛み締めるわたしに向けてジャンヌは優雅に、けれど不敵に微笑んできた。わたしにはさすがにジャンヌ個人がどうやってわたしを救うつもりなのか全く考え付かなかった。


 ■■■


 その後も何人かが面会に訪れてくれた。

 旦那様はさすがに一分一秒を大事にしたいらしくリュリュが状況報告に来てくれた。リュリュはほぼ毎日と言っていいぐらい頻繁に訪ねてくれた。ただの同僚なのにどうしてと聞いたら「旦那様にお聞きください」と笑顔で拒絶されてしまった。

 最初の一回だけ面会に来たお母様はとてもわたしを按じてくれていた。必ず助け出すって熱意を込めて言ってくれたものだから思わず打ち震えてしまった。わたしの家族の無事はお母様の口から直に聞いた。何でも家族の付き合いに発展しているんだとか。


 アルテュールと顔を合わせたのは一回きりだった。わたしは心配だけれど少しでも有利な立場に持って行くために時間を費やしたいんだとやや疲れた様子で語ってくれた。いの一番に迎えに行きますって彼は真剣な顔で語ってくれた。

 後はクロードさん、そして意外にもクレマンティーヌ様がいらっしゃった。彼女は生まれながらにして罪深いだなんて時代錯誤で馬鹿馬鹿しいと吐き捨てていた。むしろそんな扱いをするから神様に背くんじゃないのか、とも語っていた。鶏が先か卵が先か、だったっけ。


「あら? 意外にもしぶといんですねぇ元メインヒロインさん」


 そして、アルテミシアもまた。


 『双子座』では挽回不可能な立ち位置にいるわたしがまだ余裕そうだからか、顔を見せるなりアルテミシアは露骨に不機嫌さを露わにさせてきた。大方きららの書いたバッドエンドよろしく拷問や凌辱を受けて雑巾のようになったわたしを嘲笑いに来たんでしょう。意地悪い。


「捕まってどんな酷い目にあっているかと思ったら意外に待遇良くてがっかりです」

「アルテミシア様が仰る物語の中のメインヒロインとやらみたいにですか?」

「闇の申し子として投獄されたんですから絶対に逃れられませんよ。それはカトリーヌさんも存じている筈ですよね?」

「わたしは物語の登場人物と違って今を生きています。最後まで分からないじゃないですか」

「分かります~。だってここは『双子座』の世界なんですから」


 ゲーム世界を体感してるんじゃなくてあくまで『双子座』似の世界ってだけでしょうよ。運命は変わらないとか主張したいのかもしれないけれど、その運命を執筆したのは他でもないこの私。創造神もわたしの失敗を望んでいないみたいだし、脚本の強制力なんて無いんじゃないかしら?

 けれどどんなに反論した所で目の前の伯爵令嬢は信じないようね。『双子座』ファンを公言するだけあって崇拝すらしているみたいだし。作者として絶対視してくれて嬉しい反面わたしとしてはあまり望めない思想だって断じていい。


「で、この際ですし腹を割って話し合っちゃったりしませんか?」

「腹を割って? 別にわたしはアルテミシア様に打ち明けるような事は……」

「どのシナリオにも無い悪役令嬢とメインヒロインの同時ハッピーエンドでしたっけ、カトリーヌさんが目指すのは」

「答える必要はありません」


 その話はこの間したでしょうよ。わたしは作品としての『双子座』を知る私について一切口を滑らせるつもりは無い。どんなにアルテミシアが熱く語ったって考えは変わりやしない。結局わたし達は相容れないんだって結論が出ているのに……。


「ああ、カトリーヌさんは何か勘違いしているかもしれませんけれど……」


 アルテミシアの顔から笑顔が消えた。その瞳に宿るのは憤りだった。


「わたし個人は別にアンリ様や王太子様方なんてどうでもいいので」


 そして、その口からとんでもない真意が飛び出てきた。


 は? 攻略対象者達なんてどうでもいいですって? 今まで散々色目を使ったり悩みを解決したりして気を惹いてきたのに? 乙女ゲー通りにジャンヌを悪役令嬢として破滅させてシャルルを我が物にしようとしているくせに?


「それは手段であって目的じゃありません。そこ勘違いしないでもらえません?」

「婚約者がいるお相手をも誑かしておいて何を仰るんです?」

「だって悪役令嬢を破滅させるためには攻略対象者方の助力が必要不可欠ですもの」

「だからジャンヌを破滅させるのは……」


 いや、待てよ。これも順序が逆だったとしたら?

 わたしはてっきりハーレムルートでも目指す為に邪魔な一作目メインヒロインを退場させた上でジャンヌを断罪イベントで破滅させるんだとばかり思っていた。けれど本当はわたしを舞台から突き落すのも攻略対象者達に粉かけるのも全部ジャンヌの破滅に繋げるためだとしたら?

 この予想が正しければアルテミシアの悲願はメインヒロインに成り代わりたいんじゃない。乙女ゲーの再現って面では正しくても……。


「わたしが狂わせた『双子座』のシナリオを脚本通りに軌道修正するため?」


 わたしの答案に対してアルテミシアは満面の笑みを浮かべてきた。

お読みくださりありがとうございました。

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