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メシドール①・初の期末を迎えて

 学園に入学してから三か月になろうとしていた。


 朗報と言うか悲報と言うか、未だに全攻略対象の好感度はこれっぽっちも上昇していない。別に今のままジャンヌに付き添う学生生活も十分に楽しいし。あえて学園内で慕われる各攻略対象に近づく理由が乏しい、というか面倒くさい。乙女ゲー主人公にあるまじき発言だけど。


 そんなわけで今の所男っ気が無い生活を……とはさすがにいかなかったかな。だってジャンヌは王太子様の婚約者だから、必然的に王太子様とのお付き合いが生まれる。傍にいるわたしもおすそ分けとばかりに王太子様方と言葉を交わしていたから。


「あら、今のところはどの殿方にも色目を送らないのね」

「あはは、高貴な方々に取り入ろうとか好かれようって気が無いから」


 乙女ゲー主人公に転生しました。だからゲームと同じように立ち回ってハーレムエンドにします。私だってそんな小説も読んだ事はあるけれど、いざ自分がその立場になるとそんな気は微塵も起きないんだよね。玉の輿に興味なんて無いし。


 メインヒロインはどうもジャンヌが送ったやり直しの一回目から五回目までで基本攻略対象キャラ五人をそれぞれ攻略したらしい。なのでジャンヌはわたしが不自然に彼らを避けようとする動向にも納得した様子だった。


「ところでカトリーヌ。攻略対象の方々って各々が問題を抱えているんだけれど、解決してあげないの?」

「……よそ者の平民が首を突っ込んでいい事柄じゃあないよ」

「ふふっ、それもそうね。ご自分のお悩みはご自身で解決していただきましょう」


 攻略対象の個人ルートに入ると内在していた問題が浮上したり騒動が起こったりで簡単にハッピーエンドにはならない。攻略対象はメインヒロインと手を取り合って解決するって流れだ。時には家の不祥事だったり時には大怪我だったり、誘拐事件もあったっけ。

 けれど専用ルートに入った際他の攻略対象は必然的にメインヒロインなしに難題に直面するんだよね。でも特に破滅しましたなんて展開にはならないから、メインヒロイン抜きでも解決しちゃっているんだろうね。攻略対象は国を代表するほど有能な方々だし。

 うん、ますますメインヒロインが攻略対象とくっ付く理由が無い。ここは予定通り『双子座』の本筋そっちのけで学生生活を満喫した方がよさそうね。


「で、攻略対象ってシャルル殿下やアンリ様方五人だけなのかしら?」

「……何でそれをわたしに聞くのかな?」

「だってカトリーヌったら、シャルル殿下方以外に意図的に距離を置こうとする殿方がいないようだから。私がまだ経験していないだけで他のどなたかも攻略対象なんじゃないかなぁ、って」


 ジャンヌから基本攻略対象キャラ以外について追及も受けた。説明書とか公式サイトでアナウンスしている王太子様方五人以外の攻略対象、即ち隠しキャラがいるんじゃないかって。答えは適当にはぐらかせたけれど、ジャンヌは明らかにいるんだって確信している様子だった。


 ジャンヌが疑っている通り『双子座』には隠し攻略対象キャラが三人いる。ただ他の五人と違ってゲーム内の選択肢次第じゃあなくてミニゲームのスコアとかギャラリーの開放率とか多くの要素が関わってくる。

 余談だけれど、条件は結構難しくしたのに攻略サイトにあまり日を置かずに掲載されちゃったんだよね。情報社会恐るべし。


「まさかメインヒロインさんはまたこの私を出し抜こうとしているのかしら?」

「全然そんな意図は無いよ。言ったでしょう、恋愛にかまけてる暇なんて無いって」

「ふぅん、じゃあメインヒロインさんが粉をかける相手はもういないって主に誓って」

「もし攻略対象が他にいたとしても、少なくてもわたしはまだ出会ってないかな」


 勿論シナリオライターだった私はどの方が隠し攻略対象なのかは把握している。例にもれずに隠し攻略対象を攻略してもジャンヌは断罪される。この様式美を避けたいがために隠し攻略対象へも意図して関わらないようにしていきたいものね。

 とは言え、本編以外の要素で解禁になる裏ルートは数少ない学園外イベントが重要になる。と言うのも三人共学園の学生じゃあないからだ。勿論学園、家、オルレアン邸を行き来するだけの毎日を送るわたしはまだ顔を見てもいない。


「やっぱりいるんじゃないの。メインヒロインさんったら節操なく股を開くのね」

「その言い方はさすがに下品じゃないかな? せめて媚を売るとか言えない?」

「あまり変わらないじゃないの。まあいいわ、それで一体誰なの?」

「……お察しください、とだけ言っておくね」


 ちなみにわたしは未だにジャンヌに対して前世の記憶があるって事情を暴露していない。言い出すにはまだ早いって自分に言い聞かせて先延ばしにしている。多分事実をどうジャンヌが受け止めるか予測もつかなくて怖いからだ。

 適当にはぐらかすわたしにジャンヌは怒りもせずに接してくれる。今はそこまで追求する時じゃないって判断してくれているのか、それともわたしの心中を察しているのかは分からない。けれど今はジャンヌの考えに甘えていようと思う。


 ところで、やっぱりジャンヌとべったりになると弊害も出てくる。


「あらカトリーヌ、今回は彼女達とは仲良くしないのね。別に私は前回と同じように絆を深めたって構わないのよ」

「別にいいよ。ジャンヌと一緒にいられたら十分楽しいし」

「それは光栄ね」


 例えば『双子座』においてメインヒロインは何名かと交流を深めていく。ジャンヌやクレマンティーヌ様の派閥に加わらない、加われない子爵令嬢方だ。話し相手になってくれたり悩みを相談したりで、身分を超えた友達になってくれるんだ。

 ところがわたしは入学して早々にジャンヌと仲良くなってしまった。なものでそのメインヒロインの友達予定だった人達と付き合う機会を逸してしまった。代わりにクレマンティーヌ様の派閥に加わったり少数でグループを作ったりで、立ち位置ががらっと変化したようね。


「けれどいいのかしら? 子爵令嬢や没落伯爵家の四女なんて派閥に加わった所で取り巻きにもなれずに観衆同然になっちゃうんじゃあないの?」

「身勝手かもしれないけれど、今のわたしには関係無いかな」


 そうは言ってもわたしが現状で満足してしまっている。これ以上交流の幅を広げようと思えないのだから仕方がない。メインヒロインはメインヒロインでわたしはわたし。それだけわたしの中で悪役令嬢だった筈のジャンヌの存在が大きくなってしまっているんだろう。


 結局わたしの学園生活は良くも悪くもジャンヌだけに依存したものになっていた。オルレアン訪問以降は特にこれと言って大きなイベントも無ければ事態を大きく揺るがす事件も起こっていない。波乱万丈とも言える乙女ゲーだなんて思えない平穏ぶりだった。


 そうして早くも期末試験の時期になった。


「見てよジャンヌ。この間の中間試験よりいい点数取れちゃった」

「あら本当ね。内容が前より難しくなっていたのに良く頑張ったじゃあないの」

「……ジャンヌは相変わらずみたいだね」

「ええ、試験範囲の内容は理解出来ているもの。わざわざ満点を目指す必要は無いわ」


 わたしはこの前より高得点が取れたので嬉しくなってまたジャンヌに見せびらかせた。一方のジャンヌは相変わらず一回問題を解いたら特に見直さずに早々に教室を後にしていたからか、ポカミスが散見された。


 女性の社会進出なんてこの世界じゃあまだはるか遠い未来の話。それでもわたしが男性に媚を売らずに衣食住を安定させたい。そうするにはそれ相応の能力を持って成功し続けるしかない。その為にもひたすら勉強あるのみ。折角学園って学びの場にいるんだもの、頑張らないとね。


 ところが前回と違ってジャンヌはわたしの答案用紙を目にすると浮かない顔をさせる。別にまだジャンヌを追い抜いたわけじゃないのに、どういう事だろう?


「カトリーヌ、どうして高得点を取ったの?」

「えっ? だって成績上位を維持してないと特待生から外されちゃうから」

「とぼけてるのか本当に知らないのか分からないけれど、カトリーヌがそうしたいならもう私からは何も言わないわ」

「? 高得点を取ったら何かあるんだっけ?」


 首を傾げるわたしにジャンヌは目を丸くして、次には口元に手を持っていきつつ視線を逸らした。高得点を取ってジャンヌ、もしくはわたし自身に何か不都合な事でもあったっけ? えっと、確か期末試験は学期の成績を左右する重大な要素で、上位成績者は……。


「あ……? ああぁ~~っ!」

「……まさか忘れていただけ?」


 学年の上位十名は王家主催の社交パーティに招待される。社交界デビューしている貴族令嬢方だけじゃなくて、一般市民枠で入っている優秀な生徒達も招かれるんだった。そう、例えば一般市民枠では最高の順位になったわたしのような。

 張り切りすぎた。ジャンヌとの勉強が楽しかったのもある。『双子座』内だと期末テストって名目のミニゲームだったせいもある。おかげでこの時期の社交パーティイベントが期末テストに直結していたなんてすっかり失念していた。


「どどど、どうしようジャンヌぅ~!」

「今更私に話を振られても、困るわ」


 そして、コレへの参加は隠し攻略対象ルート突入に欠かせないんだった。

お読みくださりありがとうございました。

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