~玄武~
北方に向かっていた志田の前に黒い虎を連れた黒衣の男が立ち塞がった。
「ほぅ。亀蛇相手かと思ったが黒虎か? 」
「余は太陰神、玄天上帝。玄冥の武神である。無駄な足掻きはやめるがよい。」
玄天には、立っているだけで威圧感があった。だが、志田にとっては大きな物ではなかった。
「フッ。威圧感だけならサマエルと変わらねぇな。つまり… クロノスには及ばないって事だ。」
志田とベオウルフが同時に幻影分身を展開した。
「この玄冥の武神に数で圧倒出来ると思うてか? 」
「ならば、地獄の冥王もお相手いたしましょう。」
この世界で地獄の冥王を名乗る者を志田は1人しか知らない。
「ヨミ、何しに来た? 」
ヤーマ・ヨミ。三国の1つ、地獄の王である。
「なるほど、汝が冥王か。汝を屠れば、この世界の掌握も進むというものか。」
玄天のヨミへの視線に志田が割って入った。
「ヨミを屠る? そんな事を地獄の装魔である俺の前でさせると思うか? 」
「未熟なる王の喚びし未熟なる装魔。クロノスに比ぶれば、とるに足りぬ存在。さようなる貴様に防げるとでも思うてか? 」
「どいつもこいつも、クロノス、クロノス、クロノスっ! 確かに、あいつは強い。スキルと武器を効率的に活かしてデータスペック以上の攻撃力を叩き出す。文字通りの限界突破をコンスタントに咬ましてきやがる。俺の頭じゃ、今の武器で、今のレベルで、あいつの上に行くのは難しいかもしれない。それでも貴様より弱いとは限らないんだよっ! 」
志田とベオウルフは幻影と共に玄天目掛けて走り出した。
「確かに私は未熟かもしれない。けれど、志田を喚んだ事は正しかったと信じています。冥府魔道っ! 」
さすがに地獄の冥王。鬼祷師の放つ魔道をはるかに凌ぐ力を解き放つと、さすがの玄天も身動きを封じられてしまった。
「やったか? 」
だが、傷だらけになりながらも玄天は立ち上がった。
「ど、どうやら冥王と、その装魔。見くびっていたようだな。されど、余も不死と呼ばれた玄冥の武神。そう容易く倒せると思うなよ。」
「すまない志田… 今のでもう… やはり私は未熟… 」
「泣き言、言ってないで、交代しましょ? 」
ヨミに肩を貸したのは極楽の女王デュシス・アナトレーだった。
「何故? 私は極楽に侵攻しようとしたのに… 」
「今、国を、この世界を守るのにどうするべきか。それを考えたなら、貴女も王なら、答えは一つでしょ? 」
デュシスの言葉にヨミは涙ながらに頷いた。
「それじゃ、一番美味しいところは頂くとしようかな。玄天、ここからは極楽の六煌将が一人、雷煌将、瞬雷のボルテルがお相手しよう。」
ヨミに力を封じられ志田とベオウルフに痛めつけられた体では玄天といえどボルテルの敵ではなかった。
「悪いね。」
「俺はヨミが無事なら、それでいい。」
手柄を掠め取った形になって詫びるボルテルに、志田は苦笑しながら答えた。




