~烏と鏡~
「そいつのコードネームはレイヴン。真名はわからない。天国の奴らしいんだけど、大切な物を志田に盗られたらしいんだ。」
鬼沙羅の話しからすると、地下牢のどこかに監禁されているらしい。
「正確な場所が判れば…。牢の周りに結界の類いは? 」
「地下牢は地鬼の管轄だから。」
「地鬼? 」
あまりにも情報の無い状況では、朱鷺坂には聞き慣れない名前がよく出てくる。どうやら天国、極楽と国交が断絶している所為で情報が皆無なようだ。メディア的なものも無いようなので仕方ないのだろう。
「地獄には焔鬼の攻撃部隊、風鬼の治安部隊、水鬼の防衛部隊、地鬼の取調部隊、鬼祷師の鬼道衆、志田の『砂の旅団』の六つの部隊があるんだ。ただ、各部隊の仲は悪くて情報交換はされてないよ。」
「それで…、一応聞くが、そのレイヴンを助けたい理由は? 天国の人間を鬼族が何故助けようとする? 」
朱鷺坂の質問に鬼沙羅は答え倦ねているようだった。
「やっぱり罠なんじゃねぇのか? 」
「二俣は黙っといて。」
「俺は二俣じゃなくて猫又だ。人聞きの悪い呼び方はやめてもらおうかっ! 」
今にも喧嘩の始まりそうな陽子とセンリを蘭々が何とかなだめて鬼沙羅の次の言葉を待った。
「そいつは、その盗られた物で地獄に光を齎そうとしていたらしいんだ。 」
「そうなると拙い輩が、六つの部隊の中に居るって事か? 」
鬼沙羅は黙って頷いた。
「わかった。陽子はサクヤと天国に戻って、アマテラスやイザナに、この話しを伝えて心当たりがないか、聞いて来てくれ。猫まんまと二俣は国境の監視を頼む。何かあったら、すぐ知らせてくれ。俺が動くから猫たちは監視だけでいい。陽子が戻り次第、レイヴンの救出に向かう。」
「だから、俺はセンリで、お嬢は蘭々だっ! 」
センリが呼び方に反論するも、気にとめられる様子はなかった。そもそも、蘭々すら名前ではない。
「そいつぁ、八咫だな。」
陽子から知らせを聞いたアマテラスは即答した。
「やあた? 」
「あぁ。おそらく、レイヴンってのは八咫烏、盗られたってのは八咫鏡だ。」
そう聞いて陽子も納得した。
「なるほど、アマテラスとヤタガラスの関係は世界が違っても変わらないのね。」
今度はアマテラスが怪訝そうな表情を浮かべた。
「あ、気にしないで。あたしたちの世界の話しだから。」
「そうかい? にしても、八咫烏が捕まってたとはな…。すぐにでも俺が… 」
コホン…とアマテラスが何を言いかけたかを察してイザナが咳払いを挟んだ。
「分かってるよ。行くなってんだろ? 」
「それなら、代わりに僕が行こうか? 」
柱の陰から一人の青年が姿を現した。




