~禍根~
「団長っ! 」
亜空間から戻ったのを、真っ先に見つけたのは蘭々だった。皆は全てが終わったと思っている。美子たちは宴の準備に忙しそうだ。朱鷺坂には、この状況に水を差す気にはなれなかった。
「朱鷺坂… 」
「まだ、クロノスでいいぜ。けど、皆は還してやってくれないか? 」
声を掛けてきたアマテラスに朱鷺坂はそう答えた。アマテラスもまた、全てが終わった訳ではない事を知っているのだろう。
「いいのか? 」
皆を還す。それは、この世界に自分と同じ世界の人間が居なくなる事を意味する。朱鷺坂がこの世界に来てから、それなりに経ち、こちらの知人も増えただろう。
「お前ぇさん、他の装魔みてぇに、こっちで友人作ってねぇだろ? 」
どうやらアマテラスは、皆を還した後、朱鷺坂が孤独感に襲われるのではと心配しているようだ。宴の途中からパラパラと還りだす者もいた。
「あんたは知らないだろうけど、声や文字で会話してたって、画面の前には1人で居るんだ。ソロクエストだと思えばどうって事ないさ。」
「その面白そうなクエスト、マルチは出来るの? 」
振り向くとセレスティアが立っていた。
「最後まで1人で格好つけさせねぇぞ。」
志田も声を挙げた。
「あんたが喚ばせたんなら、最後まで責任取ってよね。」
「副団長、なんかニュアンスが… 。」
いつの間にか、実里と蘭々もやって来た。
「もうサマエルは倒したんだ。還れ還れ。」
「無駄よ。貴方が同行を認めないなら、黒の旅団は単独でも動く。極楽の装魔として。」
仮面を着けた時の都は強気だ。
「この先は、この世界からしたら異世界同士のぶつかり合いだ。拙いと思ったら躊躇せず還れよ。でないと本当に還れなくなるからな。」
この残ったメンバーは、どうせ説得しても聞く訳がない。朱鷺坂は仕方なく同行を認める事にした。
「クロノス、この世界の危機を任せてすまない。」
アマテラスも、この先の戦いに天国の軍が役に立たない事を知っていた。かといって天帝が自ら動く訳にも今回ばかりはいかない。
「蘭々、気をつけてね。」
デュシスは、ただ友の身を案じていた。
「志田… アントリオン… 影狼… なんとお呼びすれば… ともかく無事をお祈りしています。」
「ほら、コロコロ名前を変えるからだ、ウスバカ。」
「だから妙な箇所で切るなと… もう、いいっ! 」
風の旅団の三人、黒の旅団の三人、砂の旅団の一人、それにセレスティアを加えた8人は先に進む事にした。ゲームであれば拡張パッケージの追加イベントというところか。そう単純ではない事は全員が覚悟していた。




