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~荒ぶる海神~

 極楽と地獄に挟まれた海洋は天国と極楽の間よりも遥かに狭い。対岸が見える程の幅であるが、海と認識されているのは水質が海水な為である。そして、そこは海の嵐ラ・テンペスト・ディ・マーレの異名を持つ軍神スサノオにとって、戦場である。

「婆さん。なんで、ついてきた? 」

 スサノオは船の先端に立って水魔ケルピーが群れている海を見つめたまま、後ろに居たオモイカネに声を掛けた。

「なぁに、ただの暇潰しさ。」

「今の状況で救世軍の叡智ウィズダム・オブ・サルベーションが暇な訳がないだろう? 」

 そう言われて少しオモイカネは顔を顰めた。

「知恵をつけるな、面白くない。それに、巷で天国、極楽、地獄、流浪の民、特異点が混合状態のお前さんたちを救世軍と呼んどるのは知っとるが、一緒にせんで欲しい。儂はあくまで天国のオモイカネじゃ。」

「相変わらず面倒臭い婆ぁだな。どうせ海魔の心配だろ? 」

「分かっとるなら、態々聞きなさんな。相手が海鬼と水魔だけなら放っとくが、セイレーンは一筋縄ではいくまい。波の上、船上が戦場のお前さんではな。」

「… 駄洒落言ってる余裕があるなら大丈夫そうだな。海魔の群れに突っ込むぞ。」

「駄洒… あっ」

 そんなつもりは無かったらしい。だが、反論する前に船は群れに突入した。船縁から銛を射ち、上がったきた海魔を切り捨てる。スサノオの兵士たちは百戦錬磨の強者だ。そう簡単には侵入を許さない。そんな状況の中、黒い霧が湧き始めた。

「おいでなすったね。」

 身構えたオモイカネの視線の先に2つの人影が立っていた。

「へぇ、お前さんたちは石に喰われてないみたいだね。」

「人造といえど魔煌石。魔石と一緒にしないで欲しいわね。そもそも、後埋めでもないしね。」

 セイレーンは、やや不機嫌そうに言った。

「そもそも、魔石いしなんて埋っちゃいないよ。」

 眠鬼は吐き捨てるように言った。

「どうやら二人は、ここに来たのが不本意みたいだね。」

「そりゃね。七人の魔女(ズィーベン・ヘクセン)なんて呼ばれても所詮は本物の魔煌石の実験台。前に言われたとおり、紛い物だったって事。スキュラの最期があれじゃ、嫌でも悟るさ。」

「それでも、戦うのかい? 」

「人造品だからね。造り手には逆らえない… 。代わりに貰ってやってくれるかい? 」

 そう言ったセイレーンが眠鬼を蹴りだした。

「何すんだいっ! 」

「達者でおやり。」

 そう言い残してセイレーンが水魔の群れに飛び込むと海鬼もろとも黒い霧が飲み込んでいった。

「… 俺の出番は、見せ場は何処いったぁ~っ! 」

 スサノオの怒声が静寂を取り戻した海に虚しく響いていた。

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