~極楽王城の装魔~
ー極楽ー
黄昏の国とも呼ばれる昼と夜の狭間の国。太陽は昇る事も沈む事もない。極楽王城が城主、アナトレー家が治め、先代ヘスペリスの急死に伴いデュシスが即位する事になった。
朱鷺坂と陽子はイザナに呼び出されて、アマテラスの所に居た。朝、昼、晩の無い生活にも多少慣れてはきたが、時間にルーズという以前の行動原理は何とかならないだろうかと思っていた。こちらが気にしていても相手が、この調子なので最近は地軸計も、あまり見なくなっていた。
「急に呼び出して、すまねぇな。悪ぃが、俺の名代で極楽に行ってくれねぇか? 」
朱鷺坂は少し考えた。
「なぜ、俺に? イザナも居るし、天国にも外交の担当者は居るのだろう? 」
「いや、今回は外交って言っても祭事の出席なんだ。お堅い役人より、特異点のお前さんの方が適任だと思ってな。」
「こっちも居候の身だ。行くのはいいが、祝辞の文書は用意してくれ。トラブルは俺の判断で動いていいのか? 政治的忖度が必要なら先に言っておいてくれ。」
「祝辞は用意してある。トラブったら、お前さんの判断で構わねぇ。責任は俺がとる。」
祝辞の文書を受け取ると朱鷺坂は振り向いた。
「サクヤ、案内を頼む。どうせ、すぐ出立なんだろ? 」
見ずともアマテラスが頷いているのが分かる。支度をするにしても、ほとんどの物が支給品であり、サクヤが準備を済ませてくれていた。敢えて持った物といえば魔導小銃くらいなものだ。不夜城を出ると豪華な船が用意されていた。天帝の名代なのだから当然かとも思う。所要時間を聞こうとして思い止まった。おそらく、着いた時が到着時間と言われそうだから。天国と極楽は陽海、極楽と地獄は魔海で隔てられているそうだ。程無くして船が極楽の港に着くと、厳重な警備の中、少女と老婦人が待っていた。
「ようこそ、いらっしゃった。うちゃ、陛下の名代で装魔の蘭ばい。」
「装魔? 」
朱鷺坂にとっては初めて耳にする言葉だった。
「この国では特異点を、そう呼んでおります。申し遅れました。わたくしはデュシス・アナトレー女王にお仕えしております乳母のエウノミアと申します。」
蘭という少女は装魔、つまり特異点という事は朱鷺坂同様、召喚されたのだろう。見た目から日本人のようだが、どうやら異なる言語は聞きやすく翻訳されるのに訛りは対象外らしい。
「こっちも名代だ。楽にしてくれ。俺は天国の特異点…装魔か。朱鷺坂。これは…おまけの陽子だ。」
「これとか、おまけって何よっ! あ、あたいは妖狐の陽子。耳も尻尾も本物だから、遊ばないでね。」
(東京ん人やろうか? 苦手ばい。)
蘭はそこから、相槌を打つ程度で、エウノミアが話しをしながら極楽王城へと赴いた。




