~緋眼のセレスティア~
もうダメだ、とカレンは観念した。だが、鬼炎峰の剣がカレンに届く事はなかった。受け止めたのは一本の深紅のレイピアだった。
「怪我はない? 」
その表情はミラー状のアイマスクに覆われて伺い知れないが、聞こえてきたのは優しそうな女性の声だった。
「他人の心配とは、地獄の六禍戦業火の鬼炎峰相手に余裕だな? 」
「フッ、六禍戦だか一級河川だか知らないけど、あたしの敵じゃないねっ! 」
「クッ、生意気なぁっ! 」
再び鬼炎峰は剣を振り下ろすが、今度は半歩横に躱わした。剣は掠りもしなかったが、その剣圧にアイマスクが宙を舞う。直後、視線を合わせた瞬間、鬼炎峰は三歩程、後方に飛び退いた。
「なんだ… その魔物の如き赤い眼は… 。いや… 赤き瞳に赤いレイピア… 。聞いたことがある。貴様、緋眼のセレスティアか? 」
「おや、あたしも有名になったもんだね。その通り、あたしが緋眼のセレスティアこと、セレスティア=ローゼンハイムだ。」
そのやりとりを聞いていたカレンが何かを思い出したようにハッとなった。
「せ… セレスさん? あたし、カレンです。カレン・ジュラです。覚えてませんか? 」
「ハクアさんのお孫さん? おっきくなったねぇ。ハクアさんは元気? 」
「それが… 」
その先は言葉にならなかった。だが、両目一杯に涙を溜めて鬼炎峰を睨み付けた姿にセレスティアは全てを察した。
「どうやら、あんた、あたしの恩人の仇のようだね。なら遠慮なくいくから覚悟しな。」
対峙した鬼炎峰も直感的にセレスティアの強さを感じとっていた。数分の睨み合いの後、先に痺れを切らしたのは鬼炎峰の方だった。
「えぇぃっ、小娘一人に、この業火の鬼炎峰が気圧されるなど、ありえんのだっ! 」
まるで自分に言い聞かせるように鬼炎峰は、その剣を振り下ろした。それに合わせるようにセレスティアがレイピアを突き上げると刹那、鬼炎峰の剣は砕け散った。
「得物は大事にしないとね。刃こぼれした剣じゃ、あたしは斬れないわ。」
「ま、まさか刃こぼれしている一点に切っ先を合わせてきたのか? 」
「まぁね。」
セレスティアは笑って答えた。その笑顔に鬼炎峰の背筋が凍りついた。
「お困りのようだな? 」
不意に聞こえて来た声の方へ、セレスティアと鬼炎峰は視線を向けた。
「貴様… 極楽の魔煌将サマエルっ! 」
「あら、久しぶりね。でも、こちらの加勢に来た訳じゃなさそうね? 」
セレスティアと視線を合わせたサマエルは苦笑していた。




