~轟雷vs.瞬雷~
「顕現っ、黒焔龍っ!」
明日香が叫ぶと斬龍刀から黒い焔が吹き出し、やがて漆黒の焔を纏った龍の姿になった。
「へぇ、ちゃんとゲーム通りに出てくるじゃん。頼りにしてるよっ! 」
「何? 俺様ヲ倒シタノハ筋肉隆々ノ大男ダッタハズ… ダガ、コノ匂イハ確カニ… 」
「あぁ、どいつもこいつも御託が多いのよっ! 説明は後でしてあげるから、あの虎退治に協力しなさいっ! 」
「ワ…分カッタ… 」
痺れを切らした明日香の剣幕に、さすがの黒焔龍も気圧されていた。
「せいぜい雷獣に相手をしてもらえっ!」
鬼雷崩は明日香たちを後に拠点へと向かった。
「お待ち下さい。ここをお通しする訳には参りません。」
「ほう、兎男。貴様がこの鬼雷崩様の相手をしようってのか? 」
威圧感たっぷりに凄んで見せるが雪兎は気にも留めていなかった。
「お相手をして差し上げても宜しいのですが、お茶の支度もございますので、そちらの方にお任せいたします。」
雪兎は鬼雷崩に一瞥すると拠点へと入っていった。そして入れ替わるように別の青年が現れた。
「装魔の使い魔か。似て非なる人ならざる存在。どうにも掴めないが、状況把握は的確なようだ。」
青年は澄んだ瞳で鬼雷崩を見据えた。
「地獄の六禍戦、轟雷の鬼雷崩…あなたとは一度、手合わせしたいと思っていたんですよ。」
「貴様… この世界の人間だな。何者だ? 」
この世界の人間でありながら鬼雷崩と知った上で対峙するのは余程の愚者か強者か。
「極楽の六煌将が一人。雷煌将、瞬雷のボルテル。参る。」
言うが早いか、ボルテルの双剣が鬼雷崩に襲い掛かる。鬼雷崩も、かろうじて得物の戦斧で凌いだ。凌いだと言っても刃を盾のようにして受けただけである。振り向き様に、その戦斧を振り下ろすが、そこにボルテルの姿は既に無かった。
「雷を名乗るには遅すぎませんか? 」
「雷の本質は落雷の破壊力だ。貴様のは速いだけの代物よぅっ! 」
再び戦斧を横一閃するが、やはりそこにボルテルの姿は無かった。
「如何に破壊力があろうとも、当たらなければ意味は無いでしょう? 」
「如何に素早くとも、傷一つ負わせられねば無意味だろうがっ! 」
三度の斬撃をボルテルが躱わす事は無かった。振り下ろされた戦斧は少女の持つ巨大な剣に阻まれていた。
「向こうが片付いたんでね。」
明日香の視線の先では雷獣を黒焔龍が踏みつけていた。
「ちっ、分が悪いか。ボルテルっ、この勝負預けるっ! 」
鬼雷崩は足早にその場を立ち去って行った。
「追うかい? 」
ボルテルの問いに明日香は首を横に振った。
「賢明だな。」
「皆様、お茶のご用意が整いました。」
まるで計ったかのように現れた雪兎の言葉に明日香たちは拠点へと帰っていった。




