~最速の盾~
「ふぅ~」
マスクを外した都は、その場にヘタり込んだ。
「まるで別人ね。」
その様子を見て黒夢は呆れたように言った。
「でも… 最強魔法少女の片鱗は見せて貰ったわ。」
「これからも、こんな事が続くんですか? 」
疲れた表情で都は黒夢を見上げた。
「あのぉ~終わりましたかぁ? 」
声は黒夢からではなく、別の所から聞こえてきた。それも素っ頓狂な声で。
「相変わらず緊張感の無い… 。失礼しました。私は弩黒。あれは見習いの霧黒。逃げ足だけが取り柄の若輩者で。申し訳ありません。」
「ちょっと待って。」
弩黒と名乗った女性が霧黒を連れて行こうとしたのを都は呼び止めた。
「霧黒さん、あなたの逃げ足、確かめさせて貰います。」
都の言葉と同時に上空に黒いボール状の物が現れたかと思うと、霧黒目掛けて一斉に降り注いだ。
「何を… 」
急な出来事に弩黒が都に詰め寄ろうとしたのを明日香が製した。
「黒雪姫は何か考えがあるんだよ、多分。きっと、あの娘の可能性を見つけたんだ。」
「だが黒姫士、霧黒は攻撃力も防御力も紙だぞ? 魔力がある訳でもない。 偵察に出しても、すぐに見つかってしまう。後から見習いに来た黒守や黒衛にあっさり抜かれる有り様だ。」
「弩黒、まぁ我々の団長を信じましょう。」
黒夢の言葉に弩黒も大人しく状況を見守った。それは10分程続いたろうか。
「いきなり酷いですぅ~!」
息一つ乱さず霧黒はそう言った。
「合格だよ、霧黒さん。」
「へっ? な、何に合格したんですか? 」
何の事だか霧黒には話しが見えなかった。いや、都以外、誰にもハッキリ状況が掴めている者は居なかった。
「霧黒さんには、このパーティーのタンクをお願いします。」
「た…んく? 」
聞き慣れない言葉に霧黒はキョトンとした。
「ちょっと都、それは無茶だよ? 確かにスピードはあるけど防御力、紙だよ?」
「傷付きながら皆を守る防御力重視のタンクじゃなく、敵の攻撃を全て躱す最速の盾になって欲しいの!」
「でも、それって囮って言うんじゃ… 」
そう言いかけた黒守を霧黒が自ら制した。
「あたし、やります。地獄の極楽への侵攻が始まって、黒夢さんが狙われて、いつまでも見習いしてられません。今のあたしに出来る事があるんなら全力でやらせてくださいっ! 」
それは先程の素っ頓狂な声ではなく、決意に満ちた声だった。
「仕っ方ないねぇ…。 霧黒、脱ぎなっ! 」
「なっなっなっ… 」
明日香の言葉に霧黒は顔を真っ赤にした。
「何も裸になれってんじゃない。防具を脱げって言ってんだよ。」
「あ… はい。」
霧黒の脱いだ防具に明日香は、さっき倒した伏竜の血を掛けた。
「一竜一鎧。ゲームのルールどおりなら、一匹の竜の血で出来る鎧は一点のハズだ。これで少しはマシになるはずだよ。」
再び霧黒は防具を纏った。見た目も色も変わってはいない。重さは寧ろ前より軽く感じられた。
「何か力が湧いてくる感じです。ちょっと生臭いですけど… 」
かくして黒の旅団に最速の盾が誕生した。




