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~時空を越えて(前編)~

 少年は目を覚ますと硬い台座の上だった。起き上がってみると、まるで鏡のようで自分の顔が映っていた。

「よっ、目ぇ覚めたかい? 」

 少年に声を掛けてきたのは、きらびやかな衣装を身に纏った男だった。

「お前さん、名前ぇは? 」

 男の問いに少年は眉をひそめた。

「人に名を問うなら、先に名乗ったらどうだ? 」

「これ、みかどに、なんという… 」

 二人の会話に入ってきた老人のみかどという言葉に首を傾げた。

みかど? 」

「おうよ。我こそは三国が一つ、天国の天帝、不夜城の主、太陽のかんばせアマテラスっ!」

 少年には““?””の付く言葉が並べられた。

「まず…俺の名前は朱鷺坂ときさか、朱鷺坂 昇だ。天国というと俺は死んだのか? 不夜城? 三国? 」

「別にお主は死んどらん。」

 朱鷺坂の質問に口を開いたのは先ほどの老人だ。

「あんたは? 」

「コホン、わしは侍従長のイザナじゃ。お主は帝に召喚ばれたのじゃ。返還かえす時には、こちらでの記憶を消して、元の姿で召喚んだ直後に返還かえすから、何の心配もいらん。」

「でだ、」

 今度はアマテラスが話し始めた。

「不夜城ってのは名前のとおり。この天国には夜がない。中でも、この城は常に太陽の真下に在る。」

「だから不夜城か…」

「おうよ。」

 朱鷺坂は帝らしからぬアマテラスの言葉使いが気にはなったが、疑問点の解消を優先させる事にした。

「太陽は常にこの城の天頂から動かず、大きさも変わらず? 」

「変な質問するんだな? 太陽が大きくなったり小さくなったり、する訳あんめい? 」

 アマテラスの返事から朱鷺坂が導き出したのは、この城が赤道上に在り、ほぼ真円の惑星軌道で公転と自転が同期しているという事だ。地軸が90度傾いている可能性もあるが、確率的に排除した。

「確かに俺の住んでいた世界とは違うようだ。言葉は俺に合わせているのか? 」

「この世界に言語という概念はない。正確には無くなったのじゃ。相手の発した言葉は自分の理解しやすい言葉となって聞こえる。言葉の壁を取り除く為に大昔の特異点が施した大魔法じゃ。」

 イザナの説明に、なんと都合のいい魔法だろうか、と朱鷺坂は思った。こんな魔法があれば英語の授業は必要ない。別に不得意ではなかったが、得意でもなかったので、そんな思いに駆られたのかもしれない。

「その特異点とは? それに俺が喚ばれた理由は? 」

「お主も含め、特異点とは三国の主が即位した時にしたに召喚する、特殊な能力ちからを持った存在のことじゃ。」

「なら、人違いだろ? 俺には、そんな特殊な能力ちからなんてない。」

「いや、この世界に来る時備わるのじゃ。」

 そう言ってイザナは一冊の薄い本のような物を取り出した。

「この顕現調書によると朱鷺坂 昇、18歳。付与能力は時空魔法とある。」

「顕現調書? 」

 聞き慣れない言葉に朱鷺坂は思わず聞き返した。

「この世界に顕現するにあたって、お主の事が記された調書じゃ。とは言っても、この世界での事しか記載されておらんがの。」

「調書って事は、最初から名前とか知ってて聞いたのか? それに、付与能力って? 」

「まぁ、確認じゃよ。確かに、この調書の本人かのな。付与能力は、いずれ解る。あと、あそこで寝ている、お主の遣い魔も、そろそろ起こしておやり。」

 イザナに言われた方を見ると、朱鷺坂が目を覚ました台座の下に一人の少女がうずくまっていた。少女とは言ったが、どう見ても獣の耳と尾が生えている。人間では、なさそうだ。

「おい、起きろ。」

 朱鷺坂の声に耳がピクリと動いた。どうやら本当に生えているらしい。

「ふぁ~よく寝… ハッ、あたいが見えるの?! 」

 少女は驚いて飛び起きた。

「お主について来おった。イレギュラーなんで調書にも載っとらんから任せるぞ。」

「んじゃ、俺も帝としての仕事があるんで、また後でな。」

 それだけ言うとアマテラスとイザナは部屋を出て行った。入れ替わりにメイドがやって来た。

「朱鷺坂様、それと… 」

「陽子っ! あたいは妖狐の陽子。彼とは長いこと、一緒に… 」

「ちょっと待て。」

 不意に朱鷺坂が遮った。

「長いこと一緒に? ひょっとして、俺がたまに狐憑きとか言われるのは、お前の所為か? 」

「あれは、あんたが突然ブチ切れるからでしょ? 普段から、自分を出さない、あんたのストレス。なんでも人の所為にしないでよね、人じゃないけど。」

 二人のやり取りにクスリとしたメイドだったが、朱鷺坂の視線に気付いてすました。

「今日は、お部屋でお休みください。明日には街なども、ご案内いたします。」

 そして朱鷺坂は、あらかじめ用意されていた部屋に通された。

「で、なんで、お前が居る? 」

 朱鷺坂の視線の先には陽子がいた。

「仕方ないでしょ、イレギュラーの部屋は用意してなかったんだって。にしても、よく、この状況に動じないわねぇ。ホント感心しちゃう。」

「少なくとも、お前が同部屋って事には多少、動揺した。まぁ、ペットの狐と思えばいいか。騒いだところで、還してくれそうもないしな。それにしても… 」

 二人は窓の外に目をやると同じ言葉を口にした。。

「どこから明日なんだ? 」


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