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死出山怪奇譚集   作者: 無名人
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物語は分からない

第五章 物語は分からない


眩しい日差しの中で、志手山の緑も輝いていた。

僕は風見友也、幼稚園の年長さん。僕はまだその経験は無いけど、周りで沢山の人が死んでいくのを見た事がある。

それとお兄ちゃんの話によると、僕はしょっちゅう死にかける事があるらしく、お父さんやお兄ちゃんに助けてもらっている。

お兄ちゃんは強力な霊感、お父さんは他人の死を察する能力、僕が生まれる前には死んだお祖父ちゃんは予知夢と夢渡(他人の夢に入り干渉する能力)を持っている。

だけど、僕はそんな力を何も持っていない。お兄ちゃんは自分が死にかけた時にその能力が目覚めたらしいが、僕はそんな事が無い。

だけど、お兄ちゃんが言うには僕は霊に狙われやすいらしいのだ。だから僕をお兄ちゃんはいつも心配してくれている。


今日は真海さんと一緒に山登りに行った。真海さんによると何か調べたいものがあるらしい。僕は真海さんに手を引かれて、山道を歩いて行った。



私は友也君の手を引いて、志手山を歩いて行った。

私は青山真海、高校二年生だ。この町は人口減少の影響で、中学校までしか無く、高校からは町から離れるのだ。

その高校の夏休みの課題で、郷土文化を調べるもいうものが出たので、私はこの山にある祠を目指して歩いていた。

「真海さん、まだなの…?」

こうして友也君と一緒にいるのはそんな深い理由は無い。

たまたま一緒に遊んでいて、山登りに行こうか、と行ったら付いてきた、それだけの理由だった。


そうして、祠に着いた。扉が少しひらいてたので覗いて見ると、中には何も入っていなかった。 

「真海さん、もう行こうよ…。」

友也君が私の服の裾を握った。

「そうだね、もう行こうか。」

そして山を降りようとしたその時、急に友也君が震え始めた。

「真海さん、僕…足が動かない。」

疲れた、とかそういう理由ではなかった。空は突然曇りだし、不穏な空気を漂わせている。

そして、私達の周囲で何かの影がうごめいていた。

「真海さん、大丈夫?」

こんな事になっても、友也君は自分ではなく私を心配してくれていた。

「うん、私は大丈夫だよ。」 

何処からか何かの笑い声が聞こえる。私は思わず友也君を抱き締めていた。それが、晴人を父からかばったあの時の温もりと似ていた。

「こういう時、お兄ちゃんが居てくれたら…」

確かに瞬君だったら、この原因が何か分かるかも知れない。だが、それが分かってとしても意味が無い。

私には瞬君みたいな特別な力は無いが、友也君を守る事は出来る。

私は友也君を更に強く抱いた。黒い煙のようなものが私の首を締め上げていく。それでも、友也君を守り抜きたいと思う気持ちでなんとか持ち堪えた。




「君達、大丈夫か?!」

何かの声が聞こえて振り向くと、そこには冥徳寺の和尚さんが居た。

「悪霊め、まだここに居るのか。」

和尚さんは御札を投げると、私に巻き付いている黒い煙や、影を消し去って行った。

「何故こんな所に居たんだ?」

私は和尚さんに謝った。

「ごめんなさい!私は祠の事を調べたかっただけなんです!」

和尚さんはしばらく考えていたが、私を見てこう言った。

「そうか…、君達、冥徳寺においで、詳しい話はそこでするとしよう。」

そして、私達は和尚さんに付いて行った。



冥徳寺に着いた私達は仏像の前に座った。

「君は…、青山さんの娘さんか。」

「青山真海です。」

「で、この子は…?」

「風見友也です。」

「…そうか、あの瞬君にも弟さんが出来たのか。」

「和尚さん、どうして私達の事を?」

和尚さんはにっこりと微笑んだ。

「お葬式に来た人達の顔は、大体覚えているからね。」

「そうか、それで友也君の事は…。」

「君達、あの祠についての話を聞きたいんだったね?その前に冥徳寺の昔の話をするとしよう…。」



「『死出の山越る絶え間はあかじなし 亡くなる人の数つ続きつつ』…、昔、西行法師が歌った歌さ。この志手山の本当の名は『死出山』、この事は知っているか?」

「それは知っています。でも、それがどんなものまでかは分かりません。」

「死出の山というのは、死者が冥土を渡る時に通る道さ。この山には通常の登山路とは別に『死者の道』というものがある。」

「と、言う事は死んだ人はみんなこの『死出山』に登って行くって事ですか?そうか、それでこの町は霊が沢山集まっているんですね。」

「そうさ、本来ならここは人が住むべき場所ではないんだ。」

「それなら、どうして…、」

「友也君なら『風見清蓮』の事を聞いた事があるだろう?」

友也君はそれに反応して、立ち上がった。

「『風見の始祖』と呼ばれた有名な陰陽師ですよね?僕達の先祖と言われて、お兄ちゃん達が能力持ちなのはその血筋だから、って言われて。」

「そうさ、『風見の始祖』はこの世とあの世の狭間となるこの地を区切る為にこの冥徳寺を造ったのだ。今はこの場所だけだが、当初は現在の駅の辺りまであった。」

「と、いうとこの町は全部冥徳寺だったという事ですか?それなら、何故今人が住んでいるのですか?」

「真海君、君なら江戸時代の中期に新田が造られたた話を知っているだろう?町の東側に今もその地名が残っているが、冥徳寺の荘園を開拓して新田を造った。そうすれば人が増え、村が出来る。そうしてこの地に生きた人間がやって来た事で生と死の区切りが無くなって、この町には死者や霊が集まるようになったのだ。」

「そうだったのですね。ですが和尚さん、まだ祠の話が出来てませんが。」

「そうか、そうだったね。では続きを話すとしよう。」



今まで立ち上がっていた友也君は、やっと座った。

「お初の話は聞いた事あるかい?お初は新田の時代の人だ。美しい娘だったが、生まれつき腹の中に妖が棲んでいた。当時の和尚はその妖が暴れ、村に影響を与える事を心配し、お初を村人達と隔離させた。お初も村人達もそれが自分達の為と分かって、承知していた。

だが、それを許さない人が居たのだ。お初の恋人で名前を圭ノ介という者はその事を和尚に何度も言われたが、聞く耳を持たなかった。

そして、ある日お初は腹の妖に食われ、死んでしまった。だが、圭ノ介だけはそれを受け入れず、他の村人と孤立してしまった。」

「ちょっと待って下さい!祠の話が全然出て来ないのですが。」

「まぁ、慌てないでくれないか。

村人と孤立した圭ノ介は、蔵の中でお初の思いを書いた本を作った。だが、圭ノ介はそれだけには飽き足らず、この地で起きた悲惨な出来事も書き始める事になったのだ。まるで何かに取り憑かれたように圭ノ介は寝食を捨ててそれに打ち込み、遂に倒れ死んでしまった。

だが、人間の執念とは恐ろしいものだ。圭介が死んでもこの本の中に居て、なんとしてでもこの本を完成させようとしている。それで何人もの人がそれに打ち込んでは死んでいった。

それを危険なものと感じた当時の和尚は、それをあの祠の中に封じ込んだのだ。」

「それが今、空っぽという事はつまり…、その本が誰かの手に入っている、という事ですか…?」

そう考えると、背筋が凍った。

「もう手遅れかも知れないが、早くその本を見つけないといけないな…。」

和尚はそういって外の景色を見た。





気が付くと、外は夕方になっていた。

「私達、もう帰ります。」

私はお辞儀をして、冥徳寺を後にした。

「あの中には本が入ってたんだね。」

「うん、関わった人が死んでいく本なんて、読みたくないけどね。」

「よっぽの物好きな人だったら手を出してそうだけど。」

「アハハ、私はいいや。」

夏の夕暮れは遅い。私達は日差しが溢れる空の中、帰って行った。

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