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死出山怪奇譚集   作者: 無名人
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物語は救われない

第三章 物語は救われない


糸のような雨が降る中、俺は一緒に下校している瞬を横目で見ていた。

俺は青山晴人、瞬とは同級生で付き合いは長い。瞬はこれ以上ない程俺の事を信頼しているし、俺も瞬の事をそう思っている。

それだけ言えば、当たり前のように思えるがそれは違う。

俺は、あまり人を信頼していない。理由は短い人生の中で

様々な人に裏切られたからだ。

一年生のちょうど、こんな天気だった日だっただろうか、俺を、いや、俺達をまず裏切ったのは両親だった。





その日は休みだった。朝、いつもより遅く起きると家ではまず嗅いだことないような臭気が、台所の方からした。

恐る恐るそこを覗くと、血の海になっていて、包丁で胸を刺したお母さんが倒れていた。

横で、お父さんがそれを見つめている。

「俺は、悪くない…。死んでも全ては精算されないさ、それをどうして京子は分からないんだ…。」

お父さんは、俺と姉ちゃんを睨んだ。

「お前らが、京子を殺ったんだろう?!死ぬのは借金が全て精算されてからだと言ったのに、それをお前らが慰霊金でなんとかしようとしたんだろう?!」

そして、お父さんは血が付いた包丁を俺達に向けて来た。

「お父さん、私達は何もやってない!ただ、起きたらお母さんが倒れてただけなのに!」

「言い訳をするな!」

「晴人…!」

姉ちゃんは、俺をかばって大怪我を負った。



その後、お父さんは逮捕されたが、すぐ獄中で自殺をした。どうやら二人は何度も借金を繰り返していて、家計は火の車だったらしい。だから、俺達の事を邪魔に思って、あの時殺そうとしていたそうだ。

両親は俺達には優しく無かった。いや、むしろ暴力を繰り返していた。そんな話をずっと警察で聞かされていたから、両親が亡くなって俺達は悲しまなかった。いや、むしろほっとしていた。


俺達は、同じ町に住む遠縁のおじさんの家に預かられた。両親と違って、おじさんは優しくて、俺達の事を気を遣ってもらえるから、もうあの生活には戻りたく無い。

それで、俺達の生活が穏やかになるのだったら、それで良かった。だが、それは終わりでは無かった。




あの時、俺には瞬達以外の友達が居た。名前は忘れた、理由はその子にやられた仕打ちを忘れたいからだった。

その子とは一緒に好きなテレビ番組の話をしたり、漫画を貸し借りして、いつも仲良くしていた。


そんなある日、その友達が漫画を貸したまま、返してくれない時があった。

「ねぇ、あの時の漫画、返してくれないか?」

すると彼はカバンから乱雑に扱われて、ボロボロになった漫画を取り出した。

「どうして、そんな扱いしたんだ?これはおじさんのやつなのに…。」

すると友達はそっぽを向いて、こう言った。

「訳は裏山で話す。」

そして、俺はその子の後を付いて行った。


俺達は裏山の崖の所に着いた。

「なぁ、どうしてこんな所まで俺を連れて来たんだ?」

友達は息を荒げて、ポケットから何かを出した。それは、刃を全部出したカッターナイフだった。

「晴人、お前には優しいおじさんが居て、いつも欲しい物買ってもらえてるよな?」

俺はすぐにこの人は俺を殺そうとしていると思い、右手に握るカッターナイフを止めようとしたが、すぐさま振りほどかれた。

「どうしてそんな事言うんだ?俺は、お前とは違って両親が居ないんだ。だから、両親と難なく暮らせているお前の方が…、」

「うるさい!俺は晴人が羨ましいんだ!だから…、お前なんか、消えろ!」

その子はカッターナイフを持ったまま、俺に駆け寄って来る。俺は何も考えずそれを奪い、その子を刺して、崖から突き落とした。


結局、その子は死んでもいなかったようだ。だが、俺はあの時の事を忘れたいから、心の中だけで、殺して生きている。あの時、殺しておけばすっとした心で過ごせていたかも知れない。だが、俺は弱い人間だ。自分も、他人もこころの中だけで殺してる。


それに比べて瞬の芯は強く、笑顔はいつも太陽のように輝いている。その一方で俺はその陰に隠れて、誰にも見えない。

なぁ瞬、俺はどうすればいい?俺はお前が側に居るのに、心はいつも死んでいるのか、生きているのか分からなくて宙吊りになっている。


そんな俺はよくこんな夢を見る、それは夢の中にもう一人の自分が出てきて、俺が殺されるといった夢だ。

…それを見る度に、ひょっとして瞬と出会っている俺は、俺では無い誰かになってしまっているのかも知れない、と思う。

俺が一番嫌いな人間は、俺なのかも知れない。人間が嫌いと言って強がっているくせに、本当は弱くて、瞬や姉ちゃんを頼って生きている。




今日は、瞬と一緒には帰らなかった。その日も雨が降っていたが、傘は持っていかなかった。

俺には生きようする勇気も、死のうとする勇気も無いようだ。どっちが良いのか、分からなかった。そんな気持ちに押し潰されるのなら、いっその事この雨に打たれて死ねば良いのにと思った。


俺は電柱の陰で泣いた。その涙も雨に混じって消えていく。辛い気持ちを叫んでも、誰の耳にも届かない。


その時、そんな俺に向けて、傘をさしてくれる人が居た。腫れ上がった顔でその人を見ると、下駄履きで深緑の着物を着ている青年だった。顔は残念ながら長い前髪で見えない。

「あなたは…、」

蛇の目傘をさした青年はこう答えた。

「別に名乗る程の者ではないよ。君は、この町の子だね。こんなところで何をしていたのかい?」

俺は青年の親切な態度を見て、思わず自分の気持ちを打ち明けてしまった。

「人が嫌いなのに、誰かに頼り切っている自分が嫌いなんです。その人達がいつ、自分を裏切ってしまうのか、分からないのに…、俺は、どうすればいいですか?」

青年は俺の肩をそっと叩いて、こう答えた。

「どうするも何も、君は君のままで良いんだよ。」

「ですが…、」

俺は、その青年に反論したい気持ちになったが、すぐに止められた。

「人の気持ちは、誰にも分からないさ、…そうさ、私の気持ちは誰も分かってくれない。

…君は、その小さな胸の中に闇を抱えているんだね、実を言うと私もなんだ。見せてくれないか?」

青年は、血走ったように赤く、大きく見開いた目を見せた。すると、体が突然縛られたように動けなくなり、その狂気に満ちた目から離せなかった。

「違う…、私が見たい物語はこれじゃない。」

青年は俺をじっと見つめている。

「そういえば、君といつも一緒に居るあの子は今日は居ないのか?」

「瞬の事ですか…?」

「瞬、か…、ありがとう。私はどうやら瞬君に用があるらしい。この物語をより良いものにする為にも…。」

青年はニヤリと笑って、去ってしまった。雨はいつの間にか上がったらしく、眩しい日差しが町を包み込んでいく。だが、俺はそれから取り残されたようだった。

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