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死出山怪奇譚集   作者: 無名人
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物語は終わらない

序章 ある男の手記


…忘れられない出会いというものがある。それは、私が小学五年生の時、ある本に出会った事だ。

其れは、図書室の奥の棚に誰かを待つように置かれてあった。埃を被った表紙は赤黒く、糸で綴じられている。

私はそれに吸い取られるかのように、手に取って見た。その時、誰かが私の肩を叩いたような気がしたが、振り向いても、誰も居なかった。

私はそれを何枚かめくって読んで見た。それにはこの町で昔起こった悲惨な出来事が次々と書かれている。

そんなに面白くないはずなのに、私は取り憑かれるようにそれを読んだ。その最後は白紙のページが続いている。

その直前にはこう書かれてあった。


(この本はなんとしても完成させないといけない。)


「…そうか、僕がそれを成し遂げないといけないのか…。」


私は何も言わずにこの本を持ち出した。その理由は今でも分からない。後に、この本は呪われていると知ったが、もしそうだとしても私はこの本を手放さないと思う。


もし、あの時あの本を拾っていなければ、私はどうなっていたのだろう…、少なくとも今の私のようにはなっていないと思う。





第一章 物語は終わらない


この町には、死者がいる。少なくとも、僕はそう感じる。

僕は風見瞬、志手山小学校の五年生だ。

僕達が住む町ではよく人が死んでいる。それが日常茶飯事過ぎて、よっぽどの知り合いではない限り、あまり気にしないようにしている。

それに、僕は霊が見える体質なので、この町には住人以上に霊が見えている。それを気にすれば、恐らく自分の命がいくらあっても足りないだろう。


今日は幼稚園に通っている弟の友也を送って行った。その時、小学校の巨大な桜の木がちらりと見えた。

「お兄ちゃん、桜が咲いてるよ。」

僕はそれを聞いて、友也は何も知らないんだな、って思った。僕にはこの桜が咲いているようには見えない。

この町では桜は咲かないのだ。桜には魂を貯め込む性質があるらしいので、死人が多い志手山では咲かないという事を冥徳寺の和尚さんは言っていた。

同じ理由で不死に通じるフジの花も咲かない。

僕は何も言わずに友也の頭をそっと撫でて、幼稚園の門まで連れて行った。


桜は散ると言うが、花は咲かないと散らない。だが、僕は咲かぬまま散った命を沢山知っている。




…それは、去年の夏の事だった。僕のクラスに季節外れの転校生が来たのだ。

「菊池竜也です。」

僕はその名前を見た時、妙な違和感を覚えた。他のみんなはそれに気づいていない。


ある日、僕は竜也と放課後の教室に居た。

「ねぇ、瞬君。」

「竜也、どうしたの?」

竜也は僕の側まで来てこう言った。

「僕と瞬君って、似てるよね?」

「え?どういう事?」

竜也は謎の笑みを浮かべた。

「どちらも死に近いって言う事、だけど君は僕よりも近い場所に居る。」

「竜也…?」

「そうだ、探し物があるんだ。一緒に裏山まで来てくれない?」

裏山と言うのは小学校の敷地にある小さな山の事だ。死体が転がっているという話もあるので、普通はあまり近づかない。

僕は竜也を不審に思いながらも、一緒に裏山まで付いていく事にした。


僕と竜也は裏山を登って、崖の所まで来た。

「で、探し物って何?」

竜也の体が突然震え始めた、様子がおかしい。

「さっき、君は僕よりも死に近い場所に居るって言ったよね?君は僕と同じ場所に居ないといけないんだ…。」

そして、ポケットからカッターナイフを取り出した。

「だから、死んでくれないか?」

そして、竜也は僕に駆け寄って来た。僕はとっさにそれを取り出して、竜也を崖から突き落とした。


誰のかは分からないが、血しぶきが舞った。そして、竜也がこのまま戻って来る事は無かった。


…後で調べると、竜也は去年死んでいて死体が行方不明になっていた事が分かった。そうだ、それで名前を聞いた時、違和感を感じたのか…。

クラスのみんなは竜也が死んだのを知らない。恐らく、記憶から消されているのだろう。だからこの事は僕しか知らない。


僕は知っている、この町にはまだ死者が居る事を。この小学校に赴任してきた先生は、ことごとく死んでいるという事を、そして、校長先生の膝から下が透けているという事も全て…。


この世に未練があるのかは知らないが、稀に死んだ人は死者という形で体ごと蘇る事があるらしい。だが、それは生きた人間を死に引きずり込むので、そうやって対処しなければならない。

卒業生の話で聞いていたが、まさか自分がこんな目に遭うなんて考えもしなかった。





友也を送った僕は町の交差点に来た。そこに由香さんが居る事に気づいて手を振ったが、返してくれなかった。

由香さんにも、痛々しい過去があるのは知っている。だから僕は今日は何も聞かなかった。


そして、そこから立ち去ろうとした時、僕の頭上の方で声が聞こえた。

「ずっと、君を見てたよ。」

はっとして僕は振り返ったが、その声の主は現れる事は無かった…。

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