12-ころんころんっ
黒ドラちゃんは手の中の白い石を見つめました。
初めは、グラシーナさんに一番を取ってほしい!とだけ考えていました。
ラキ様の気持ち、グラシーナさんの気持ち、初鱗をあげたラウザーの気持ち……
花櫛はとても美しくて、もし、美しさだけで競うなら、迷わずグラシーナさんの籠に石を入れたでしょう。
でも……
でも、ここに集められた品物は、優れている、というだけではないのです。
ここに至るまでのたくさんの想い、その想いの深さ、重さ、懸命さ、純粋さ。
台の上に飾られているのは、「想い」そのものなのです。
黒ドラちゃんは、どの籠に石を入れれば良いのか、わからなくなっていました。
「黒ドラちゃん、決めた?」
ドンちゃんがたずねてきました。
「う、ううん、まだ。……ドンちゃんは?」
見るとドンちゃんは石を持っていません。
「えっ!ドンちゃん、もう決めたの!?籠に入れたの!?」
「うん」
ドンちゃんが答えます。
黒ドラちゃんが悩んでいる間に、ぐるっと回って石を入れてきたみたいです。
黒ドラちゃんは、ドンちゃんがどの籠に入れたのか、すごく知りたくなりました。
「ドンちゃん、どの籠に入れたの?」
「あのね、あたしが一番だと思う作品の籠に入れたよ!」
ドンちゃんが元気よく答えます。
自信たっぷりでお耳がピーンとしています。
そうでした。
“自分が一番だと思う籠に入れる”って決まっていたんです。
みんなみんな一人ひとりが自分で選んで決めるのです。
そのために、たっぷりとお話を聞くだけの時間も設けられました。
黒ドラちゃんは、グラシーナさんの台を見ました。
台の前の籠にはたくさんの石が入れられています。
目の前の白い布が飾られた台の籠を見ました。
こちらもたくさんの石が入っています。
見回して見ると、どの籠にも、同じくらい、たくさんの石。
ここにあるものは、どの作品も一番に選ばれるだけの力があります。
ふと、グラシーナさんの台のところにいるラキ様と目が合いました。
黒ドラちゃんに向かって、ラキ様が微笑んでうなずきます。
そして、白い石を二個とも、グラシーナさんの籠に入れました。
黒ドラちゃんも決めました。
白い石をぎゅっと握りしめると、目の前の籠にころんころんっと入れました。
すぐに、どの石が黒ドラちゃんが入れたものかわからなくなりました。
「黒ちゃん、行こうか」
ブランが優しく手を引いてくれます。
そうしなかったら、黒ドラちゃんがその場を動きそうになかったからです。
何度も何度も後ろを振り向いて、それぞれの作品を目に焼き付けました。
その想いを、焼きつけました。
そして、広場に着く頃には、黒ドラちゃんはすっきりとした良いお顔になって、ブランと楽しそうに笑っていました。




