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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
がけっぷちロータのひとりごと
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ありえねえっ!

ロータは果たして本当に帰れたのか?

あいつってどんなやつだったのか、興味のある方は彼のつぶやきに付き合ってあげてください。


反抗期真っ盛りのDKなので、ブランのひとりごとと同じく、本編とは雰囲気が違います。

しかも、思いがけず彼がおしゃべりだったので、前後編になりました。

それでも、聞いてあげるよ、しゃべってごらん、

という方は、どうぞお付き合いください。






俺は最悪の気分だった。


昨日と同じ、

変わり映えの無い一日が、

また始まる。




朝起きて、真っ先に洗面所に向かう。

姉が家にいた時は、朝のトイレや洗面所の奪い合いが頻発した。

奴は朝のシャワーも、ものすごく時間がかかる(龍太比)

文句を言うと10倍どころか100倍になって返ってくる。

いつもイライラさせられた。

でも、それも奴が大学進学と同時に家を出たので解決済みだ。

というか、そこは今問題じゃない。


問題は俺自身の大学進学が危うい状況だということだ。


今は高三の10月も半ば過ぎ。

はっきり言おう、今の成績は崖っぷちだ。

っていうか、ちょっと片足が崖からはみ出ている感じがする。

志望する大学は、一番最近の模試でD判定。

夏には一度Bが取れたのに、ここにきてまたDを出してしまった。

っていうか、Bを取れたのはその一回きり。


模試はしょせん模試だ、大事なのは本番の試験だ!

と自分で自分を励ますが、正直今の時期のDは痛い。


夏にBが取れた時、ちょっと油断した。

部活を引退したばかりで、まだあまり勉強時間を確保できていなかったのに、B。

俺ってイケるんじゃね?などど勘違いしてしまった。


『模試の結果に一喜一憂しないこと』

あれほど担任からも塾講師からも言われていたのに……。

甘い、甘すぎた。

入試舐めてました、すみません。


自分でもかなり焦っているし、毎日毎日、じりじりと見えない火で炙られているような気持ちで過ごしている。

けれど、そんな見えない火で炙られている俺の気持ちなんて考えもしないで、母親というやつは本当に馬鹿だ。


リビングでちょっとスマホを開こうものなら「そんなヒマあるの?!」とすぐに目を三角にして小言マシーンと化す。

やはりあの姉にしてこの母あり、だ。あれ、逆か?まあ良いや。

とにかく、俺だってわかってる。

もう、本当に時間が無いってこと。

わかっているけど焦れば焦るほど、勉強には身が入らない。

すぐにスマホを手にしている自分がいる。

馬鹿か、俺!いつやんの?今でしょ!!と某有名塾講師が流行らせた言葉が脳裏をよぎる。

でも、心はじりじり火で炙られながらも、やっていることがちっとも頭に入ってこない。

まじで逃げ出したい!

どこか受験とか無い世界に行きたい!

それか、目が覚めたら受験が終わってれば良い!

志望校に受かってれば、なお良し!


―――空しい想像に一瞬頭が占領されたが、すぐに現実に戻ってくる。


目の前の問題を一個一個解いていくしかないんだよ。

それが一番の近道なんだよな?

はい、わかってますよ、と。


わかっているけど、進まない。

このところ煮詰まっていると自分でもわかってる。

母親との関係も最悪だ。

一昨日はとうとう母親にブチ切れられた。


「ああ、そう!じゃあ、もうお前のご飯は一切作らなくて良いのねっ?!」

とまあ、そこに至る言葉の応酬があったわけだけど。

その時は俺も頭がカッカとしていたんで「ああ、飯なんか自分で何とかできるよ!」と返したが。


実際、ひしひしと後悔し始めている。


一昨日の昼はコンビニ弁当になった。

旨いけど、一食で600円近くが消えるような生活は続けられない。

夜はドンキでドデカいパンを2個買って帰った。

昨日の朝はカップ焼きそば。

旨かった。好物だし。夜店の〇〇ちゃん、最高!

昼はまたドンキまで行って超デカいパンを買った。

あとは、友達が食いきれないと言った弁当のおかずをもらった。

良いな、手作り弁当。食えなくなって初めてわかるありがたさよ。くそ!

夜はまたドンキで違う種類のデカいパンを買った。

108円で満腹になるには、贅沢も栄養バランスも敵だ!


で、今朝はカップラーメンだ。

ちらっと母親を見る。

こっちを全然見ない。

不自然極まりない空間だが、自分から話しかけるのは負けを意味する!

大満足な表情を作り、カップラーメンを食べ終え部屋に戻った。


はあ、何やってるんだ?俺。

母親と冷戦を繰り広げたところで、何も好転しないってことはよくわかってる。


だけど、じりじり火で炙られ続けて、俺の心も焦げ付いて固まってしまってるみたいだった。


今日は土曜日なので、塾が開く時間に合わせて出かけるつもりだった。

シャワーを浴びながらも頭の中はちっともスッキリせず、進まない受験勉強のことばかりがあふれていた。

ああ!もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

終わりにしたい!全部チャラにしちゃいたい!

どこか受験とか無い世界に行きたい!


ガシガシとタオルで頭をこすりながら部屋に入ったが、下着を出していなかった。

寒いな、パンツパンツ、と。

タンスに向かって一歩踏み出した時だった。


足元の紙だかビニールだか、とにかく何か踏んだのはわかった。

そして、そのままツルッとカーペットの上ですっころんだ、と思う。


思う、と仮定になってるのは、転んだあとの記憶が無いからだ。


もう一度目を開いた時、俺の目の前にはオレンジ色の髪の、外国人みたいなんだけど日本語ペラペラの変なやつがいた。


初めは何かの素人対象のドッキリだと思った。

だって、海だぜ?いきなり。

なんか混乱してオレンジ色の髪の奴に「お前が脱がしたのか!」とか食って掛かっちゃったけど、ごめん、俺もともと裸だったわ。


日本語ペラペラのそいつは、ラウザーと名乗った。

こりゃあ、やっぱり外国人だよな?

で、俺の為に服を持ってきてくれると言って、飛んでいくと言った。

はあ?となる俺に、自分は竜だと名乗ってきた。

ジャパニーズアニメ好き外国人かと笑った俺に、奴は怪訝そうだった。

で、いい加減素人向けドッキリな状況に嫌気がさして怒鳴ったら、いきなり竜になった。


!竜・で・す・よっ!


オレンジ色の鱗が輝き、空に浮かんでニッコリ(多分)笑った奴の口元には牙がずらり。


どれだけ俺が驚いたかについてはあまり語りたくない。


まあ、俺はおむつは2歳ジャストで取れて、おねしょだって4歳過ぎには一度もしたことが無かった。

そういうシモの優秀なお子様だったってことだけは、はっきりさせておきたい。


落ち着いてくると、逆に今度は頭の奥が冷えてキーンと痛くなった。

どう考えてもおかしい。

ここどこだ!?


ラウザーにすがりついて帰れるかどうか聞くと、帰れると答えてくれた。

安心すると一気に精神的な疲れが襲ってきて、俺は気を失った。


それから高熱が出たらしい。

その辺の記憶はあいまいだ。


とにかく頭が痛くて、熱くて喉が渇いたことと、家に戻った夢を何度も見て、目覚めてラウザーの顔を見て何度も絶望した。

でも、そのたびにあいつが「大丈夫、大丈夫、元気になれば家に帰れるよ!」と言ってくれたんで、その言葉を信じたんだ。


ラウザーはどこからか服や水を持ってきてくれた。

熱が下がり始めて俺が腹を空かせると、果物やパンみたいな食い物も持ってきてくれた。



そのうちだんだん起き上がれるようになって、夜の砂浜を散歩したりした。

昼間は日差しがかなり強いから、熱くなってくるとラウザーの作ってくれた砂のかまくらみたいな中にいた。


身体の調子もだいぶ良くなったある夜、ラウザーと砂浜で話していて、俺は唐突に思い出した。


ここに来る直前に、あっちの世界から逃げ出したいと思っていたことを。


ラウザーにそれを話すと、奴は嬉しそうな顔をした。

たぶん、こいつは俺に残って欲しいんだろうな、っていうのは薄々感じていたけど、その時の俺にはそんなの思いやる余裕なんてなかった。

戻りたいと何度も言った。

そうして、泣きじゃくる俺に、ラウザーは必ず帰すと約束してくれた。


それから、ラウザーはどこかに行って仲間の竜を連れてきてくれた。

これが、すんごく可愛い女の子の竜と、すごく感じの悪いヤローの竜で、しかもカップルらしかった。

異世界にきてまでリア充爆発しろ!って考えることになるとは思わなかった。


ラウザーにこの言葉を教えた時、リア充をリア獣と勘違いしたらしく「じゃあ、ブランはリア竜だ」と言って一人で納得していた。


と、そんなくだらないことを考えていたけれど、どうやら俺が元の世界に帰るには、その可愛い方の竜に力を貸してもらわなきゃいけないらしい。

ラウザーにはそんな力は無いからってことらしい。


なんだよ、自分じゃ出来る保証もないくせに、さんざん俺に大丈夫とか言っていたのかよ!?

俺は自分勝手に腹を立てた。


すると、ブランというヤロー竜に、まるで子どものように襟首を引っ掴まれて倒された。

このやろー!と思ったが、ブランの話を聞いて、はじめて俺がどれだけラウザーに守られていたのか知ったんだ。


俺の理不尽なやつあたりにも関わらず、ラウザーは笑ってブランて奴が来てくれたことを喜んでいた。


本当に、こいつはお人よしの竜なんだ。



ラウザーが言うには、その黒ちゃんという竜に俺の元の生活を想像してもらわなきゃいけないらしい。


で、色々と話したけれど、話せば話すほど世界が違い過ぎてイメージが出来ないとかで、俺はどんどん落ち込んだ。


そうこうするうちに、魔術師(いるんだ!やっぱり)のゲルードっていうやつが来て、俺が帰れる可能性はどんどん怪しくなっていった。






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