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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
3章☆おとなになるって、かゆいんだ!の巻
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9-初うろこのお話

洞に着くと、黒ドラちゃんはさっそく「ふんぬっ!」と掛け声をかけて人間の姿になりました。

9~10歳ほどの、可愛いというよりもそろそろ美しいという言葉が似合いそうな女の子が、そこに立っていました。


「黒ちゃん……」

ブランは言葉が出ないようでしたが、黒ドラちゃんに急かされて人間の姿になりました。

プラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳、そしてなんだか今日は顔が赤いです。

「ブラン、なんだか顔が赤いよ?大丈夫?」

黒ドラちゃんに心配されて、ブランは「大丈夫!大丈夫!」となんだか上ずった声で言いました。

でも、黒ドラちゃんが一昨日からの出来事を話し始めると、だんだん顔が青ざめて行きました。

夜中に背中が痒くて眠れなくて洞の中をゴロゴロ転げ回った話をする頃には、うなり出して頭を洞に打ちつけ始めました。


「どうしたの?ブラン、やっぱり調子が悪いんじゃないの?」

「違うんだ。僕は自分が許せないんだ!」

ブランが黒ドラちゃんの前で両手をついてうつむきました。

「どうしちゃったの?ブラン……」

黒ドラちゃんが声をかけます。

艶やかな黒髪は、ブランが前に見た時よりもずっと伸びて、背中の真ん中くらいまであります。

澄んだ若葉色の瞳は心配そうに揺れています。


黒ドラちゃんの姿を見て、もう一度ブランは「ごめん」と言いました。



ブランは「こっちの方が落ち着くから」と、竜の姿に戻ると語り出しました。


そもそも竜の初鱗は、竜が一人前になると剥がれて落ちます。

個体差があるものの、それは大体産まれて10年から20年くらいの間におこります。

竜が自分の棲み処から出られるほどの力を付けるのが、ちょうどそのくらいなのです。


なぜ産まれて3年程度の黒ドラちゃんが初鱗を迎えたのか?


それはひとえにブランの存在がありました。

本来ならばまだまだ森の中だけで過ごすはずだった黒ドラちゃんは、あの日森の中でブランに出会いました。

そして、まだ出るはずではなかった森を出て、ブランの棲み処である北の山まで出かけました。

人間に変身してお城にも行きました。

妖精の血をひく王族に出会い、人間とも色々な経験をしました。

そういう経験の中で様々な形で自分以外の魔力を浴びて、黒ドラちゃんの体は急いで環境の変化についていこうとしました。

その結果、初鱗が他の竜よりもとても早くおこってしまったのです。


「ふーん。でもどうして謝るの?別に早く大人になってもかまわないよ、あたし」

黒ドラちゃんが首をかしげるとブランが「それだけじゃなくて……」と言いました。


初めて黒ドラちゃんを森から連れて出る時に、初鱗のことがちらっと頭によぎりました。

でも、まさかまだ3年だし大丈夫だろう、とブランは自分に都合よく考えてしまいました。

それに自分が一緒なら黒ちゃんには絶対に危険な目になんか会わせるものか!とも。

そして、北の山へのお出かけの後で人間に変身した黒ドラちゃんはまだ小さい女の子だったので、やはり大丈夫なんだ、と思ってしまったのです。

産まれてわずか3年で竜が棲み処を出ることなんて普通はありません。

だから、連れ出した者として、もっと黒ドラちゃんのことに注意を払わなければいけなかったのです。


ゲルードから魔石を通じて連絡があった時に、ブランは新しい魔石造りに夢中になっていました。

なので、ゲルードにすぐに連絡することもせずに(どうせまた魔石を寄こせとか言うんだろう)と無視してしまったのです。

その次の日にも再び魔石を通じて連絡がありましたが、それも適当に流してしまいました。

ようやく今日になってゲルードに会いに行ってみたら「古竜様の体の大きさを調べてほしい」なんて言われたのです。

新しいドレスでも作るのか?と前と同じ大きさで良いだろう?と答えたブランに、ゲルードが思わぬ事を言ったのです。

「古竜様が身体が大きくなってきた気がする、とおっしゃっていました」と。


ブランはドキッとしました。悪い意味で。


ブランも自身の初鱗の前に、そういう感覚を経験していたからです。

まさか初鱗が始まるんじゃないか?いや、連絡をもらってからもう三日目。

黒ドラちゃんがあの痒みに苦しんでいるのではないか?

もう気が気じゃなくて、それこそゲルードを置いてお城からすっ飛んで来たのです。


「僕は竜失格だ。黒ドラちゃんにとって長き者のくせに、助けるどころか逆に苦しめてしまった」

ブランの瞳からぽろぽろ涙がこぼれました。

「ブ、ブラン、泣かないで」

黒ドラちゃんは困ってしまいました。

ブランは黒ドラちゃんよりもずっと大人の竜だと思っていたのに、こんな風に泣くなんて。


「あたし、ブランに出会えて嬉しかったよ。お城だって楽しかったし」

「黒ちゃん……」

「今回のことがあったから、マグノラさんとも仲良くなれたし、全然困って無いよ?」

 黒ドラちゃんが一生懸命話すと、ブランの涙もだんだんと止まってきました。



「ねえ、それよりもさ、ブランの初鱗の時のお話して!」

洞の中で丸くなった竜の体のブランに寄りかかりながら、黒ドラちゃんはお願いしました。

「ああ、僕は15年くらいで初鱗を迎えたんだけどね……」

ブランはゆっくり語り出しました。






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