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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
11章☆虹のしずくに歌うんだ!の巻
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20-ケロールの王

ラキ様の帯には、リュングの飛ばした魔伝が飾りのように挟まれています。


つながったんです!


黒ドラちゃんは思わずラウザーみたいに、竜に戻って尻尾を大きく振りたくなりました。

嬉しくて涙が出そうです。


一方、突然の見慣れぬ女神様の出現に、ルカ王子は戸惑っているようでした。

「いったい……?」


「ルカ王子、女神様です!ダンゴロー英雄譚の恵みの雨の女神様がおいでになったのです!」

ミラジさんが、足元で尻尾を大きくびたんびたんと振りながら叫ぶと、ようやく王子の瞳に本当にラキ様が映ったようです。

その眼差しには、期待と不安が入り混じっていました。



ルカ王子が何か話そうとした時、モッチが黒ドラちゃんの花冠から飛び出してきました。

ラキ様の目の前でぶんぶん飛び回ります。


「ふむふむ、なるほど」

「ぶぶいん!ぶいん!ぶぶぶい~~ん!」

「花が咲かぬとな?」

「ぶん!」

「はちみつ玉も喜ばれぬと?」

「ぶっぶい~~~ん、ぶいん!!」


「ほお」

ひと通りモッチの訴えを聞いた後で、ラキ様がルカ王子に話しかけました。


「ここでは花が咲かぬとな?」

「それは、」

「妖精が喜ぶはずのはちみつ玉も、カエル妖精たちに喜ばれぬと」

「か、カエル妖精などと、とんだ間違いです!」

「違うのか?」

「わたくしは呪いでカエルにされているだけ!カエル妖精などではありません!」

ルカ王子の言葉に、足元でミラジさんが悲し気に首を振っています。


「では、この大池の中で、たくさんのカエル妖精の卵が、長く眠っているというのは?」

ラキ様が目を細めて、ゆっくりと大池の中を見渡します。


「さあ?カエルの卵など。私には関係のないこと」

ルカ王子はかたくなです。

決して自らの『呪い』の決まり事から出てこようとはしません。


「知らぬか?」

「知りません!」


「要らぬか?卵たちは」

「い、要りません!」


「……まことか?」


ラキ様の目は、大池の奥深くに沈むたくさんの卵を捉えていました。


「我は華竜から花びらを預かっておる。眠り続ける卵たちが無事に孵れるように、祈りを込めてくれたそうじゃ」


マグノラさん!


思わず黒ドラちゃんはドンちゃんとギュッと手を握り合いました。

ラウザーとラキ様は、マグノラさんのところまで行ってくれたのです。

だからこんなに時間がかかったのでしょう。


ラキ様が袖に手を入れて再び出すと、手のひらにはこんもりと白い花びらが乗っていました。

「この花びらを池にまけば、卵は健やかに孵るだろう」


「い、い、要りません」


ルカ王子の姿が大きく揺らぎます。

食いしん坊さんやドンちゃんのお話を聞いた時と同じように。


「まことに要らぬのか?」

「要りません!」


ラキ様がじっとルカ王子を見つめます。


やがて、小さな稲光が見えたと思ったら、手のひらに乗せた花びらが燃え上がり、一瞬で消し炭になりました。


「そうか、要らぬか。ならばその卵たちも不要であろう?」

「……」


ラキ様が大池の中の卵を見つめます。

ゆっくりと片手をあげて稲光を集めます。


「だ、ダメだよ、ラキ様!」

黒ドラちゃんが思わず止めようとすると、食いしん坊さんとリュングに両側から止められました。

ラウザーは、ラキ様の後ろで尻尾を高速にぎにぎしながら、固唾を飲んで見守っています。


ラキ様の手には眩いばかりの稲光が集まっています。

あんなものが落とされたら、池の中の卵たちなんてひとたまりもありません。


ラキ様が片手を下ろそうとした瞬間、かたくなに動こうとしなかったルカ王子が池に飛び込みました。

「!」

黒ドラちゃんたちはびっくりして、あわてて池を覗き込みます。





池の深いところで、ルカ王子はたくさんの卵を抱き抱えていました。



ラキ様が池の上から静かな声で「要らぬのでは無かったか?」とたずねます。

ルカ王子は池の中からラキ様をにらみつけました。

卵を抱きかかえたまま、水面に向かって泳いできます。

そして、大切なものを扱うように、そっと蓮の葉の上に卵たちを乗せました。


卵を後ろにかばい、ラキ様に向き直ると、いつもの仮面のような穏やかさが嘘のように怒鳴りだしました。


「これは私の命より大事なものだ!」

「ほお?」

「愛する子供達が精一杯生きた証だ!簡単に燃やされてたまるか!」

「おや?お主は王子であろう?その若さで子などおったのか?」


ルカ王子の顔が怒りで見る見る真っ赤に膨れ上がりました。


「ふざけるな!私は王だ!このケロールの国の王だ!」

ルカ王子は、いや、ルカ王はラキ様に怒りを爆発させました。


「だいたい、なんだ、今頃のこのこと!なぜ今まで来てくれなかったのだ!?王子達が針の雨を浴びてしまったすぐ後に来てくれれば、何か手が打てたかもしれない!いや、あの大嵐だって恵みの雨の女神であれば、防げたのではないか!?なぜ我々ばかり苦しまなければならなかったのだ!?王子や大勢のケロール達が短い寿命になってしまったではないか!どうしてあの時助けてくれなかった!?どうして!どうして!どうしてっ……」


火を噴くように激しかったルカ王の声が、だんだん小さくなっていきます。


ルカ王は涙を流しながら、これまで誰にも話せなかった、ぶつけられなかったやり場のない怒りを、ラキ様にぶつけていました。


ラキ様は、ただ黙って聞いています。






ひとしきり思いの丈を吐き出すと、ルカ王は年相応に老いたカエル妖精に戻っていました。


ルカ王の漏らす嗚咽が、大池の水面を揺らします。



ラキ様が、ゆっくりとルカ王に近づいて、優しく語りかけました。


「気づいてやれず済まぬな、遅くなってしまって悪かった。辛い思いをさせたな」


うずくまり泣いていたルカ王が顔を上げました。

シワに囲まれた瞳でラキ様をじっと見つめます。


「女神様、私は……いえ、わかっています。そうです、わかっていたのです……」

ルカ王の声には、もうラキ様を責めるようなものは感じられませんでした。

そして、新たな涙を流しながら、周りを見回します。


ルカ王の目に、フラック王国の景色が、映りました。






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