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【完結】地味でも大冒険!『古の森の黒ドラちゃん』  作者: 古森 遊
1章☆雪をお口に入れるんだ!の巻
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1-黒ドラちゃん

(いにしえ)の森へ遊びに来てくださってありがとうございます。

森の入口は童話風

その奥に、たくさんの出会いの物語が、豊かに広がっています。

さあ、どうぞ、黒ドラちゃんたちのお話を、ゆっくり楽しんでいってくださいね


挿絵(By みてみん)


 むかしむかし、あるところに大きな森がありました。

 そして、その森の奥深くに、小さいけれどとてもきれいな湖がありました。


 湖の水はキラキラと輝くエメラルドグリーンで、お天気の日には澄んだ青空と流れる雲が穏やかに映し出されていました。


 その湖のほとりには、大きな大きな、そう、とても大きな木が、一本立っていました。


 その巨木は、根元近くにこれまた大きな(うろ)があり、そこに1匹の竜の子どもが住みついていました。


 竜の子どもはその体の色から、まわりのみんなに「黒ドラちゃん」と呼ばれていました。まわりのみんなっていうのは、森に住むウサギとかリスとか可愛い系のみんなです。黒ドラちゃんは可愛いものが大好きなんです。


 黒ドラちゃんはお天気の日には洞の外に出て湖で泳いだり、森の上を飛んでお散歩したりして過ごします。

 黒ドラちゃんが洞の外に出ている間は、怖い系のみんな(オオカミさんとかキツネさんとか気の荒い牡鹿さんとか)はなぜか森に現れません。

 なので、可愛い系のみんなはお天気が良いと、いそいそと黒ドラちゃんをお散歩に誘うのでした。


 その日も黒ドラちゃんは、一番の仲良しのウサギのドンちゃんを背中にのっけて森の上を飛んでいました。

 なんでドンちゃんて呼んでるかって?

 まあ、それはおいおい後でお話ししますね。


 森の上は空気がとても澄んでいて、黒ドラちゃんはその上を飛ぶのが大好きでした。

 と、初めて嗅ぐ匂いがしました。なんだか胸がスーッとするような――始めて感じる匂いだけど、懐かしいような、不思議な感じがします。


「ドンちゃん、なにか匂うね」


「そう?あたしわかんないなぁ」

 ドンちゃんにはこの匂いがわからないようです。


「匂いのする方に行ってみても良い?」


 黒ドラちゃんがたずねると、ドンちゃんは返事の代わりに背中で一回タンッ!と後ろ足を踏み鳴らしました。ドンちゃんがご機嫌の時にする合図です。よし、と黒ドラちゃんは匂いのする方へ飛んでいきました。


 少し進んだところで、何かキラキラ光るものが森の中に見えてきました。

 黒ドラちゃんはワクワクしながら近づいていきます。


 すると、キラキラと光るものががくるりと動きました。

 バサバサと空中でとどまりながら、黒ドラちゃんが見つめると「それ」も黒ドラちゃんを見つめました。


 それは白くてキラキラしていて、なんだかちょっとゴツゴツした感じの生き物でした。

 大きさは黒ドラちゃんを二回りくらい大きくした感じ。首っぽいのがあって、胴体から長くつづく尻尾ぽいのがあって、背中には羽も見えました。首の先には顔っぽいのがついていて、湖と同じ色の真ん丸な目でこちらを見上げています。


「あれ、竜だよ!黒ドラちゃん」

 ドンちゃんが背中でタンタンしながら興奮しています。


「え、あれ竜なの?」

 なんか、自分(竜)と違うんじゃない?と思いましたが、ドンちゃんは続けて叫びました。


「間違いないよ!黒ドラちゃんと色違いだもん!」


 ドンちゃんに言われてよく見てみると、なるほど色は違うけどよく似ているのかも?

 えー、あたしってあんなにゴツゴツしてるかなぁ……。

 とはいえ、とりあえず黒ドラちゃんは色違いさんに話しかけてみることにしました。


「ねぇ、あなたは竜なの?何ドラちゃんなの?」


 白い竜は驚いたように、碧の宝石のような瞳を更に真ん丸にしました。


 しばらく固まっていましたが、黒ドラちゃんとドンちゃんがじっと見つめて返事を待っていることに気付くと、ようやく答えてくれました。


「……ブランだよ。ぼくはブラン」


「ふーん。ブランドラちゃん?」


「いや、ただのブラン。ドラちゃんはつかないかな。君の名前は?」


「黒ドラちゃんだよ」


「いや、えっと…」


 白い竜、ブランは少し困ったようにした後、ドンちゃんに向かって聞きました。


「この子はなんていう名前なの?」


「黒ドラちゃんよ」


「……」


 ブランはちょっとの間考え込んでいましたが、すぐに気持ちを切り替えたように見上げてきました。


「ねぇ、ちょっと降りてこない?君が嫌じゃなければ。少し話さない?」


「良いよ!」

 黒ドラちゃんはすぐにブランのそばに降りました。

 自分以外の竜なんて初めて見るし、色々お話してみたかったんです。


 降りてみると、今度は黒ドラちゃんがブランをちょっと見上げるような感じになりました。近くで見てもブランはキラキラしていてとても綺麗でした。


「ブランはきれいだねー。なんでそんなにキラキラしてるの?」


 黒ドラちゃんが尋ねると、ブランは「君だってキラキラしてるよ。とてもきれいだ」と答えました。黒ドラちゃんはなんだかむずむずするような、穴に潜りたいような空に飛び出したいような、おかしな気持ちになりました。


「あたし、キラキラしてる?」

 ちょっと振り返って背中のドンちゃんに小さい声で聞いてみます。


「うん!黒ドラちゃんも白ドラちゃんも同じくらいキラキラしていてきれいだよ!」

 ドンちゃんが嬉しそうにタンタンしながら答えます。


 黒ドラちゃんもなんだか嬉しくなって、じっとしていられなくなり、ブランに森の色々なところを見せたくなりました。可愛い系のみんなのことや、ブランの瞳の色と同じ湖や、いつも入っている洞の中や、とにかく色々を、です。


「ねぇ、森を案内してあげようか?」


 そう尋ねながら、もう黒ドラちゃんは羽をバサバサさせて飛び立つ気まんまんです。


 ブランはちょっと迷っているようで「この森には他にも竜が居る?」と聞いてきました。ひょっとして、竜が一匹しかいないような森ってつまらないって思われるかな、黒ドラちゃんは不安になりました。


「ううん、竜に会うのはブランが初めてだよ、ここには他の竜はいないよ。で、でも、可愛い系のみんなとか!きれいな湖とか!美味しい木の実とか!他にも色々いろいろっ」


 黒ドラちゃんがあせって答えるとブランは嬉しそうに「うん、うん。じゃあ、一緒にいくよ、案内してくれる?」と羽をバサッバサッとさせてくれました。


 良かったあ。黒ドラちゃんはホッとしてご機嫌で飛び立ちました。


「こっち、まずはこっちだよ!」


 はしゃぐ黒ドラちゃんに続いてブランも飛び立ちます。


 白と黒の二筋のキラキラした光が、森の上を楽しげに飛んで行きました。






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