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「ギャングのお陰で商売がうまくいくってのも、おかしな話だよな」

「ギャング? あぁ、『黒狼』っすか?」


 機材を三分の一程運び終えた辺りで、先ほどのスタッフと壁際で座り込んで休憩をしているリクが問い返す。

 ミズキは既に次の撮影に入っている。


「そうそう。このスタジオは十年くらい前に借りたんだけどね、あの時は酷かったからな」

「酷いっつぅと、高かったんですか? 家賃というか、賃貸料みたいのが」


 リクの言葉に、大げさにスタッフが頷く。


「そうなんだよ。ほんっともう、ボッタクリ。

 ここら一帯を抑えてた暴力団が吹っかけてきやがって。

 ちょっとでも安いところって思ったんだけど、そっちはそっちで別の暴力団が年々値上げしやがって。

 それの繰り返しで俺たちみたいな善良な小市民はヒーヒー言わされてたんだよ」

 

 まるでその時に戻ったかのように、彼は顔をしかめて吐き出す。

 しかし、その当時のリクはこの街に引っ越してきたばかりの小学生ほどであり、彼にとっては人伝に聞く昔話だ。

 奢ってもらったスポーツドリンクのペットボトルに口をつけてリクが口を挟む。


「俺らまだガキだったから、詳しいことは知らないんですよね。

 なんだか、やくざやら暴力団やらの抗争がどうのこうの、ってのは聞いたことくらいならあります」

「あぁそうか、君たちは知らないか。

 この街は比較的新しい街だからね。

 そこに根っこを降ろそうと狙ってる大物が何人かいて、そいつらが後ろ盾になって日々暴力沙汰だったんだ。

 ……そこら辺話つけてから街の開発をしてくれと、小市民を代表して言いたいね、俺は」

「政治家とのユチャク、とかってやつですね」


 言い慣れない難しい言葉をリクが言うと、スタッフは更に頷く。

 そしてどこか感慨深そうに首を捻りながら説明する。


「それが三・四年前のことかな。

 結託し合ってた奴らが急に仲たがいし出して、誰が味方で誰が敵か奴らも分かんねぇくらい混乱しちまってなぁ。

 その混乱に乗じてこの街を乗っ取っちまったのが、黒狼の連中だ。

 若いチンピラのクソガキ共ってくらいしか思ってなかった奴らの、突然の台頭よ。

 どんな手を使ったのか知らんが、お偉いさん方も静かになっちまってな。

 こっちとしては抗争は無くなるし、暴利むしり取られなくて済むし、その浮いた金でこうやって広いスタジオ移れるしで良い事尽くめなんだが。

 ……その、なぁ?」

「ギャング、ですからねぇ」

「そうなんだよなぁ。

 いっそ法人とか会社名の方で表に立ってくれりゃいいのに、いつまでもギャング名の方を名乗ってるから、ちょっと複雑なんだよな。

 暴力団関係なんて、今は法律厳しくなってるのに、奴らうまくやってるよ」


 苦笑するスタッフの顔はどこか楽しげだった。

 なんとなくリクには分かる気がする。

 このご時世の日本で、事もあろうにギャングを名乗る連中に支配される地域なんて、めったにないだろう。

 しかもそのリーダーが、突如ふらりと現れた未だ二十前半の若者で、その実績とカリスマ性でキングと呼ばれているなんて、まるでファンタジーにでも出てきそうな設定だ。


「次のスタジオなんて、今より三倍は広いのに、十年前ここ借りた契約金の半額だぜ? 

 本当、黒狼様々だ」


 他の勢力との競合のために、無関係の人間があらゆる場所であらゆる手段を使って金をむしり取られていた時代が終わり、安定した地価に戻った街の話は聞いていたが、リクは自分には関係ないと思っていた。

 その一端に触れていることに、彼は少し不思議に感じていた。


「でもまぁ、ギャング問題なんてこの街が抱える問題に比べたら、小さいほうだよな」

「え?」


 スタッフがどこか含みをもたせた言い方をする。


「五年か四年か、それくらい前からだったかな。この街に怪物どもが現れたのは」

「……あ」


 彼が何を言いたいのか、リクが理解する。

 それはこの街の病気であり、そして今現在リクが抱えている問題そのものだった。


「この街に棲み着いた切り裂き魔、通称ジャック……」


 スタッフの言葉が言い掛けた時だった。


「っ!」


 無防備だったリクの耳に、ガラスが叩き付けられる音と、一瞬遅れて数人の悲鳴が突き刺さる。


 ビクリとして音のした方向を反射的に顔を向ける。

 撮影していた場所だ。


(あれ、今)


 考えたくない思考がリクの脳裏に流れる。


(今、撮影をしているのは)


 先ほど手を振って別れたミズキを思い出す。


 体中から力が抜け、頭のなかが真っ白になる。

 リクの手をすり抜けたペットボトルが、びしゃりと音を立てて床を濡らす。

 どこかで、雨の音が聞こえた気がした。

 リクの体がヒヤリと固まる。



 だが、


「ミズキッ!!」


 現実から背を向けようとする思考や体とは裏腹に、立ち上がって先に進めと言わんばかりに、その口は友人の名を叫んでいた。

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