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4/88

1-4

-----------------------------------------------------------------------------------

ネイビス:第一問

[?]に入る値を求めよ


 1/3 = 4

3/4 = -[?]


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 リクに脅迫状が届いてから三日経った。

 あれから『Ripper』の方も、リクに脅迫状を送ったもう一人の脅迫者の方も動きはない。

 形だけ再開したコードハント:ネイビスは、あれから一問も進んでいなかったが、リクはそのことすら忘れそうになるほどだった。

 



「……俺が何したってんだよ」


 一人繁華街を歩きながらリクが仏頂面で呟く。

 それが唸り声にでも聞こえたのか、すれ違ったサラリーマンがビクンと肩を震わす。

 学生やサラリーマンでごった返す歩道でも、リクの周りは人一人すれ違えるだけの空間が開いていた。

 友人などと歩くときは普通なのに、一人だとどうも凶悪な面構えが全面的に出てきてしまうようだ。

 本人にその気は全くないのだが。


 どこか居心地が悪く、リクはそそくさと歩を進めた。

 向かった先はリッパーズ・ストリートの中心部から少し西側に外れた場所、リクとミズキが通う陽光学園から歩いて十五分ほどのオフィス街の一角にある二階建てのビルで、ミズキのバイト先だ。

 二つの用事を済ますため、リクは階段に足をかけた。



 勝手知ったるという風に階段を駆け上がり扉を開けると、まさに写真撮影真っ最中であった。

 数人のスタッフとモデルたちがリクを見とめるが、顔見知りのようで彼が手を上げて挨拶をすると、同じようにして返してくれる。


 撮影場所に目を向けると、カメラマンの声とシャッターの音が聞こえる。

 外の風景とはまるで違う、いくつもの人工的な白い光が一箇所に集まっている。

 触れられない幕のように上から落ちてくる光と、細かく刻まれる白い光の中にミズキはいた。

 熱を持つ光の中は、独特な匂いがすると、リクはいつも感じていた。

 空気が焦げたら、こんな匂いがするのだろうか。

 細かく刻まれるほうの光に視線を向けながら、リクはふとそんなことを考えた。

 


「やーやーリク。悪いねぇ、いや実に申し訳ない」

「そういう表情を数ミリでも作ってから謝れよ」


 白を基調として、裏地と裾をチェックにしたシャツ、黒いパンツ、茶色い中折れの帽子。

 フォーマルなのかカジュアルなのか分からない、そもそもあまりファッションに興味が無いリクにとって、おしゃれなのかどうかも分からない衣装のミズキが、帽子を振りながら壁に寄りかかっていたリクに駆け寄る。

 撮影所としてはそれほど広くはない室内では、使われないストロボ照明機器や大型のレフ板、衣装を着たままのマネキンなどが所狭しと隅のほうに立てかけて置かれている。


「明日提出だってのに。忘れたらアユミ・ザ・ハリケーンが飛んでくるぞ」

「感謝しております」


 リクが差し出した半紙を、賞状を受け取るかのように腰を折ってミズキが受け取る。

 バイトだからと先に帰ったミズキが、要提出のプリントを忘れ、リクに電話で持ってくるように頼んだのが、数十分前のことだった。


「大体、アユミちゃん課題出し過ぎなんだよな。スパルタにも程があるっての」


 英語の書かれたプリントを見ながらミズキが唇をとがらせる。


「お前は忘れモンが多すぎるんだよ。今月だけで俺もう五回以上ここに来てるぞ」

「申し訳ねぇ、リクさんや」


 関係者じゃないのに常連になっちゃったじゃないか、とぼやくリクに、まったく悪びれない様子でミズキがペコリとお辞儀をする。


「ま、いいじゃない。お前にも儲け話持ってきてあげたんだから、チャラにしようぜ」


 慣れた様子でウィンクをすると、ミズキが撮影道具を運んでいる男性スタッフの一人を手招きする。


「こいつが前に言ったバイトの八柄君っす」

「ど、どうも」


 彼に向かってミズキがリクを紹介する。


「よくミズキの忘れ物を持ってくる子だね。いやぁ、いいカラダしてると思ってたんだよ」

「あはは、そのセリフセクハラみてぇ!」


 頭ひとつ大きいリクをジロジロと見るスタッフの横で、何がおかしいのかミズキがケタケタと笑う。


「体力もありそうだな」

「基礎体力ならそれなりに」


 毎朝ランニングしているもので、と付け加えてリクが言う。


 もう一つの用事というのが、このスタジオの引越しバイトだった。

 手狭になったスタジオ内の機材などを運び出す作業だが、引越会社に頼む金を惜しんだスタッフが自分たちで行おうと決行し、その手数とするためにアルバイト要員として、ミズキ経由でリクが招集されたのだ。

 壁際に積まれた機材などは、そのために出されたものらしい。


「コイツ、頭は悪いし顔は怖いけど、体力とガタイは良い方ですから!

 みっちり使い込んでやってくださいよ」

「……一言余計っつぅか、もうお前の言うことは全部余計だな」


 ギロリとミズキを睨むその顔にまだ慣れないスタッフが一瞬ビクリとするが、慣れてるミズキが相変わらず笑っていることから、僅かに苦笑いを浮かべる。


「そ、それじゃあ、適当に始めようか。

 荷物はあっちの事務所に適当に置いちゃって。

 ミズキは休憩後にもう一本撮影な」

「了解」


 スタッフの簡単な指示に二人がそれぞれ答える。

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