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2-11

「ねぇハル。アイツ信用していいの?」


 喫茶店を出てガレージに帰る途中、アキが露骨に不信感をあらわにする。


「カラスさん? あの人は中立だ」

「いや、見るからに思いっきり明らかにどうしようもないほど『黒狼派』だろ」


 呆れたようにアキが言う。



 烏丸夕夜―カラスマユウヤ―という、字面だけで『夕焼け小焼け』が聞こえてきそうな、一見地味でどこにでもいるような青年は、黒狼お抱えの情報屋である。

 実は某国のマフィア幹部に父を持ち、それが少なからず黒狼成立と現在の地位に関わっていることを、アキはハルから聞いて知っている。


 件のマフィア幹部が、かつてこの街で起きた部下の死の真相追求を、日本の妾の子であったカラスに命じ、そこに協力したのが、のちの黒狼のリーダーであるマガミであった。

 真相解明に深い恩義を感じた彼らマフィアが黒狼の全面的なバックアップを行い、独自の密売ルートを展開したことが、黒狼成立を十年早めたと言われている。

 その事件の詳細を、ハルはまるでその場で見ていたようにアキに話していたが、実際はどの位置にいて何をしていたのかということについては、怖いので聞かないことにしている。

 ともあれカラス自身は、自身の父親やマフィア関係とはあまり関わりを持ちたくないようであり、情報屋を続けるのも、いつか自分の力でパン屋を開くための資金作りだという、どこか的はずれな夢を語っている。

 黒狼は金を一番出してくれるお得意さんだからそれに応えているだけであり、基本的には中立だ、とは本人の言だ。


 だが黒狼自体は、カラス本人も言っていたように、圧倒的なカリスマ性を持つマガミに惹かれるようにして集まった荒くれ者たちがほとんどである。

 よって大多数の頭より体が先に動く残念な脳ミソを持つメンバーに、一握りのブレインたちが連日徹夜で悲鳴を上げている。

 自称部外者で中立のカラスは、そのブレインの一人でもある。


 金払いが良いからとか言いながら、実に三年は黒狼のお抱えであるので、アキの言うことはもっともであるが、ハルはまったく気にしていない。


「カラスと接触してるのバレたら、ロックとかうるさいんじゃねぇの?

 それに俺たちが黒狼嗅ぎまわってること、カラスがバラすかもしれないじゃん」


 余所者を頼りにしたくないのか、唇を尖らせて不満そうにするアキ。

 カラスとの話にも出てきたロックというのは、黒狼のNo.2であり、御多分にもれず武闘派で鳴らす男である。

 黒狼によくいるタイプの代表格だ。


「あの人は馬鹿じゃない。

 しかも利に聡いから、不利益被るようなことは極力避けるはずだ」

「それって、ハルを敵に回したくないってこと?」

「というより、そもそも敵だとも思ってない。

 そこがロックの馬鹿とは違うところだ。

 カラスさんの優先順位は一に興味、二に金銭。

 そのくせ情やら縁なんてモンを大事にするから、今日もこうやって俺に呼び出されてホイホイ来ちゃうんだよ」

「へー、よく分かんないや」


 アキは頭の後ろで手を組んでぼやきながら、ハルの後に続く。


「お前も人を敵か味方かでバッサリ切り分けるタイプだからな。

 カラスさんとは合わねぇだろうよ」

「えーそうかな。そんなつもりないんだけどなぁ。

 ハルは違うのか?」


 アキが聞くと、ハルはどこか一瞬考え込み、溜まった思いを吐き出すように一つため息を付いた。



「そうなれれば、もっと楽なんだがな」

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