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意外にも『Furiya』の反応は早かった。
その日の放課後、リクの端末を覗き込むと、未だ使ったことのないチャットルームのアイコンが点滅している。
誰かがリク、『Luis』のチャットルームに入室してメッセージを書き込んだことを表していた。
「み、ミズキ、おいこれ!」
「嘘! 降谷先輩じゃんか!」
二人は目を丸くして顔を見合わせ、ハイタッチをする。
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【発言者:Furiya】
[Luisさん、失礼します降谷です。
コメント見てくださってありがとう。
早速ですが、第六問目の回答ということで、よろしいでしょうか?]
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丁寧な口調で、メッセージが記されている。
「おおおー! 本当に選ばれた!
へへへ返事! 返事、どうしよう!」
「おおお落ち着けって!
ちょっと貸せ、へいパス、プリーズ!」
突然舞い降りた幸運に、熱いものでも持ったかのようにリクがわたわたと端末を持ち替えながら、助け舟を出したミズキにパスをする。
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【発言者:Luis】
[こちらこそ、サポありがとうございます!
第六問目で間違いありません。よろしくお願いします]
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少しドキドキしながら、二人が返信を待つ。
すると、こちらからのメッセージを待っていたかのように、数十秒後にはメッセージが入った。
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【発言者:Furiya】
[了解です。あ、本当に答えでいいんですか?
ヒントとかのほうが楽しくありません?]
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コードハントは、本来クイズを解いて楽しむもの。
『Furiya』と名乗る人物もその口なのであろうか、あくまでもゲームを楽しもうとする態度が窺える。
そんなメッセージに二人が顔を合わせる。
「ヒント貰って解けると思うか?」
リクが心配そうに言う。
「お前は無理かもな。そして俺もぎりぎり無理だろうな」
「ひどいでござる」
即答で頭脳プレイを否定されてリクが頬を膨らます。
「一応貰えるだけ貰っておくか。
ゲーム楽しんでる人間のほうが、先輩好みだろうし。
気に入ってもらえたら、また助けてもらえるかもしれないもんな」
「降谷先輩に気に入られてもなぁ……」
リクにしては珍しくあまり良い感情がないのか、若干複雑そうな顔をする横で、ミズキが早々と返信を送る。
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【発言者:Luis】
[ヒント貰えるなら、そちらの方が嬉しいです。
貰っても解けるかどうかは微妙ですが]
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【発言者:Furiya】
[OKOK。それではヒントを。
例題のCoCK、それから本題のNaHHBというアルファベットの羅列ですが、不自然に小文字が混じっていますよね。
コレがヒントです]
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早速返ってきた言葉に、ミズキがうんうんと一人で頷く。
「そうそう、コレは俺も変だなって思ってたんだ」
「そうなのか?」
「……不自然な文字や、文字の重複は暗号解読の基本だぞ」
「へーぇ」
コードハントを初日で投げた頭脳は伊達ではなく、この手の暗号解読について、リクはとんと疎いようだ。
「この小文字で何か分かるか? リク」
「ふーむむ」
リクがプリントの裏側にアルファベットを書き、小文字に線を引っ張る。
「俺はそもそも、暗号解読のキホンってやつを知らねぇし。
どういうのがあるんだ?」
「そうだなぁ。
アルファベットを数字に置き換えるので有名なのは、AからZを1から順に当てはめていったりとか?
ABCなら123、みたいに」
「なるほどね。でもこの問題は違うみたいだな。
でも置き換える……置き換えるか」
リクがうむむ、と唸る。
「アルファベット、小文字、置き換える。
一応確認しておくけど、このNaHHBって英単語じゃないよな?」
「違うだろうな。
CoCKはCOOKで『料理』って意味だけど、NaHHBはどう頑張っても英単語にはなりそうもないなぁ。
この母音の数じゃアナグラムも難しそうだし」
「アナグラム?」
「文字の並び替え。
一見意味のない言葉の羅列にしておいて、並び替えると意味が通じる英単語になるとか。
俺が知ってる中では、一番有名な暗号の作り方かな」
「へぇ、あれってアナグラムって言うんだ。
あ、じゃあ俺のコードネームもアナグラムかも」
新しい知識を得たリクが、二つのアルファベット列のとなりに「あなぐらむ」とメモを取る。
そんなリクにミズキが首をひねる。
「いや、それは違うだろ。
お前のコードネームは並び替えても名前にならないじゃん」
それを聞いてリクが少し得意げに目を細めて、人差し指を横に振る。
「チッチッチ、甘いな。これにはもう一手間加えていてね……」
「ふぅん、ま、どうでもいいや。で、分かった?」
さっさと問題を解きたいのか、珍しく頭脳を使った話題を出そうとするリクを無視して進める。
「聞けよ!」
「やっぱり分からんなぁ。お、追加ヒント」
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【発言者:Furiya】
[ヒント2:化学の教科書]
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「化学の教科書? リク持ってるか?」
「ふっふっふ、馬鹿にするなよ。
俺の教科書は全て机の中にある!」
リクが得意げにポンポンと自分の机を叩く。
「馬鹿の代表みたいなことをしながら、何を威張ってんだ」
つまり置き勉だろ、とミズキが呆れながら、リクが差し出した化学の教科書を受け取る。
「化学の教科書と、アルファベット……。
何か関係あったっけ?」
教科書をペラペラ捲りながら、ミズキが唸る。
その様子を見ていたリクが、一瞬ぼうっと呆けた顔をした後、はっと目を大きく開く。
「あ、もしかして」
「お、キタ?」
「キタキタ! めっちゃキタ!」
若干興奮気味でリクが教科書を奪って捲る。
それは一番最後の巻末に載っている、元素周期表だった。
それを見た途端、ミズキが思いっきり顔をしかめる。
「あ、駄目だコレ。駄目なパターンだコレ。こういうの俺、本当駄目」
どうやら拒否反応を起こしたらしく、ミズキがパタンと力なく机に突っ伏す。
「いや早いだろ! もうちょっと頑張れよ!
俺だって頭良くねぇのに頑張ってんだから!」
早々に諦めモードに入ったミズキを、リクが教科書の角で叩き起こす。
「いいか、これは英単語じゃなくて元素記号を並べているんだよ。
水素のHみたく一文字ならそのまま大文字。
鉄のFeみたいに二文字になると、二文字目が小文字。
だから変な場所に小文字があったのか」
「えーと、このアルファベットは原子記号。
ということは、[CoCK]は[Co]と[C]と[K]。
[NaHHB]は[Na]と[H]と[H]と[B]に分けられるのか」
リクがプリントにCo・C・Kと書く。そこにミズキがコバルト・炭素・カリウムと付け足す。
「で、これを元素周期表に当てはめると……」
さらにその下に、それらの原子番号である【27、6、19】と書き足したところで、リクが首を傾げる。
「あれ、例題の答えは【26518】だよな。
……もしかして俺、間違えた?」
「ん~、でも数的には近い……あ、そうか。
それぞれの数字から1を引いて並べているんだよ。
[27]は[26]、[6]は[5]、[19]は[18]。並べると【26518】」
「……お」
導き出された答えを、リクがまるでクリスマスケーキでも見るかのように目を見開いて凝視する。
そして突然立ち上がってミズキに向かって拍手をし出す。
「おおおおーー!!
凄ぇっ! お前凄いな! 頭いい! 最高っ!」
「だろだろ!! もっと褒めていいんだぞ!
才色兼備質実剛健万有引力のミズキ様を称えるといい!!」
ミズキまで立ち上がり、椅子に片足を乗せて前髪を掻きあげる。
その様子をクラスメイトは、あぁまたあのバカコンビか、なんだよ万有引力って、とでも言わんばかりに見ている。
「よしミズキくん。
この調子で本題の方の問題も、バシっと解いちゃってくれたまえ」
「ガッテン……ってお前も手伝えよ」
「おれつかれた、もう、すうじみたくない」
リクが教科書をつまんで、自分から遠ざける。
「……いやお前、周期表見てるだけだぞ」
「お前なんて、そこから一を引いただけじゃん」
「それを言われると、若干辛いんですが」
仕方ないな、とミズキが周期表と睨めっこしながら問題を解いていく。
「えっと、まず[NaHHB]は[Na]と[H]と[H]と[B]に分けられるな。
それぞれナトリウム、水素、水素、ホウ素か。
それで、これを周期表にあてはめて数字に直すと……」
プリントには【11、1、1、5】と数字が羅列する。
それを見て、リクが親指を立ててアピールする。
「ここからそれぞれ一を引くんだよな。
これなら俺でも出来るぞ!」
「出来なかったら近くの小学校か病院を紹介しなきゃいけないから。
心配になるようなこと、言うのやめて」
リクは、ミズキが導き出した元素番号から一を引いた数、【10、0、0、4】と書き込む。
「えっと、【10004】……が正解でオッケー?」
「なんでちょっと自信無さ気なんだよ。
引き算くらい頑張ってくれよ」
恐る恐る聞いてくるリクに、ミズキが若干哀れみの目を向ける。
そして携帯端末を操作し、『Furiya』にメッセージを送る。
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【発言者:Luis】
[アルファベットは元素記号で、周期表の数から1を引いた数、つまり【10004】であってますか?]
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【発言者:Furiya】
[大正解! 私を先輩と呼んでいたので、貴方は一年生ですよね?
でしたらちょっと難しかったかもしれませんね。
ともあれ、おめでとうございます!]
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「へへ」
「ふはは」
『Furiya』からの返信メッセージを見て、目を合わせてにやける。
さらに続けてメッセージが入る。
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【発言者:Furiya】
[第六問ということは、結構頑張ってるみたいですね。
色々とキナ臭い事になってるみたいなので、お互い気をつけてクリア目指しましょう!
それでは、ご健闘を祈ります!]
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【発言者:Luis】
[先輩もお気をつけてください。
本当に助かりました、ありがとうございます]
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激励のメッセージに感謝の念を返して送信すると、すぐに[【Furiya】が退出しました]とシステムメッセージが表示される。
「よかったなリク。これで一歩前進!」
『Furiya』が退出したチャットを閉じて、ミズキが端末をリクに返す。
「ふっふっふ、これでクリア一直線だな!」
受け取った端末を顔の前で構え、格好をつけながらリクが答える。
「ま、ほとんどヒントありきだったけど」
「それ言うなよ」
携帯の後ろからリクがふくれっ面をするが、ミズキは本当のことだろ、とにやりとするだけだった。
「このまま上手い具合に進めればいいけどね」
「才色兼備質実剛健万有引力のミズキ様がいるから大丈夫だろ?」
リクが意地の悪い笑みを浮かべる。
既に自分が頭を使うという選択肢はないらしい。
「……くそ、先行き不安すぎる」
ミズキが天を仰いでため息を付いた。
ともかくも、一歩確実に進んだ事をリクは素直に喜び、早速ネイビスのディーラーに答えを書いたメールを送る準備をする。
数分後には、正誤判定と共に次の問題が送られてくるはずだ。
どうか頭を使わない問題でありますように、と切に思いを込めながら、リクは送信ボタンを押した。




