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2-6

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ネイビス:第六問

以下の?に入る正しいコードを答えよ。



【例題】[CoCK  = 26518]

【問題】[NaHHB = ?????]


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【Ripper:三人目の被害者!】


[三人目出たって。何かヤバイらしい!]

[三人目、なんかやばいっぽいです]

[ヤバイって何がだよ。詳細求む]

[やり方が、青い蝶そのもの]

[意識不明とか聞きました。青い蝶の手口って、これ本当にまずいことになってるんじゃないですかね]

[RipperとBlueButterfly、本当に協力しだしちゃったんかな]

[青い蝶のやり方? 何それ?]

[知らない奴いるのかよ。有名なのに]


[被害者はズタズタに切り刻まれるんだけど、そん中でも必ず四肢を抉られる。

 生きてても精神おかしくなって「『青い蝶』に磔にされた」としか言わない。

 ……っていうか、言わせられてる?]

[あと脳みそな。一部切り取られてるんだって。

 脳を取って支配したい願望?

 結局一日持たずに皆死んじゃったみたいだけど。

 あと、発狂して自殺したり]

[あぁ、それ知ってる。精神病院で頭打ち付けて死んだやつだろ?]

[ゴミ捨て場にゴミ袋に詰めて捨てられてたり、電話ボックスの中で片手をナイフで貼り付けられてたり、あいつは本物の異常者。

 今までの切り裂き魔とは訳が違う。

 今見つかってるだけで何人だっけ? 3人?

 でも確か、もっといるみたいなことテレビで言ってたよ]

[薬で記憶障害になっちゃうんだよな。

 名前なんつったっけ、意識あるのに体動かなくなるやつで、よくレイプとかに使われるの。

 他にも色んなドラッグで頭パーになっちゃってんだってさ]

[自由奪って脳みそ切り取って、被害者に自分の存在(ていうか言葉?)を語らせるから、ジャックに対抗して『ブレイン・ジャック』とかってテレビで言われてた気がする]


 翌日の昼休み。

 相変わらず雲が教室に入る光を大幅にカットして、暗い教室内にぼんやりと影を落としていた。

 そんな中で、リクとミズキが携帯端末の画面に顔を寄せて、掲示板を覗いている。

 【三人目の被害者】とあったので、ミズキのことかと思ったらそうではないらしい。

 もっともあの事を知っているのは、彼ら二人とスタジオの人間しかいないのだが。


 掲示板の投稿コメントの時間はつい先ほどであるのに、既にその被害者の話題で沸騰中だ。


「三人目、『青い蝶』の手口と同じだって」


 端末を見ながらリクが呟く。

 対するミズキはため息をつきながら天井を仰いだ。


「……あいつら二人して、プレイヤー潰しにかかってんのかな」


 いつも通り、『Ripper』が犯行後にコメントを残していた。


【投稿者:Ripper】

[三人目]


 たった三文字の言葉が、プレイヤーを更に恐怖させたようだ。

 リクも同じように天井を向いてため息をつきながらぼやく。


「なんかゲーム辞めちゃう人、結構出てきちゃったなぁ」

「そりゃな、マジで『青い蝶』だったら、洒落にならないし。

 アレはマジで怪物だよ」


 リッパーズ・ストリートに棲み着く、最凶の切り裂き魔、『青い蝶』。

 以前ミズキの説明にもあったが、数年前から街の中で多くの殺傷事件を起こしている、一番有名な切り裂き魔だ。

 その綺麗な名前に似つかず、手口は残忍かつ狡猾。

 掲示板のコメントでもあったように、まるで玩具で遊ぶように被害者を甚振り、心身ともに追い詰めるという。

 特徴的なのは、その過程でそれぞれの四肢を抉るようにして傷つけ、脳の一部を切り取ること。

 数少ない証言は全て「『青い蝶』に磔にされた」、だった。

 それだけ残忍な事をしても何一つ証拠は残さず、警察も手をこまねいているというのが現状だと、リク達は聞いている。


 出現場所も犯行サイクルも分からない。

 分かっているのは手口だけであり、気まぐれのようにふらりと現れて、血を浴びて、証拠も残さず消える。

 『蝶』のイメージとも相まって、間違いなく存在するのに、どこか現実味を帯びない切り裂き魔の名前は、犯罪者というよりも幽霊や都市伝説のようなものであった。


 その『青い蝶』と同じ手口で、今回三人目の被害者が出たということだ。

 今までの脅迫とは違って、それは大きなショックをプレイヤーにもたらした。

 他人事ならば都市伝説で済むが、その刃が自分に向けられている可能性があるのなら、話は別である。


「このクラスにも、ネイビスやってるヤツって結構いるんだよな。大丈夫かね」

「やっぱりこのクラスにもいるんだ?」


 掲示板の画面を操作しながらリクが心配そうな声を出すと、頭の後ろで手を組んだミズキが目だけを向ける。


「ほら、俺が前に結構騒いじゃっただろ?

 コードネームは知らなくても、俺たちがネイビスやってるのは皆知っててさ。

 だからなのか、仲間がいるから大丈夫、みたいな感じで続けてる人は結構いるみたい」

 

 どこかバツが悪そうにリクが答えると、ミズキが肩をすくめ、

 

「……赤信号、皆で渡ればなんとやら、か。

 もっとも、これからどうなるかは分からないけど」


 そう言って、大袈裟にため息をつく。


「だよな。俺は脅迫されてるからゲームを降りられないから、他のプレイヤーたちにも辞めないでほしいけどさ。

 こんな事件が起こっちまったら、そうも言えねぇよな。

 怪我はしたくないけど、ミズキみたいに怪我して欲しくもないよ」

「そう、だよなぁ」

「俺らも第六問から進まないし。

 このままじゃまた、もう一人の脅迫者が何かしてくるかもだし、どうしよう……」

「どんなのだっけ? 第六問」


 ミズキの問いに、肩を落としながらリクがメール画面を開く。

 そこには簡単に、こんな式が書かれていた。


【例題】[CoCK  = 26518]

【問題】[NaHHB = ?????]


 どうやら【例題】と書かれた上の式と同じやり方で、【問題】と書かれた下の式を解く形式のようだ。

 『?』が一桁だとすると、全部で五桁の数字になる。


「あー無理もー無理。数学以外で数字なんて見たくねーよぅ」


 机に顔を伏せて、リクが足をじたばたとさせる。


「俺もちょっと、なぁ。

 どうもこの、大文字と小文字で書かれてる辺りがクサいと思うんだけど、うぅむ……」


 ミズキもお手上げ、という感じで首を横にふる。


「前に第二問で止まってる奴らを『Quga』が煽っちゃったから、少しでも多く解いておきたいんだけどな。

 掲示板に第六問のサポート宣言してる人とかいない?」

「ちょっと見てみる」


 リクが顎を机に乗せたまま、机に立てた端末を指で操作して、掲示板に目を走らす。


「ん? あ、これ……あ、あ?」

「どうした?」


 掲示板をチェックしていたリクが、突然訝しげな声を出す。

 ミズキが画面を覗いてみると、そこには【第六までサポします】という題名の書き込みがあった。

 しかもそのコメントに対するレス数は、かなりの数となっている。


「すっげ、第六までだって!

 俺たちのサポもしてもらえるかもよ」


 よくやったと言わんばかりに、ミズキがリクの肩をバシバシと叩くが、対するリクは少し渋るような顔をしている。


「リク、どうしたんだよ?」

「いや、この投稿者……」


 眉を寄せたまま、リクがコメント横の投稿者名を指差す。

【投稿者:Furiya】

[第六までサポします!]


「投稿者、Furiya……ふりや、降谷?

 もしかしてこれ、あの『降谷先輩』?」


 リクの示した投稿者名を見て、ミズキが声を上げる。

 どうやら二人共、この『Furiya』という人物に心あたりがあるようだ。

 しかし、それは決して全面的に良い感情で、と言うわけでないらしい。

 その理由を、ミズキが眉を寄せて口に出す。


「この学校にいるのにすごい頭が良くて、なのに食堂の電子レンジに電話機能つけたり、体育館の音響を改造して大スクリーンでゲームやったり、週一単位でどこかしらの電気をショートさせたり、コンピュータ室のパソコンの設定を勝手に変えて、どっかの大学のサテライト授業を勝手に聴講してるっていう、あの『降谷先輩』!?」


 実際知り合いではないミズキの耳にさえ届いてくる変人っぷりを兼ねそろえているのが、噂の『降谷先輩』らしい。

 リクは苦い顔をしてうんうん、と頷いている。


「でも確かに、頭は良いらしいからな。

 それでこのコメント数か」


 実際、彼の書き込みの後には、先ほどの第三の被害者の話題と同じくらいの数のコメントが付いている。

 リクがさらに掲示板を操作して、コメント全てを画面に表示させる。

【投稿者:Furiya】

[なんだかみんな暗いなー。

 第六までなら抽選でタダサポしちゃうから、元気出してー!]

 本文はこれだけだった。

 タダサポというのは、文字の通りサポート代を取らずにタダで答えを教える、ということだと、前にリクはミズキに教わっていた。

 これに対して周りの反応は早かった。

[本物? 本物の降谷先輩!?]

[降谷きたーーーー!]

[フーリャ降臨!]

[こんなところでなにやってるんですか、降谷さん(笑)]

[マジ降谷なら、サポ頼むわ!]

 さすが学園一の変人と言われるだけあって、彼の登場を歓喜する声が多く見られる。

 その一方でこんなコメントもあった。


[あれ、ランキングにいたっけ? 偽物じゃないの?]

[六問目まで解けてるなら、ランキングにいそうじゃない?

 まだほとんどみんな三問くらいだし。本物じゃなくね?]


 『Furiya』がミズキやリクのいう『降谷先輩』であることを懐疑的に思う者もいるらしい。

 しかしそれに対して、『Furiya』はこのようなコメントを残していた。


【投稿者:Furiya】

[ゲームは不参加ですよん。ずっとある方の相棒サポしてました。

 でもなんか最近張り合いないし、プレイヤー減っちゃうしだし、活気づけてやろうぜ!

 ……って相棒がいうので。


 そんなわけでサポ欲しい人は、その旨と問題番号を書いて、投稿者名を表示させておいてください。

 そしたら適当に選んでチャット飛んで答え教えちゃいます! 


 適当に選ぶので、選ばれなくても怒んないでね☆]


 どうやらサポーターとしてゲームに参加していた『Furiya』が、ゲームを活気づけるために今回のサポーター宣言をしたらしい。

 それが嘘か真か、それ以前に本当に皆の言うような噂の『降谷』なのかも分かっていないが、多くのプレイヤーはお構いなしだった。


[相棒いいやつ! 第二問目頼む!]

[第二問! 昨日のクーガのヒントでも分かんなかった。お願いします]

[降谷先輩こっちカモン! 第三問]

「私、前から降谷くんのこと、格好いいなって思ってました。

 なので第三問目お願いします」

[降谷先輩マジイケメン。

 第四問お願いします]


 その後は、各自のアピールとサポートを求めるコメントがずっと続いていた。

 それを見る限り、まだネイビスに対して熱意を持つプレイヤーがいるのが分かる。

 同時に、これほどまで人数を募らせる、『降谷』と言われる人物に対する評価の高さも。


「リク、俺らも書き込もうぜ!」

「選ばれるか? 結構人数いるぞ」

「分かんないけど、選ばれたらラッキーじゃん。

 本人じゃなかったり騙されてたとしてもタダだし、損しないって。

 みんな第三問あたりで止まってるみたいだし、張り合い欲しいって言うなら、第六問の俺達は結構選ばれる可能性高いぜ?」

「んー……よっし、やってやらぁ!」


 どこか渋りながらも、意を決したようにリクが掲示板に書き込みを入れる。


【投稿者:Luis】

[ちょうど第六問ですー! 降谷先輩、お願いします!]


「ぶ、無難にこんな感じでいいか?」


 初めて掲示板に書き込んだリクが、少しドキドキしながらミズキを振り返る。

 『Luis』というのがリクのコードネームである。

 ミズキはそれを頭を伸ばして覗き込みながら、


「うん、いいんじゃない? あとは天命を待とうぜ」


 にっと笑ってリクの肩を軽く叩いた。

 その反応で、すこしほっとしながら、リクが同じように笑う。


「これで少しは前進できるといいな」


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