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ネイビス:第二問
以下の写真をヒントにして、十桁のコードを見つけよ
【住宅街の路地裏、電柱の影】
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ネイビス:第三問
以下の写真をヒントにして、十桁のコードを見つけよ
【カラオケボックスの一室】
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ネイビス:第四問
以下の写真をヒントにして、十桁のコードを見つけよ
【陽光学園校舎裏】
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「ごめんなさい申し訳ないですごめんなさいです」
見るからに気の毒そうな顔で謝るリクに、ミズキは少々引きつった笑いを見せる。
「い、いいって! そんな謝るなよ。そもそもお兄さんは関係ないんだからさ!
それが普通だって。な?」
相変わらずの天気の中、弁当を食べながらリクが、昨日ハルに言われたことを申し訳なさそうに報告した。
「あんな大見得切ったのに、なんたる不始末……っ!」
リクが突っ伏して机をだんっとこぶしで叩く。
「でも、お兄さんの言うとおりだよな。先生か警察か、考えたほうがいいかも」
「だめだ!」
「うわ!」
ミズキの言葉に、ガバッとリクが顔を跳ね上げる。
その声に、クラスの数人が振り返るが、やはりいつものことと放っておいてくれる。
「やめたらまた怪我させられるじゃん! ダメ! ダメダメ! 絶対ダメ!」
リクが聞き分けの無い子供のように、首をブンブンと横に振る。
「じゃあどうするの」
「んー……」
左手で頬杖をつき、右手では箸で玉子焼きを突き刺しながら、リクが唸る。
「つまりさ、俺に脅迫状を出した奴は、なんでかわからないけどゲームを辞めてほしくないんだよな。
でもゲームを辞めないと『Ripper』に襲われる可能性がある、と」
「そうだな」
「んー……」
なれない考え事をしているせいか、箸の先の卵焼きが、どんどん形を崩していく。
「よし、分かった!」
「そうか」
ついに卵焼きが原型を留めないくらいに崩壊した辺りで、リクが自信たっぷりに、あまり期待していなそうなミズキを見る。
「『Ripper』に襲われる前に、俺が優勝する!」
「ん? え?」
「だからさ! 俺らを脅迫した奴は、すぐに行動起こしてきたじゃん?
明らかに俺らオンリーで見張ってる感じだろ。
でも『Ripper』のターゲットは、ネイビスのプレイヤー全員。俺だけじゃない。
ってことは、襲われない可能性もあるわけだろ?」
「ふんふん」
「例えば俺がランキング高くなって『Ripper』が襲いたくなっても、まず俺を特定しなきゃいけない。
それに、ランキング高いのは俺だけじゃないから、他のプレイヤーにも気を配らなきゃいけない。
だから、『Ripper』の方は俺を襲うのに時間がかかるんだ」
「おー、リクにしては頭のよさそうな意見だな!」
「だろ!」
嫌味を嫌味と気付けないリクが胸を張る。
そしてグズグズになった卵焼きを口の中に片付けると、結論を口にした。
「だから、『Ripper』が俺に気づく前に、さっさとクリアすりゃいいんだ。
ゲームさえ終われば、『Ripper』が俺を襲う理由もなくなるし」
「賞金よこせって言ってくるかもよ?」
「その時は、俺らにゲームをクリアしろって言ってきた脅迫者の願いは叶ったわけだから、大手を振って警察に駆け込む!」
「あまりいないよな、大手を振って警察駆け込む奴って」
リクの表現がおかしかったのか、ミズキが声を出して笑う。
怪我をして不安を抱えているはずの彼が笑ってくれたので、リクもどこかでほっとしながら、同じように笑ってみせる。
「な? いい案だろ?」
「そうだな。でもその案には、大きな壁があるぞ」
「え?」
どうやら根本的なことを忘れているようだ。
「お前、他のプレイヤーを出しぬいて優勝できるの?」
「……え?」
そう、本当に根本的なことを。
掲示板での『Ripper』の脅迫以来、未だ十五万円を目指すプレイヤーは他にも大勢いる。
自他公認馬鹿のリクが、彼らよりも先にこのゲームをクリアすることが、この提案の前提条件だ。
「で、できる! ネイビスがなんだ! 俺が馬鹿じゃないって証明してやる!」
「そうか」
「まぁどうせ暗号解くの、ミズキだし! 俺は無理だからね、頼んだ!」
「馬鹿じゃない証明とやらは、僅か二秒でどこに行ったんだよ」
やっぱり無理らしい。
俺も頭脳プレイは得意じゃないんだけどな、とミズキが肩を落として呟く。
「でもまぁ、それしかないよな。二人で目立たないように、優勝目指すか」
「よっしゃあ!」
ついに立ち上がってリクがガッツポーズを取る。
「目立たないようにって、言ってんのに」
クラスメイト数人からの「お座り」コールに包まれたリクを見て、ミズキが早くも前途多難を予感していた。
「ちなみにさ、お前いまランキングどれくらい?」
リクの携帯端末を覗き込みながら、ミズキが聞く。
「知らない」
「知らないってことは、もしかしてランキング外?」
「イエス」
前途多難に早くもぶち当たったようだ。
「確かランキングって、二十位以内まで表示されるんだよな。お前、それ以下か」
「へっへー」
悪びれもせずにリクが頭をかく。
「それでよく優勝目指すとか言い切ったな。凄いよお前」
「ふっふっふ。帰りにコーラ奢ってくれてもいいんだぞ?」
やはり嫌味に気づかず、勝手におだてられている。
ミズキはそれを無視して、ランキングの上位を表示させた
「あんまり入れ替わってないな。……ん? でもないか?」
「そうなの?」
リクも顔を寄せてランキングを覗きこむ。
「俺もプレイヤーだから、一応毎日チェックしてるんだ。ほら、これが俺」
指された名前を見ると、『Caza』と書かれていた
「ちぇざ……痛っ!」
読み上げようとしたリクの頭を、ミズキが横から自分の携帯端末でガツンと殴る。
「な、なんだよ!」
「馬鹿かお前! どこに『Ripper』がいるかも分からないのに、コードネーム言うなよ!」
非難の目で見るリクに、小さい声でミズキが怒る。
「あ、そか」
「お前も気をつけろよ。簡単に自分のコードネーム口に出すな。
……と、そういえば、お前のコードネーム知らないや」
自分で言って、まだ協力相手のコードネームを知らないことに、今更ミズキが気づく。
「あー俺のはLu……」
「だぁあっ!!」
「痛っ!」
再びこめかみの辺りを、ミズキの携帯端末が襲う。
「今、俺が! 言うなって!」
小声で怒鳴る、という若干高度な技をミズキが見せる。
「わ、悪ぃ。ついうっかり。あれ、何の話だっけ?」
涙目でリクがランキングをもう一度覗き込む。
度重なる頭への衝撃で、話題が飛んでいったらしい。
「ランキングが少しだけ変わってるって話。
こいつとかこいつとか……あ、こいつも、前までいなかったのにな」
そこには『Quga』『Kalu』『BlueButterfly』というコードネームが並んでいる。
いずれも十位以内だ。
「この『BlueButterfly』ってやつ、凄いな。昨日まで見なかったのに、一位だぜ」
感心しているミズキの横で、リクが首をかしげる。
「『BlueButterfly』……ブルーバタフライ?
ブルーバタフライ、ブルーバタフライ……。
うーん、なんかどっかで聞いたこと無い?」
「あぁそういえば。なんだっけ……って、え? 何? どういうこと?」
端末の画面をランキングから掲示板に移していたミズキが、会話の途中で困惑した声を出す。
端末にぐっと頭を近づけて唸っている友人に、リクがまた首を傾げる。
「何? どうした? 見えねぇよミズキ」
「その噂の『BlueButterfly』だけどな。
……プレイヤー辞めるって」
画面を凝視しながら、ミズキが応える。
「は? 何で? 一位なのに?」
予想外の答えに眉を片方上げる。
「うん。それで、サポーターに移るって」
「サポーターって、プレイヤーにポイント貰いながら助言する人だよな。誰のサポーター?」
なけなしの知識から、サポーターの情報を探し出す。
確かプレイヤーで登録しておきながら、実際にプレイしないでサポートをしてポイントを稼ぐ、という役職だったとリクは記憶していた。
一位という順位でありながら、サポーターになるのは確かに不自然だ。
「………」
「ミズキ?」
ミズキが押し黙って、画面を指し示した。
「『Ripper』だ」
これもまた、予想外だった。
一位であった『BlueButterfly』がプレイヤーを脅かす切り裂き魔『Ripper』のサポーターになる。
つまり、実質的に『Ripper』がランキング一位となることだ。
『BlueButterfly』の意図がまるで分からない。
「なぁリク。思い出したよ。『BlueButterfly』」
「え?」
顔を上げたミズキは、リクと同じ、いやそれ以上の戸惑いと困惑を浮かべている。
「切り裂き魔の一人だ。
しかも、他の模倣犯やただの暴漢とはわけが違う、本物のシリアルキラー。
この街で一番最悪で最凶の怪物。
通称、『青い蝶』」




