サブローの回想
《サブローの回想》
ガシャン!!
酒屋からなにかガラス音がした。
〔ん? なんだ?〕
物音に足を止め 酒屋に向かったサブロー。
〔おっちゃん・・・ どうかしたか・・・〕
〔おっ!〕
サブローが恐る恐る扉を開けた瞬間! なにかが飛び出してきた。
〔うわ~〕
情けない声を出して玄関前で尻もちをついたサブロー。
飛び出してきたのがなにかは認識できなかった。
〔なんてね!〕
尻もちついたサブロー あたかもわざというような振る舞いをし、普通に立ちあがった。
〔おっちゃん? おっちゃん?〕
立ちあがったサブローは、先程とは違い 恐る恐るではなく、ズカズカと酒屋の中に入って行った。
〔あれ? おっちゃんいないの?〕
サブローがズカズカと酒屋の中に入ると 酒屋のご主人の姿はなかった。
〔いないのか・・・〕
〔じゃあ さっきの物音は・・・〕
サブローは酒屋の奥へと進みながら物音の原因を探した。
そこでサブローの足が止まった。
〔・・・・〕
サブローの目の前に赤い湖があった。
〔あ~あ もったいない〕
サブローが見た赤い湖。
それは酒屋にあるワインが割れてできた湖だった。
先程の物音の正体はワインボトルが割れる音のようだ。
『なにやっているサブロー・・・』
二階の自宅から物音を聞いて下りてきた酒屋の主人が、割れたワインボトルとサブローの姿を見て驚いた表情をしていた。
『サ・・・ サブロー・・・ お お前!』
『なにしてくれんじゃ!!』
割れたワインボトルとサブロー。
誰がどう見ても犯人は明らかだろう。
しかし サブローは犯人ではない。
とてつもない 運の悪さのサブロー。
〔え? いや ち 違うぞ! おっちゃん!〕
サブローは自分が疑われていることに気付き、必死に否定をした。
『な なにが違うんだ』
『はぁ!!』
酒屋の主人は、あることに気付いてしまった。
『俺のワイン~!!』
何者かに割られたと思わしき酒屋のワインは、酒屋の主人が大切にしていたワインだった。
『俺の・・・ 俺の誕生日ワインが~!』
サブローの目の前で割れているワインは、酒屋の主人が大切にしていたバースデーワインが無残な姿になってしまっていた。
〔い いやこれは俺じゃないぞ!〕
〔俺は物音を聞いてここへ来たんだ〕
『・・・・』
サブローの弁解は酒屋の主人の耳には届いていない。
『・・・弁償だ! 弁償しろ サブロー!!』
酒屋の主人は重い沈黙の後 サブローにワインの弁償を要求した。
〔な なんでだよ!?〕
〔俺じゃないって ワイン割ったの〕
〔俺が割ったって証拠ないだろ!〕
『お前が割ってないって証拠もないだろ』
サブローはワインボトルを割ってはいない。
しかし 割っていないという証拠もなかった。
〔証拠ならある!〕
〔俺が割ってないって俺がわかってる!〕
『・・・それは証拠にならんだろ』
酒屋の主人のごもっともな意見で、証拠のなさを証明された。
〔・・・あっ! 俺さっき誰かとすれ違った!!〕
〔そ そいつが犯人だ!〕
サブローが酒屋に入る際 何かが飛び出してきていた。
『そんなもん 信じられるか』
『どうせウソだろ』
酒屋の主人はだんだん元気がなくなっていった。
〔おっちゃん? 本当に俺じゃないんだって〕
サブローは酒屋の主人の落ち込み具合が可哀想に思えてきた。
〔よし わかった!〕
〔俺が犯人探して出してやる!〕
サブローは大声で犯人探しを誓い 酒屋を飛びだした。
『コ コラ・・・ 逃げるな サブロー・・・』
飛び出していったサブローを追いかける力は、酒屋の主人には残っていなかった。
《商店街を歩く新田とサブロー》
「それでまっすぐ事務所に戻ってきたと」
サブローの説明を聞き、おおよその理解はできた新田。
〔そうだ〕
〔俺だけではどうにもできないからな!〕
サブローは堂々と言い切ったが、言い切ることではない。
「・・・・」
「はぁ~ それですれ違った奴はどんな奴なんだ?」
新田はサブローがすれ違ったという者の特徴を聞いた。
〔う~ん〕
〔それがいきなり飛び出してきて すぐ走ってどこかに行っちゃって・・・〕
〔わかんないんだよねぇ〕
お気楽に答えたサブロー。
「・・・・」
新田はサブローの回答を聞き その場に立ち止まり、くるりと反転して事務所に戻ろうとした。
〔ん? え! ちょっと!!〕
サブローは事務所に戻ろうとしている新田を必死に止めた。
〔ちょっと待ってって!〕
〔どんな奴だったかはわからないけど、ちょっと鼻がムズムズしたんだ〕
「・・・・鼻が反応したのか?」
「どんな感じだった」
サブローが必死に新田を止めるために言った 鼻がムズムズしたに引っ掛かった新田。
〔う~ん わかんない〕
「・・・・」
また事務所に帰ろうとする新田。
〔ち ちょっと待ってって!〕
〔一瞬だったからわからないだけだって〕
〔酒屋に戻ればまだ痕跡が残っているかもしれないじゃん!!〕
サブローは特殊能力を持っていた!
ウソである。
ただアレルギー所持者である。
サブローは生まれ持った運の悪さから数多くのアレルギーを持っていた。
〔な な! 早く酒屋に急ごう な!〕
〔酒屋の主人を助けると思って・・・〕
「・・・う~ん」
「まあ 酒屋のおっちゃんを助けたら 報酬でビールもらえるかも知んないもんな」
〔そ そう! ん? そう?〕
〔いや そう! 急ごう! 急ごう!〕
サブローの強引な説得が成功したようだ。
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