サブロー 見参
《探偵事務所前》
「ふ~♪ ふ♪ ふん~」
新田の鼻歌がサビへと到達した辺りで探偵事務所に着いた。
「ただいま~」
元気よく扉を開け、事務所の事務と言えば聞こえがいいが、ただ単にインドアの男が新田が開けた扉を背に、パソコンを目視しながら ぼそりと口を開いた。
『おかえり・・・』
「おう! 剛 マサル見つかったぞ」
関口 剛名前はかっこいいが、ザ・オタクである。
丸メガネを着用 髪は長くロン毛 髪を切る料金を払うよりフィギュアにがモットー。
ケチではあるが、貧乏ではない。
新田は貧乏だが、関口はパソコンを使い投資をし、成功している。
「それに ほれ! 現金ゲット!」
新田は現金の入った封筒を関口に見せつけた。
『へ~』
関口は封筒に目線を移すことなく、パソコンを見ながらぼそりと言った。
[それはよかった]
「ん?」
後ろから声が聞こえ振り向く新田。
「あ 社長!」
[今は大家です]
「あ そう・・・」
探偵事務所の社長兼この建物の持ち主であり、新田と関口の高校時代の校長でもある。
とても多才な経歴の持ち主。
[新田君 そろそろ今月の家賃払ってくれるかな?]
「・・・・」
[おや? その封筒はなんですか?]
新田が先程もらった報酬の入った封筒を指さした。
「・・・・」
新田がもらった久しぶりの現金報酬は、運が良いのか悪いのか 家賃と同額だった。
「・・・・」
新田は悲しい目をしながら現金の入った封筒を渡した。
[お! 払ってくれるのか]
[ありがとう]
久々の現金報酬だったが、数分で無くなった。
「・・・まぁ いっか」
「それより ビール ビール~」
新田は気分を切り替えて 事務所にある冷蔵庫へ駆け寄った。
ガチャ
冷蔵庫を開け 冷蔵庫を覗き込む新田。
「あれ?! ない!」
大声を上げた新田。
「なぁ? 俺のビール飲んだ?」
後ろにいる関口に問いかけた。
『飲んではいない』
ぼそりと即答した関口。
「じゃあ 社長飲んだ?」
関口が飲んでいないと言うので、社長にも問いかけた。
[いいや 私は飲んでいないよ]
どうやら社長も飲んではいないようだ。
「え~ じゃあ 誰飲んだんだよ?」
不思議そうに冷蔵庫を閉め、関口が座っている方に振り向いた新田。
「ん? 剛」
「お前 飲んだだろ」
新田の名推理がはじまる!!
・・・・・いや 推理なんかしなくて良い。
確たる証拠が目の前にあった。
『飲んではいない』
関口は無表情でビールを飲んでないと主張した。
「へ~ じゃあなんでお前 そんなに顔が赤いの?」
関口の顔は、ほんのり赤くなっていた。
『暑いからだ』
また無表情のまま 言い訳を口にした関口。
「・・・じゃあなんでお前の口からアルコールの臭いがすんの?」
新田は確信していた関口が明らかにビールを飲んだことを。
『さっきアルコール入りのチョコ食べたからだ』
断固としてビールを飲んでないと否定する関口。
実際には飲んでいるのだが。
「・・・だぁ! なんでウソつくんだよ!」
「どう考えても飲んでいるだろ」
どこかの女の子とおばあさんに変装した狼の会話のような掛け合いをした新田と関口。
『飲んではいない』
「飲んだだろ! 俺のビール!」
『お前のビールじゃないだろ』
『みんなのビールだろう』
『まぁ 飲んだけど』
関口は冷静に自分の罪を正当化しようとした。
現に事務所にあるビールは、酒屋の依頼を受けてもらったビール。
関口のみんなのビール発言は間違ってはいない。
「そ そうだけどさぁ~・・・」
「だってマサル見つけた頑張りにビールをくぅ~って飲みたかったんだよ~」
楽しみにしていたビールを関口に飲まれ、落ち込む新田。
「はぁ~ また酒屋のおっちゃん 依頼してくれねぇ~かな~」
新田が私利私欲の願いを口にした瞬間 事務所の廊下を走る音が響いた。
〔新田助けて~〕
大声で事務所の扉を開け、走り込んで来た男。
「またか サブロー」
どうやら走り込んで来た男は、新田の知り合いのようだ。
〔助けてくれよ~ 俺じゃないんだって!〕
助けを求める男の名前は鈴木 三郎仲間からはサブローと呼ばれている。
三郎と聞くと、三男なのではないかと考えるが、サブローは一人っ子なのに三郎なのだ。
祖父が演歌好きだから付けられた名前。
「今度はなにやったんだよ サブロー」
呆れた様子問いかける新田。
〔だから 今回のなにもやってないんだって!〕
〔俺は物音を聞いて 酒屋に入ったんだよ〕
「酒屋!?」
サブローの口から酒屋という言葉を聞き、目の色を変えた新田。
余程ビールが飲みたかったのだろう。
《商店街を歩く新田とサブロー》
「で なにしたんだよ今度は?」
新田は歩きながらサブローがなにかをしでかしたという前提で話を進めた。
〔だから俺はなにやってないって 俺が清楚で純朴なのは新田がよくわかっているだろう?〕
新田とは幼なじみで、この探偵事務所の最年長である。
新田よりも二歳年上のサブローは、探偵事務所の中で一番信頼がない男だ。
なぜ信頼がないかというと とてつもなく運が悪く、いつも事件の第一発見者になり、第一容疑者になるからである。
「また疑われてんのか? どんだけ運悪いんだよ・・・」
新田はあきれながら事情を聞いた。
〔そうなんだよ! 俺の悪くないんだぜ!〕
サブローは少し興奮しながら事情を説明し始めた。
〔俺はいつもの商店街警備をしてたんだ〕
商店街警備という名の散歩である。
〔そしたら酒屋の前を通り掛かったときに なにかが割れる音がしたんだ〕
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