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卒業

作者: ちぃ

あらすじにも書いた通り、これは卒業をテーマにしたものです。

珍しく恋愛要素皆無ですが、良かったら見てください。

とうとうこの日がやって来てしまった。

高校3年間を経て、特別な日。私はいつもの通学路を歩いていた。


赤いリボンが目立ち、チェックのスカートが可愛い、ブレザーの制服。これが目当てで入学した学校。


市立明暮ノ(あけぼの)高等学校。

私は今日。この学校を卒業する。


「とうとう、卒業かぁ」


見慣れた風景をいつもより少しゆっくり歩む。


彼処の家は猫屋敷で、瓦屋根の上で日向ぼっこしている姿を見掛ける。

此方には優しいお婆ちゃんが住んでいて、よくお菓子をくれた。

あっちの公園、小さい頃よく遊んだっけ。特にブランコが好きで公園に来る度にブランコばかり乗っていたなぁ。


暫く歩いて漸く着いた学校。いつもは15分で着くのに今日は30分もかかった。


先生が校門にたって、生徒と保護者を出迎えてる。

立てられた看板には『卒業式』の文字。


先生に挨拶しながら校門を通り、昇降口を抜け、階段を4回登ったその先には教室。


『3―1』に入ると、綺麗に並べられた机と、声を掛けてくれる友達。


少し談笑してから自分の席に座った。

ぐるりと辺りを見回す。綺麗にされた黒板。掲示板にはあんなに沢山合ったプリント類が無くなって、唯一避難場所を示す紙だけが片隅に貼っているだけだった。


担任の先生が教室に入ってきた。いつもジャージを着ている先生は今日に限ってはきちんとスーツを着て、何度もネクタイを気にしながら忙しくなく動き回り、落ち着かない様子だ。


「センセー、落ち着きなよー」

「そうそっ。先生が焦っても意味ないし。ただでさえ薄い髪が余計に薄くなるよ」

「うるせぇ!余計なお世話だ!」


先生は頭を押さえながら怒鳴る。それにクラス中が笑い渦に呑まれた。


そんな和やかな雰囲気も壁に掛けられた時計の針が進むにつれ、不安と緊張に変わっていく。


私も机と時計を目で行ったり来たりと動かす。


時計が予定時刻の10時を指した同じタイミングで学年主任から廊下に並ぶように指示された。


他のクラスも並び始め、全員並ぶのを確認した先生たちは生徒を率いて体育館に向かった。


体育館に着いたら入り口辺りにスタンバイ。順番通り入っていく。


私の番が来た。体育館には多くの在校生や先生、来賓の方、それに保護者。こんなに多くては自分の親さえ見つけられない。


パイプ椅子に座り、真っ直ぐ壇上を見つめる。


マイクを持った教頭先生が口を開く。


「只今より第91回卒業式を開始します。」


始まった--。



どんどん進行していく。

校長先生の話。来賓の方の話。


そして、卒業証書。


3年生の1組から名簿番号順に名前が呼ばれる。


担任の先生が生徒の名前を呼んでいく。


私の名前が呼ばれた。


「はい!」


先生に言われた通りに元気よく大きな声で。

緊張で声が震えて思うように言えなかった。


全員名前を呼ばれると、最後にクラス代表者の名前が呼ばれた。


クラス代表者の委員長は「は、はい!」と返事をし、ゆっくりと歩む。


来賓の方にお辞儀をしてから壇上に昇る。


校長先生からクラス全員分の卒業証書を受けとると、

お辞儀をする。


ゆっくりと壇上から降り、指定の位置に証書を置いて、席に戻った。


そして、皆一緒のタイミングで席に座る。


それらを4組まで繰り返すと、送辞と答辞した。

答辞を担当した子が言ってる最中に泣いてしまうというハプニングもあった。それに釣られて私も泣いてしまった。


そして、校歌。

大きな声で唄う。喉が痛くなろうとも歌った。

唄いながら、これまでのことを振り替えったら、涙が溢れた。


始まりの入学式。新しいクラスメイトとの出会い。信頼出来る友達との出会い。

体育祭や文化祭、修学旅行。

授業参観では柄にもなく緊張した。

3年生になってクラス替えをした。今まで関わりのなかった子たちとも仲良くなった。


自分のことの様に親身になってくれたお母さん。

無口だけど、優しいお父さん。

生意気だけど、可愛い弟。


私は色んなものに恵まれた。



校歌を歌いきり、校長先生がマイクごしに言う。


「卒業式を終了します。」


ああ、終わったんだ。



沢山の拍手の渦とカメラのシャッター音に囲われながら体育館から順番通りに出ていく。

涙を堪える子や、涙を流す子。私のように真っ直ぐ前を向いて、歩いている子もいた。


そのまま教室に戻り、自分の席に座った。ここに座るのも最後だ。


先生が最後のSTを始めた。泣きすぎた先生の目は赤い。


教壇の上に立ち、先生は1人1人、名前を呼び卒業証書を渡していく。


先生が泣くから私まで泣きそうだ。


最後のSTも終わりが近付いていく。

そして--……。


「起立、礼!3年間ありがとうございました!」


「「ありがとうございました!」」


「お、おまえらぁぁあ」


耐えきれず、号泣する先生。


その様子に笑いの渦が出来る。



STが終わった後。

それぞれ思い思いに行動する。友達同士や先生と一緒に写真を撮ったり、友達と話したりした。


スマホがバイブする。確認すると後輩から『部室に来てください』とL〇NEがきた。


不思議に思いながら、友達に最後の別れを告げ、教室を出て部室に向かう。



「あ、来た。先輩!」


部室に入ると、そこには数名の後輩と顧問の先生がいた。


同じく卒業する部長は此方に右手をあげ、「よぉ」と言う。


「あ、あのさ部長。これから何が始まるの?」

「何ってお別れ会だろ」

「でも、前やったじゃん」

「前は前。今は今だろう」


部長と話していると、後輩達から


「先輩方。ご卒業おめでとうございます!」


と言われ、呆然としながらも「あ、ありがとう」と礼を言う。


渡されたのは色紙や花束にお菓子まである。


「おー、サンキューなぁ」


部長の手にも私と同じく色紙と花束とお菓子。そして、何故かマンガが2冊。


それが気になり、ジーッとマンガを見つめる。

それに気づいた部長が「後輩に借してたマンガ」と少しマンガを掲げる。


「先輩!写真撮りましょうよ、写真!」


後輩に腕を引っ張られ、綺麗に飾り付けされたホワイトボードの前に立つ。

ホワイトボードには『お別れ会』と書かれていた。


「はい、先輩。笑ってください。……って、部長。もっと寄ってくださいよ。そんな隅にいたら写真現像した時に途切れますよ」

「お、おう」


カメラのセルフタイマーをセットして、後輩が私の左隣に立つ。


「はい、チーズ」


皆思い思いのポーズを撮る。私は無難なピースサイン。


カシャッ。



写真を撮った後、(たが)が外れたように後輩が泣いてしまった。


「せ、先輩~。卒業しないでくださいぃぃ」

「えーっと…」


後輩を泣き止ませる為に取り敢えず抱き締めて頭を撫でてみた。


嗚咽(おえつ)を溢しながら、しがみついてくる後輩。


暫くして名残惜しそうに離れていく後輩は「先輩、ご卒業おめでとうございます」と赤い目で言った。


「うん、ありがとう」


涙が出ている感覚があるもののそれを止めることさえできない。

ぎこちない笑顔でお礼を言うことしかできなかった。



「写真は現像して送ります」


そう言った後輩に別れを告げ、部室を出た。


昇降口を抜け、外に出ると、コンクリートの校舎を見上げる。


所々壁の表面のひび割れが目立つ校舎は入学したての頃はキラキラして見えた。でも、やっぱりボロいや。


「お世話になりました」


ポツリと小さな声で、だけどはっきりとそれを口をした。


朝の時とは違って晴れやかな気持ちで校門を出ていく。



『卒業おめでとう』

読んでくれてありがとうございます。

ここだけの話、実は私の卒業式の話を少し加えています。

そこがどこかは皆さんの想像で…。

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