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新人冒険者、奔走する-4




 運転手のりーミヤにセレス、リーン、ズイーを乗せたオルビスが走り出す。

 王都を出てすぐにキャラバン隊と擦れ違うために道を外れたが、それ以降はたまにモンスターを轢き殺すくらいのイベントしかない、いつも通りの旅だ。気を使ってか、リーンとズイーはリビングにいる。

 ディスプレイから呼び出し音。

 セレスの手を握っていたリーミヤが、忌々しげにマイクを持ち上げた。


「あいよ。どしたん?」

「リーミヤ、氷をもらうぞー」

「好きに使っていいよ。昼間っから酒?」

「西の国境の森までヒマだからなあ。オルビスでも夕刻までかかるんだろ。どこぞの新婚さんと違って、イチャつく相手もいねえしよ」

「サーミィ姐さんはどうよ? 落ちそうな気配はあんの?」

「・・・訊くな、頼むから」

「望み薄かあ。ファウンゼンさんといい、こっちの男はだらしがないねえ」

「うっせえ。ああ、どっかにいい女はいねえかなあ・・・」


 酒を飲み出したリーンは、ズイーにグチを言いながら缶詰まで開けている。

 リーミヤはそんな事は気にもせず、アイテムボックスから紙を出してセレスに渡した。


「もしかして、これが?」

「うん。母さんからの手紙。2枚目には、セレスへの言葉も書いてあるよ」

「・・・そうなの。じゃあ、読ませてもらうわね」

「どうぞどうぞ。たぶんスキルの制約で、長い1枚の紙に書かれてるから読みにくいけど」

「手紙だけとはいえ、違う世界を行き来するなんて。ユニークスキルって、本当に凄いのね・・・」


 リーミヤが頷きながら紙巻きタバコを咥え、火を点ける。

 上になっている方の手紙を読み始めたセレスは、数行を読み進めただけで弾かれたように顔を上げた。


「どしたん?」

「もしツライ思いしかしてないなら、そっちの神様をぶん殴りに行くって書いてあるのだけど。その手前の、もしリーミヤちゃんが売国奴になったならあなたを殺してお母さんも死にます、ってのも凄いわね・・・」

「本当にやりそうで怖いよ。1枚目は俺の状況を知らないで書いてるから、もしこういう状況ならこうしなさい。みたいな文面が続くよ」

「・・・本当ね。銃がある世界の場合から、剣と魔法の世界だった場合。平和だから戦うという事でお金を得られない世界ならどうするべきかまで書いてあるわ」

「過保護だよねえ」

「愛されてるって事よ、感謝なさい。2枚目は、・・・す、凄いお母様ね」


 セレスが手紙を読み進めるのをやめ、ドリンクホルダーのカップを口に運ぶ。

 それを見たリーミヤは笑いが止まらないようだ。


「戦争に巻き込まれてるなら、軍艦で援軍に行きます! だもんねえ。ホントに可能だと思ってそうで怖いよ」

「でもその後は、状況を知らせてくれればアドバイスすると書いてあるわね」

「うん。だから俺がどうしようと思ってるかは知らせておいたよ。お、前方にお散歩中のモンスター発見。・・・よっと!」


 オルビスに轢かれ、かなり大きなブウイが肉塊に変わる。


「あら、今のでちょうどレベルアップだわ」

「おめー」

「ありがとう、でいいのかしら。それでリーミヤ、前にオルビスで馬車の部品を作って回るって言ってたじゃない?」

「・・・あの計画かあ。無人島は狭かったから、あまり木材を採れなくてね。荷台には、5台分くらいの部品しか積んでないよ。まあ、だからこそ王都で食料とかたっぷり積み込めたんだけど」

「こんな状況なら、リーミヤはオルビスで飛び回るつもりでしょ。だから、あの計画は私が進めようかと思って」

「バダムさんのトレーラーでかあ・・・」

「いいえ。どうせ部品製作のスキルを取るなら、私も【孤独な天才設計者】まで取得するわ」

「・・・3台目の車両を、この世界に生み出すのか」


 煙草を消し、リーミヤがセレスを見る。

 セレスも目を逸らしたりはせず、しっかりと視線を合わせた。


「わかってるの? セレスがそんな物を乗り回してたら、この世界の人間にも鉄箱が使えるって宣伝して歩くようなもん。いざとなればいろんな人が、戦時なんだから自分にも使わせろと要求するよ。んでそれを否定して断るには、セレスが客人と同じ存在になったって公表するしかないんだよ?」

「覚悟の上よ」


 リーミヤが黙り込む。

 客人と同じ存在になったエルフ。

 まずアィダーヌは黙ってはいまい。客人であるリーミヤを怒らせるような手段は取らないだろうが、なんとかしてセレスのスキルを国のために使わせようとするはずだ。

 それに婚姻を結ぶ事で客人を量産できるなら、人間は欲深く醜い生き物だと言って憚らないエルフの指導者すらどう動くかわかりはしない。


「リーミヤも、覚悟だけはしましょう」

「覚悟、か・・・」

「ええ。この大陸を守り切れたら、私達は消えるべきよ。一切の近代兵器をこの大陸に残さず、世界の果てかどこかでひっそりと暮らすべき」

「まあ俺は、セレスがいてくれればどこでも生きていけるけどね」

「私もよ。だから、スキルを取るわね」


 リーミヤは頷かない。

 黙ってオルビスを走らせる。

 しばらくすると焦れたように、セレスがドリンクホルダーのカップを口に運んだ。


「・・・ねえ、セレス」

「なあに?」

「1つだけ約束して」

「何かしら」

「セレスの職業やスキルについて何か言った人間がいたら、すぐに無線で報告する事。どんな小さな事でもね」

「約束するわ。私が、その人間を殺した後でもいいなら」

「・・・そこまで覚悟してたのか。困った奥さんだ」

「アィダーヌには、客人に関する法律を私にも適用させるわ。他国でも、恥知らずは殺した方が国のためでしょうし」

「なるべく俺に殺らせなよ?」

「努力はするわ」


 リーミヤにエルフの里への道を指示しながら、セレスが網膜ディスプレイを操作する。

 西の国境のオルビスでは進めない森の前に到着する頃には、彼女はすでに網膜ディスプレイでの車両設計まで始めていた。

 スキルポイントはこんな時のために取っておいたし、低レベルだとレベルアップは信じられぬほど早い。運転スキルまで取得したので、森を出たらスキルを使って作った車両で王都まで戻るそうだ。


「準備はいいぜ、リーミヤ」

「あいよ。じゃあ、森に入ろうか。セレス、森で何泊する予定?」

「3泊して、その次の朝に里に到着ね。シャル、おいで。フードに入って寝てるといいわ」

「手土産のお酒や缶詰もアイテムボックスに入れたし、行こう」


 オルビスを収納して、4人と1匹が森に分け入る。

 まだ夕刻だというのに、森に1歩踏み込むとまるで夜だ。

 それでもセレスが指示する方向の枝を剣で切り払い、リーミヤは歩を進める。


「草深い森だねえ」

「この辺りには、村すらないもの」

(それでか。リーン、赤マーカーが右手から背後に回ってる)

(殿を任されたんだ。上手くやって見せるぜ)

(お願いねえ。・・・来るよっ)

(おうっ!)


 リーミヤが邪魔な枝葉を切り落とし、4人が下草を踏みを踏んで進んだといっても道というには程遠い。

 その最後方を進んでいるリーンが振り向きざま、腰の剣を抜き打ちで跳ね上げた。

 獣の悲鳴。

 リーミヤのところまで血が臭う。

 彼が周囲を警戒しているので、アイテムボックスがあるセレスがリーンのところまで戻った。


(森狼ね。良い形だから、毛皮だけ取るわ)

(狼なのか、コイツ。まあ、たしかにガルーよりはいい踏み込みだったな)

(セレス、それは群れないの?)

(群れるけど、老いたオスは群れから追い出されるわ。たぶんこれもそうね)

(・・・あっしにゃ、ずいぶんと身につまされる話でさあ)

(ズイーさんはまだまだ現役でしょ)

(肉は美味しくないから放置ね。行きましょう)

(あいよー)


 セレスの光源魔法を頼りに、夕餉の時間が過ぎても一行は足を止めない。

 先頭のリーミヤが足を止めたのは、そろそろ日も変わろうかという頃である。


「そんな広くはないけど、ここなら4人が横になれるか」

「そうね。シャル、お願い」

「にゃあんっ」


 結界魔法が張られたのを肌で感じたのか、リーンとズイーが安心したように息を吐く。

 それぞれにリーミヤが人1人が横になるのに不自由のない敷物を出すと、セレスは王都で用意していたらしい弁当を配った。

 まずは腹拵えと、腰を下ろした4人が食事を始める。


「明日は1日、ずっと歩き通しか」

「水分補給はちゃんとして、キツくなったら言うんだよ。リーン。俺とセレスはレベルアップのおかげでタフになってるから、同じペースじゃ保たないと思う」

「・・・弱音を吐くみてえで癪だが、そうさせてもらうかな。職業持ちのレベル、か。羨ましい限りだ」

「父さんなんかは、大して努力してないのに成長するのは気持ちが悪いって言ってたなあ。俺は生まれた時から職業持ちだから、イマイチわからないけど。寝酒、いる? 小さな空きビンに、ベルーナの葡萄酒を詰めたのがあるよ」

「いるに決まってんだろうがよ。早く出せって」

「はいはい」


 ウイスキーの小ビンに、レオニウス家の3階での飲み残しを詰めた物が4つ出される。


「ちっちぇ・・・」

「シャルに結界魔法を張らせての野営だからねえ。いらないなら仕舞っとくけど?」

「飲む飲む。ベルーナ産の葡萄酒は高級品だからな。前から飲んでみたかったんだよ」


 それぞれが言葉少なに小ビンを傾ける。

 エルフは人間嫌いの種族。

 そして一行は4人中3人が人間族だ。

 わざわざ口に出したりはしないが、誰もがエルフとの戦闘になる覚悟までしているのかもしれない。


「もうなくなっちゃった・・・」

「同じく。味は最高だが、この量じゃなあ」

「リーンは運転しないから、オルビスで飲めるでしょ。さあ、明日も早いんだから光源魔法を消すわよ」

「へーい。わかったよ、おっかさん」

「炎のベッドで寝たいなら、遠慮せず先に言えばいいのに・・・」

「じょ、冗談だからそんな怒んなって」

「ははっ。うちのかわいいお嫁さんに、・・・わぷっ!」

「もしかして、お母様のお手紙?」

「みたい。また風もないのに顔面直撃って、母さん怒ってんのかなあ・・・」


 リーミヤが手紙を読み始めるが、それはすぐにセレスに回された。


「今度のは短いわね。・・・3レベル上げて、【第一種軍事航空機操縦】を取ったら返事を寄越しなさい。どういう意味、リーミヤ?」



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