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新人冒険者、娶る-5




 立ち上がったリーミヤが出したのは、セレスの片手ほどの長さの鉄の塊だ。

 焚き火の明かりを照り返すそれを、3人が興味深そうに観察する。


「リーミヤ、その銃は?」

「アサルトライフル。連続で撃てる銃だよ。一般人でも使えるくらいの威力しかないから、過信は出来ないと思うけどね。ガルーってどんなモンスター?」

「簡単に言うと犬だ。凶暴ですばしっこい。咬まれれば、骨まで持っていかれるぞ」

「なら、なんとかなりそうかな」


 言いながら銃の機構部品を操作して、リーミヤは不敵に笑う。

 商人になる予定の学生で文明再生のための研究をしていたそうだが、狩りのような荒事が嫌いではないらしい。

 異世界から異世界に招かれ、王にまでなったという父親の血はしっかりと受け継いでいるようだ。


「ムームーを殺れたんだ、銃はモンスターに効く。焚き火のそばにセレス。俺達はそれを三角に囲む」

「ジャスさん、まさかリーミヤに1方面を任せるのですかっ!?」

「銃を持ってるリーミヤは、異世界の戦士として扱う。持ってねえときゃ、ド素人の新人冒険者だ」

「片腕を咬み千切られたくらいなら、あたしがすぐに治してやるからね。しっかりやんな、異世界の戦士様!」

「・・・これは、情けないトコ見せらんないね。ずいぶん集まってるみたいだけど、こっちはこのジャンクヤードの猟兵が1匹も通さないよ!」

「おいおい、そりゃ二つ名か?」

「うんにゃ、職業」

「いい覚悟だねえ。鉄腕聖女ダラス、燃えてきたよっ!」


 背負っていた両手鎚を振り回し、ダラスが吠える。


「おうおう、いい年してやる気満々ってか。だが異世界の戦士が姫を守ろうってんだ、金獣騎士としちゃ負けらんねえな」


 ジャスがスラリと剣を抜く。そして腰の後ろから、重そうな盾を取り出して左手に構えた。


「それって二つ名ってやつ?」

「ああ、そうだぞ」

「セレスさんは?」

「異世界の戦士との初めての共闘だ、名乗れセレス!」

「うっ・・・」


 リーミヤは周囲に溢れる赤マーカーとやらを気にしながらも、時折セレスをキラキラした瞳で見遣る。

 その期待の眼差しを裏切る事を躊躇っているのか、セレスの視線は揺れていた。


「・・・・・・よ」

「え、聞こえないよ?」

「・・・・・・き」

「は?」

「樹国の美姫だって言ってるのよっ!」

「おおっ、カッコイイ!」


 セレスの顔は真っ赤になっている。

 だが、リーミヤはなおもセレスの二つ名を褒め続けた。


「冒険者の間じゃ、エルフの巨乳姫って呼ばれてっけどな」

「うっさいです。数年もすればハゲ獣騎士になる人は黙ってて下さいっ!」

「おっちゃんは金髪だから金獣騎士なのかー。ところで、ここなら大きな音を出しても平気?」

「まあ、こんな森の奥だからな。なにか手があるのか?」

「うん。正面のガルーが固まってるトコあるでしょ。たぶん5匹は巻き込めると思う」

「ガルーは30以上。そのうちの5匹はデカイ、やってくれ。リーミヤの攻撃にセレスの攻撃魔法が続くからな。魔法が一段落するまで突撃は控えてくれよ。こっちじゃ戦士は、常に魔法使いと神官を背にして迎え撃つんだ」

「了解っ。音が大きいから気をつけてねっ!」


 ガルーの群れはまだ遠い。

 それでもリーミヤは空中に鉄の玉のような物を出現させると、取っ手のような物を握りながら歯で鉄の輪を抜き、ガルーの群れへ投げ入れた。


「音が来るよっ!」


 ドオオンッ!


「なっ・・・」


 耳をつんざく轟音にセレスは声も出ないようだが、すぐに気を取り直して片手杖をガルーの群れに向けた。


「火よ、ガルーを巻き込み爆ぜよ!」


 ドオンッ!


「うっひゃー。魔法スゲー!」


 はしゃぎながらも銃の手前を頬に押し付けるようにして、リーミヤがガルーを撃つ。

 ほんの一瞬。鉄の部品を引いては戻すその度に、必ず1匹のガルーが血を吹いて地に倒れ込む。


「おいおい。リーミヤとセレスだけで余裕なんじゃねえか、これ・・・」

「魔法は知らないけど、銃は1人が持ってるくらいじゃ大した効果はないよ。ほらっ、残りが突っ込んで来るっ!」

「魔法もそうですよ。質を揃えた魔法使いが籠の目のように魔法を放って、それで初めて魔法使いは有効的な兵種になるのです。草花よ、ガルー達の動きを止めてっ!」


 雑草でしかない下草がウネウネと動いてガルーの足に絡みついたのを見て、リーミヤが薙ぎ払うように銃を撃つ。

 先ほどまでとは違い、部品を引きっぱなしにして広範囲を攻撃する事を目的にしているようだ。即死はしないものの、撃たれたガルーは明らかに動きが悪くなっている。

 そして、沈黙したアサルトライフルを捨てた。

 それは音もなく消えたが、代わりにリーミヤの左手には拳銃が握られている。


「さあて、俺の世界じゃここで突撃だよ」


 言いながら右手で剣を抜く。

 その瞬間、優美さの欠片もない剣身が火を照り返し、リーミヤの顔は血に染まってでもいるように見えた。


「言うじゃねえか、猟兵。ここでも一緒さ。だが、常に姫様を気にしろよ?」

「なんで猟兵は発音できるんだか。了解、金獣騎士」

「ああもう、どっちも良い男っぷりだねえ。これだから、戦場を離れたくないんだよ」


 ニヤリ。そんな音が聞こえてきそうな笑みを浮かべて、ダラスがジャスの隣まで進む。

 それを見て、リーミヤも2人に並んだ。


「突っ込めっ!」

「おうっ!」

「ウラーッ!」


 乱戦が始まる。

 ジャスは剣で動きを止められているガルーを斬り捨て、飛びかかってくるガルーを盾でぶん殴って昏倒させる。剣と盾で数の不利を振り払うその技は、一流の戦士としか言い様がない。

 それよりも派手なのは、ダラスだ。

 跳ね上げた両手鎚の軌跡にいた2匹が、4人の中で一番背の高いジャスの背丈を超えるほどに吹っ飛ぶ。あれでは、どちらも即死しているだろう。


「ハハッ、やはり相手が犬っころじゃヌルいねえ。ジャス、帰ったらかわいがってやるから体力は残しときなよ!」


 叫びながら振り下ろした両手鎚はガルーを真っ二つに引き千切り、土を抉る直前でまた跳ね上げられて別のガルーの顎を叩き割った。


「勘弁してくれ、戦闘の後のオマエに付き合ってたら体が保たねえんだよっ!」


 言いながら、大振りの隙を狙ってダラスに飛びかかるガルーをジャスが斬る。

 チラリと視線を向けた先では、リーミヤが先の尖っていない剣でガルーの頭を断ち割っていた。


「やるじゃねぇか、猟兵!」

「いちゃついてんじゃねえよ、金獣騎士!」

「はっはー。そんな口調もかわいいねえ、リーミヤちゃん!」

「そんな顔を見たんじゃ、もうおばちゃんとは呼べないね。どんな腕力してんのさ、ダラスさん」

「いい男を寝室に引き摺り込むために、神様がくれた腕力さ!」

「おっちゃんは抵抗しねえで、喜んで着いてったでしょ!?」

「今はこんなだが、昔のダラスはそりゃあいい女でなあ。コイツを口説きたくて、議会からの大型モンスター討伐依頼があれば、国中から冒険者が集まったもんさ!」


 軽口を叩きながらも、3人は確実にガルーの数を減らしてゆく。


「キャンッ」


 リーミヤを狙ったガルーがつんのめって鳴く。足元にはさっきまでなかったはずの石。土魔法だ。

 その頭蓋を、リーミヤが拳銃で粉砕する。飛び散る血と脳漿の向こうにいるセレスを見て、リーミヤはオスの顔で笑った。そのまま踊るように腕を振り、次のガルーを剣で屠る。


「ありがとう、姫様!」

「次にそう言ったら攻撃魔法でぶっ飛ばしますよ?」

「怒った顔もキレイだねっと!」


 ドンッ!

 リーミヤが拳銃で倒したガルーが最後のようだ。

 森に静寂が戻る。

 だが、誰1人として構えを解いている者はいない。


「どうだ、リーミヤ?」

「・・・うん。感知範囲内にマーカーなし。お疲れさまー」

「殴り足りないねえ。どうだい、このまま大物を探しに行くってのは?」

「リーミヤはこっちでの初陣なんだ、自重しようぜ」

「行きたいけど、ちょっと血と雰囲気に酔ってる感じ。だから俺は遠慮するよー」


 リーミヤが布を出して2人に渡す。

 それで各々の武器を拭くのを見ながら、セレスは焚き火に枝を足していた。


「残念だねえ。でもま、戦闘中のアレは良かったよ」

「アレってなんだ、ダラス?」

「見てなかったのかい。ガルーを銃で殺して次を剣でたたっ斬る間に、いい笑顔でセレスを見たのさ。ありゃ、抱いてやるから股を開きなって言ってるような笑顔だったよ。あれじゃセレスは、子宮がキュンっとしただろうね」

「へえ。そうなのか、セレス?」


 3人が焚き火に戻ると、セレスは返事をせずにそっぽを向いてしまった。

 リーミヤの茶漉し付きポットに水が足され、回すように振ってから4つのカップに茶が注がれる。それにまた水を足し、セレスは焚き火の上に置いた。


「・・・あのねえ、セレス。せめて茶葉を足そうとか思わないのかい。そんなんじゃ、リーミヤちゃんに愛想を尽かされるよ?」

「セレスとリーミヤはそんなんじゃありませんっ!」

「ん?」

「・・・わ、私とリーミヤはそんなんじゃありません」

「んん?」


 まじまじと自分を見るリーミヤを、セレスが顔を赤くしながら睨みつける。


「ははっ。おい、一服しようぜリーミヤ。予備に持ってる新品のキセルがあるからくれてやる」

「ありがたいけど、今もっと楽しそうな事が・・・」

「あまりからかってやるな。セレスは100にもなってねえ。人間で言えば、成人前のお嬢ちゃんなんだからよ」

「100!?」


 リーミヤが驚きで持っているカップを揺らす。

 不精なセレスがなみなみと注いだお茶風味の水が手を濡らしたが、そんな事を気にしている余裕はないようだ。


「ああ、あっちにゃエルフはいねえか。エルフの寿命は、平均で2000とかなんだよ。さらに魔力で伸びるから、セレスくれえの魔法使いはいつまで生きるかわかんねえな」

「ふーん。美人で優しくって巨乳で年下なのか。モテるだろうねえ」

「恋焦がれるような想いでセレスを見る男は多いが、エルフは生涯で1人しか伴侶を持たん。人間だと確実に2000年は寂しい思いをさせるから、言い寄る男はいねえよ。そんで、里を出るエルフはほとんどいねえ。その上セレスは、大のエルフ嫌いだ」

「そっかー。職業持ちならスキルで添い遂げられるけど、普通じゃムリだもんねえ」

「はっ?」

「え?」

「まさか・・・」



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