後日
「あーもしもし、所長ですか。
神名咲です、依頼の学生を見つけました。
予想通り死体です。
溺死体、ぶよぶよです。
あと襲われたんで球つぶしました。
……はい、そうです。
他は適当にあしらっておきました。
はい、あとはお願いします」
少女こと神名咲はずぶ濡れのまま公衆電話から所属している事務所の所長に報告をする。
その内容は簡素ながらに正確なもので受話器の向こう側にいる所長も所々で質問を返すだけだった。
「それじゃこれで私は帰宅します。
えーとなんでしたっけ、旅費と出張手当はいつもの通りメールで報告しますんで口座にお願いします。
あと今回バスタブに引きずり込まれたんで服が汚れてしまったんでそれも経費で落ちますよね」
神名咲の言葉は、あんまりだといえばそれまでの事だが極力人とのかかわりを断とうとしている節が見えた。
その事を、その詳細を知っているのであろうか。
所長は何かを言うでもなくそれを承諾し、そして電話は切られた。
「あーくっそ、なんでこんな東京の端っこにきてまで濡鼠にならなきゃいけないのかしらねえ。
くっそ、下着も買い換えなきゃいけないじゃない」
悪態をつきつつ、壊れた携帯の事を伝え忘れたと思い直し、再び受話器に手をかけるがそれは帰ってからでいいかと思い直し公衆電話の扉を押し開ける。
10月の肌寒さに相俟って水をかぶったせいで神名咲は部瑠璃と体を震えさせポケットから煙草を取り出し、そしてコンビニのごみ箱にそれを投げ捨てた。
無事だったのは手提げのカバンに入れていた未開封の煙草のみ、その事を思い出して諦めた。
右手の袖を大きくまくり上げ、念入りに手を拭いたとはいえ悪臭を放っているこの体に紫煙を合わせることは好ましくなかった。
それ故に、神名咲は近くの服飾店を探し、適当な銭湯を探すために交番に駆け込み、不審者扱いを受けたのは本人のみが知るところである。
後日携帯電話の修理費、服の購入費、銭湯の入浴代、電車賃、不審者扱いを受けた心労に対する医療費を所長に請求したところ携帯電話の修理費と服の代金、そそて電車賃のみが支払われた。