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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
三章【王都編:悪魔の心】
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殺される(社会的)【改稿】

「つまり貴方様は、私をどうこうするつもりはないと?」

「【どうこう】の定義によりますが、概ね【はい】と答えることが可能です」


箱を置いただけのような粗末な椅子。そこに据わる小さな少年に、やけに丁寧な口調の青年が尋ねていた。


そこは大きな広場だった。


地面には石畳が敷かれ、広場を見下ろすように巨大な時計台が佇んでいた。それはまるでイギリスのビックベンのような、素晴らしい石の彫刻が刻まれた物だった。


広場には、色鮮やかな布を木の柱に括り付けただけの簡素なテントが並び、香ばしい匂いが溢れている。テントの中には食料品や衣料品等が並び、明るい呼び込みの声が響いていた。


沢山の雑踏、賑やかな歓声。老若男女、忙しそうに荷袋を抱えて走る青年、仲睦まじく店を見る恋人達、歓声をあげる子供をあやしながら歩く親子。


様々な人々が、見慣れない衣服を纏い、見慣れない物を食べたり持ったりして行きかって笑い合っていた。そこの、とある出店の食事スペースに、変わった二人組がいた。


傍らの少年を困惑しながら見つめているのは、長身の青年だ。青年はフードを被っている為に容貌は分からないが、竹のような長身に、スラリとしなやかな手足を持ち立ち振る舞いが優雅であった。


時折、服の隙間から覗く肌は白い。比喩ではなく、まるで陶器のような雪のような抜けるような白さ。照り付ける太陽に透けてしまいそうな肌が、視線を引き付ける。


それは少年から貰った平民服を纏っていても隠す事が出来ず、貴族出と言われても納得できるオーラを纏っていた。彼の横でアイスクリームを貪るのは、可憐な少年人形。


いや、違う。生きているのが不思議な程、美しい少年。年齢は六歳程度。


サラサラの黒髪をショートカットにして、烏の羽根のような睫毛に飾られた紅い瞳は大きくて、まるで宝玉を嵌めたように無機質な輝きを宿していた。


藍色のラインの純白のセーラー服に、藍色の半ズボンに革靴を履いている彼は、魔術師が作った自動人形のようだ。


貴族のように気品溢れる男性に、無機質に美しい少年。しかも片方は、幼いと言える少年に対して常に敬語だ。


異様とは言えないが、奇怪な二人組である。


普通なら、市場に不釣り合いな彼等が居れば目立ちそうだ。だがしかし、彼等は不自然に市場に馴染んでいた。


もし、少年と同等かそれ以上の魔術の才能があれば、彼等の頭上に鎮座する魔法陣の存在に気付いただろう。白色のソレは、まるで天使の天輪のように二人の頭上に輝いて、その効果を二人に注いでいた。


魔法陣の効果は、認識疎外に気配疎外である。これにより、二人は誰からも直視される事ない。存在自体が希薄になっている為、誰かの記憶に残る事もなく彼等の最大の特徴である翼と羽根を隠していた。


モフモフ

ヂューヂュー

モフモフ

ヂューヂュー


二人がいる出店は、少年の行きつけである小さな店。そこは軽食を扱っているようで、魔道具を使って冷やした氷果や、薄い生地で肉や野菜を甘辛く焼いたサンドイッチ、果実を搾ったジュースが、組立式の机の上に並んでいた。


低価格で食事ができ、屋台の脇には、木の箱を置いただけのような椅子と机が並んだ食事スペースがある為、子供連れの客が多い。


少年が買ったのは、ランチセットのような物で、丈夫な紙を器にした物の上に、獣肉を甘辛いタレで串焼きが三本。ニンニクと玉葱トマトをみじん切りにした物を、黒パンに挟んだ物が一つが乗っていた。爽やかなミックスジュースもついており、食べ応えのありそうな食事だった。


「しかし、良く食べるでございますねー」

「もふ」


目の前でパンをモリモリと食べている少年は、栗鼠のように頬をパンパンにしていた。無表情な美貌とあいまって、非常にシュールだ。同時に、少年はズビビビビと派手な音を響かせジュースを飲む。


ロトの草と呼ばれる、中がストローのように空洞になっている草をくわえ、頬をすぼませて無表情に飲む様子はコミカルでもある。その様子に癒されながら、カリダ

尋ねる。


「しかし。何故坊やは、私を誘拐したのでございますか?」


カリダの言葉に、口一杯に食べ物を詰め込んでいた少年は、食事の手を止めると彼を見つめた。その硝子のように生気のない深紅の瞳がカリダを見上げる。


「貴方が・・・・・・」

「私が?」

「出たがっていたから」


少年がポツリと呟く言葉を聞いたカリダの瞳が見開かれる。何故と尋ねるカリダに、少年は淡々と答えた。


「私はフォルテス・パクスを監視しておりました。その延長線上で貴方のことも見ていました」

「そう・・・・・・ですか」


彼の身の上や、少年が何度も暗殺を失敗して、もはや挨拶がわりになっている事を教えられたカリダは、少年が監視すること自体には疑問がないようだった。だが、彼の顔色が悪くなる。


青ざめるカリダを見つめた少年は、無表情に、しかし何処か慌てた様子で懐から本を出した。それは六法全書なみに分厚い本で、少年はページを開いてカリダに見せてみせる。


「ご安心を。監視用の魔術には個人情報保護用の式が組み込まれております。貴方が他人に見てほしくない光景は削除されますので」


強調するように、小さな手のひらでペチペチとページを叩く少年。そこには、【兵器取り扱い説明書:監視対象のプライバシーの保護編】と項目があり、小さな文字でビッシリと文章が書かれていた。そんな少年に力なく笑いかけたカリダは、微笑みながら少年の頭を撫でた。


頭部という急所に触れられた少年は、一瞬だけ体を強張らせたが、次第に脱力していき、まるで猫のように頭をカリダに擦り付ける。無表情だが体をピーンと伸ばして震わせ、ゴロゴロと猫のように喉を鳴らしていた。どんな喉の構造をしているかは不明だ。


「大丈夫。別に気にしておりません」


笑いながら少年から手を離したカリダは、手の中のパンを見つめる。暫く無言だった彼は意を決したように顔を上げて少年を見る。


「あの、貴方はフォルテスと親しいのでございますよね?」

「定義によりますが、追われ追う仲です」


何処と無く誇らしげに言う少年に、カリダは恐る恐る聞いた。


「あの・・・・・・、今から変な事を聞きますが、気にしないでくださいまし。深い意味は御座いませんので」

「理解しました。これからの会話は最重要事項として聞きます。この会話は録音記録されていますので、悪しからず」

「ストップ!ストォップゥ!」


明らかに今から重要な事を話すというカリダの雰囲気に、ビシッと敬礼した少年。少年から、カリカリと何かが起動したような不気味な音が響いてくる。それを慌てて止めるカリダは、少年の肩を掴んで念を押す。


「録音記録はなし!絶対なし!理解なされましたか!」

「・・・・・・了解」

「もししたら、お尻ペンペンでございますからね!」


不満な雰囲気を滲ませる少年を脅す。すると、少年はいきなり立ち上がりクルリと後ろを向いた。


「?」

「お望みならどうぞ」


ペロン


躊躇なく下げられた半ズボンから現れたピーチヒップ。汚れも何もないその尻は至高の桃尻。そう、それはカリダを社会的に殺すには十分な価値があった。


「ふのっふぅぅぅぅ!」


神速。


叫びながらズボンと下着を掴み上に上げるカリダ。スポーンと勢い良くズボンを上げた為に、股下が食い込むくらい上に上がってしまったが、少年は気にしない。


冷静にズボンを定位置を直す少年は、カリダを不思議そうに見つめる。


「どうしました?」

「どうしましたじゃ御座いません!坊やは私を殺す気でございますか!」

「人間は臀部を見た程度では死なないと思います」

「物理的じゃなく、社会的に!」


カリダが言っている事に納得はいかないが、尻を出してはいけない事と、お尻ペンペンしてくれない事を理解した少年は、少しだけガッカリした。


■■■■■■■■■■■■


「おい!起きろ」

「う……」



「お前達どうした?道端で寝て、枕完備って昼寝するにも斬新すぎるだろ!向こうでは、先生も蓑虫みたいになって寝てるし、一体何なんだ?」

「皆……残ってる奴、非番の奴も全員集めな!アイツが……隊長の兄さんを連れ去った!」

「な!?それって」

「早く!隊長と王子達にばれる前に見付けないと!アイツは処分されちまう!」


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