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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
三章【王都編:悪魔の心】
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少年の正体【改稿】

何故か開いた扉の向こうには、七歳位の小さな男の子がいた。


「おうふ」


少年の姿を見た瞬間、思わず変な声が出た。


それくらい美しい少年だった。小さな頃の私や、フォルテスも凄まじい美少年だったけど、この子は次元が違う美形だ。陳腐な表現だが、まるで芸術家が魂を込めて制作した美術品のような美しさ。


黒炭のような柔らかな黒髪は、とかす必要性がないだろうと思うほどサラサラで、前髪が可愛いらしくクルンとカールしている。雪のような澄んだ白い肌は、見るからに柔らかくて滑らかで、幼い子独特のフックラした頬はプニプニしている。まるで紅玉のように透き通った大きな瞳を、烏の風切り羽のような睫毛が覆っている。


「こ、こんにちは!」


思わず声が上擦って顔がだらし無く歪むが仕方ないよね!可愛いは正義と言うし、あまりにも可愛い物を見たら人間って不気味になるんだね!胸がキューンてなるよ!ヤバイ!キュン死にする!


「どうなさいましたか坊や?」


腰を屈めて尋ねると、その幼くて可愛いらしい少年は返事の代わりに見つめてきた。無言だ・・・・・・。何だか話しかけにくい雰囲気だ。なんとなく私は、その深紅の瞳と暫く無言で見つめあってみた。


ジー

ジー


とんでもなく澄んだ大きな瞳が見ている。

私も見つめ返す。

この子瞬きしないなー。


なんとなくバチコンとウィンクしてみた。ついでに投げキッス付だ。すると、その少年はビクーンと体を震わせて猫のように跳ねる。


フッ・・・・・・勝った。


なんとなく勝ち誇っていたら、フト少年の後ろに変な物が見えた。そこには、アワアワと小さな手を振りながら慌てているピエロ人形達がいた。ヨロヨロと動き、互いにぶつかっているピエロ人形。その顔には、大きな画用紙か貼ってあり、それにはクレヨンで魔方陣が描かれていた。


「?」


そういえば、なんで鍵が開いたんだ?フォルテスは確かに鍵を閉めたし、こんな小さな子供に鍵を渡すとは思えない。


私は立ち上がって扉の鍵部分を見つめてみた。


「坊や、どうやって扉を開いたのでございますか?」


そう尋ねながら振り向くのと、少年の小さな手のひらが額に添えられるのは同時だった。


「【拐拘束用術式:第一式】起動」

「あっ・・・・・・?」


体が痺れて座り込んでしまった。


思わず少年を見上げるが、少年は無言でこちらを見つめるのみ。何をしたか問い詰めようとしたが、舌が回らずに喋ることが出来なかった。


「う・・・・・・え?」


困惑する私を無視した少年は、部屋の中にテッテッテと歩いて入ると、ベッドの上に置いていた上着を取って戻ってきて、上着を私の肩に掛けた。


少年はキョロキョロと周りを見ると、ブツブツと何かを呟き紅い光がその小さな体を包んだ。そして、なんと私を抱き上げてしまった。背中と膝裏に手を差し込んだ、いわゆるお姫さま抱っこだ。


ちょ!?イロイロとオカシイ!体格差とか体重差とかオカシイから!


私の動揺なんて何処吹く風、そのままマラソン選手のような速さで廊下を走り出す少年。抵抗しようとしても動かない体に絶望するが、そうだ私にはセンティーレがいると、一類の望みを込めて振り向く。


助けてセンティーレ!


「キュプーキュプー」


期待を込めて振り向くと、開いた扉から見えるセンティーレは、やり遂げた男の顔をして眠っていた。


馬鹿ぁぁぁぁ!


■■■■■■■■■■■■


途中で何だか賑やかな人達に出会って、彼等に助けてもらえるかと期待したが、少年に眠らされていた。


ぶっちゃけガッカリだった!


少年は私を一旦地面の上に置いた。ああ、うん。私が汚れないように、ちゃんと地面に布を敷いてくれるのは嬉しいけど、体を自由にさせてくれたらお兄ちゃんもっと嬉しいな?


そんな私の細やかな願いは叶わず、少年は倒れた三人組に近付くと、小さな足で三人をチマ!チマ!と蹴って道の脇に寄せていた。


エナメル靴を履いた小さな踵が、イケメン青年の脇腹に危険な角度で突き刺さっていたが、少年は気にせずに蹴ってゴロゴロと転がす。


その淡々とした動作に恐れ戦いたが、少年は三人を道端に寄せると、おもむろにポケットから毛布を出すと三人に被せた。ちゃんと枕を彼等の頭の下に入れてあげている。


明らかに、小さなポケットではありえない大きさの寝具が出ていた事は気にしない。


それよりも、今私が一番気になるのは、少年の背中に発生した半透明な羽根だ。先程まではなかったソレは、少女が先程放った槍の攻撃で、少年の頭の上で何かが砕けたと思ったら現れた。


光をウッスラと通す羽根は、蜻蛉のような形をしており、まるで妖精のようだ。


私はそこで疑問に思う。この子は何者なんだろう?


この世界には獣人やエルフなどの、人間型の生物はいない。それは確実な事だ。少なくとも、生物マニアだったマスターが長い生涯の大半をかけて探したのに見つからなかったんだ。その信憑性は高い。


だから、私達みたいに人間型で異なる生物の一部を持つ存在は私達以外にはいない筈だ。


それでは、この少年は何?

少年の瞳と目があった。


その顔は、この年頃の子供では有り得ないほど、感情を宿していなかった。もしかして?とある可能性が頭をよぎり、心の中に不安が生まれる。


私の疑問と僅かな不安が解消されることはなく、少年は私を再び抱えると走り始めた。



□■□■□■□■□■□ ■□ ■□ ■□■□■□■□■□


少年の目的地は、とある林だった。


私がいた施設から抜け出した少年は、物影に隠していた魔方陣の描かれた布を取り出して転移し、此処に辿り着いた。彼は私を抱えたまま、林の中の木々の間を歩いている。


その時、やっと体の自由が戻った。


「そおい!」

「!?」


私は体の自由を確認すると、少年の顔に向かって翼を広げてその顔を翼で叩いた。大きな翼に顔を叩かれるのには驚いたらしい、緩んだ少年の腕の中から逃げだす。


少年を押さえつけるように、少年の肩に手をついてそこを支点にし、前転しながら体のバネを使って跳ねるように飛び上がる。


林の中は木々が狭い間隔で繁っているために飛びにくいが、翼を羽ばたかせて発生する浮力を利用するには十分だ。私は羽ばたきを利用しながら体を捻って、身近な大木の上を駆け上がり遥か上方に逃れた。


木の枝の上にしゃがんだ私は、そこから下を見下ろして警戒する。


「動かないで下さいまし!」


少年が動こうとしていたので制止する。


私は枝の上に猫のように座りながら少年を睨み、翼を左右に広げて威嚇する。羽根をブワワワと広がり、翼を二倍程に膨らませている本気威嚇だ。非戦闘員だからって舐めんなよう!身軽さと反射神経には自信があるんたからな!


そんな私を見て不思議そうな少年。彼は私を不思議そうに見つめている。


「何故魔術が?」

わたくし、魔術抵抗には自信がございます!私には魔術は通じませんでございますよ!」


神様の加護は伊達ではない!


私の体には四柱の加護が籠められている。闇属性の魔術は当たる前に霧散するし、その他の魔術も精霊達が遠慮する為か威力が弱くなる。


先程まで私の体の自由を奪っていた術も、少年が設定していた時間より遥かに早く効果が切れたのだろう。私は、此方を見つめてくる少年に詰問する。


「貴方様はシレービュに関係がおありですか!」


羽根があり、強力な魔術を操る姿。そして、何かが抜け落ちたような顔。可愛い外見にウッカリして可能性を見落としていたが、シレービュの者である可能性が高い。


さっき私を誘拐すると言っていたし、私を研究所に連れ戻しに来た?


私は固唾を呑んで少年を見下ろす。もしそうならば、私は神歌を使ってでも抵抗する。


神様を直接呼ぶ神歌は上級歌姫にだけに許された曲だ。私の場合は兵器に関することならば、対価なく神歌を歌えるが、それ以外は神様達の自由となっている。


すなわち、下界に呼ばれた神様達が好き勝手にするという事だ。神様達に無理難題を押し付けられる可能性や、周りの迷惑を考えると滅多な事では使えなかった。


だが、研究所に閉じ込められるのは嫌だ。また、フォルテスと離ればなれになりたくない。黙りこむ少年を見て、私は喉に手をやる。


誰を呼ぶ?冥王様は・・・・・・。駄目だ。あの方ならば怒り狂って、一帯を闇の大地にしてしまう。死神様は・・・・・、ダメダメ。優しすぎるから小さな子には手を出せない。「メッ」と怒ったら帰っちゃう。


ならば、呪神様か戦神様だな。


呪神様ならば、セクシーランジェリーを着て体を張った一発芸をすれば許してくれそうだし。戦神様は何だかんだ言って常識あるし。


私がそんな事を考えていると、下にて此方を無言で見上げていた少年が動いた。


「降参」

コテン


「ん?」

「降参ですので、捕虜として捕縛することを提案します」


唐突に両手を挙げて万歳した少年は、腐葉土が積もった地面の上に仰向けに横たわりながら、何故か降参の意思を示した。明らかな棒読みの声や脈絡のない降参の意思表示に、油断させる為の演技かと思い枝から体を乗り出して少年を観察するが、彼はピクリともしない。


私が動く気がない事を理解したのか、少年はバネ仕掛けの人形のようにシュバッと上半身だけ起き上がると、何故か服を捲って自分のお腹を出した。そして、二、三度

ポンポコリンなお腹をペシッペシッと叩くと、「うん」と頷き、再び腐葉土の上に寝転がった。


無言


え?何この子?意味わからない。怖い。あれ?これがジェネレーションギャップってやつかな?動く気配のない少年に、私は沈黙に耐えきれずに尋ねてみた。


「あのー?何をなさっているのですか?」

「降参の意思表示です。腹部という急所を見せて無力化することで、降参の意思を示すことは様々な生物に共通で見る事が可能な習性です」


確かにそうだが、誘拐した相手に何故いきなり降参をするのだろうか?そこが最大の論点だ。


「何故降参するのでございますか?」

「フォルテス・パクスが、「女がヒステリー起こしたら、さっさと降参した方が楽だ」と言っていたので、その対処にならってみました」


なっ!?誘拐しておきながら、私の抗議をヒステリー扱い!?てゆーか、今の私は男だ!いやいや、落ち着け私。それよりも気になる事があるだろう。


「フォルテス?坊やはフォルテスの知り合いですか?」

「簡潔に述べますとイエスです」


そう答えた少年は立ち上がると、捲っていた服の裾を直し、木の葉にまみれた服を叩いて身嗜みを整える。


「自己紹介をします。シレービュ兵器開発室作製・対悪魔兵器・魔術特化型開発試作・検体番号【Θ69ΦЖё3】通称【オーダメイド】。現在はフォルテス・パクスが後見人となり第三王子直属部隊に所属し、フォルテス・パクスに保護及び監視されている者です」


そう告げた少年は、体育会系バリに勢い良く一礼した。

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