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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
三章【王都編:悪魔の心】
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【産まれなかった子供】【改稿】

彼が体の起動を開始した時から、その声は聞こえていた。


「ねえ?なんでさがさないの?」

「わたしはさがしているのに」

「あれ?なんでからだがあるのに、きみは●●●●がいないの?」

「●●●●をみつけてないの?」

「へんなのー」

「へーん」

「だめだよ。このこはみつけるまえにつかまったんだ」

「あそこで、たくさんつめこまれて、わからなくなってるんだ」

「だからなの?」

「だから●●●●がいないの?」

「かわいそー」

「だからかんじょうがないんだね」

「かわいそー」


声が言うのは、彼には欲しい物があるらしい。何故か理解できないソレは、声達も捜し求めているらしかった。


だけど、彼には分からない。何が欲しいのか、何を捜せばいいのか。


「おもいだせたらいいね」

「おもいだせたらいいね」

「みつかればいいね」

「ぼくはみつけたよ。とてもあたたかいひとなんだ」

「わたしもみつけた!やさしそうなひと」

「きみもがんばれ」

「はやくおもいだせればいいね」

「すてきな●●●●がみつかればいいね」

「がんばって」

「がんばって」


声はいつも彼に語りかける。彼が何故と尋ねると、仲間だかららしい。


声は頻繁にメンバーが変わった。ある日突然いなくなり、新顔が増える。


誰かがいなくなる度に聞こえる歓声に、彼は耳を塞いだ。


保存溶液に満たされた容器と、機能確認施設を行き来する日々。


刺される太い針を、大きな瞳に映しても彼は特に何も思わなかった。だが、あの無機質な研究所から解放された時、目の前にいる男を見て胸が一瞬だけ弾んだ。


だけど違う。


とても近いけど違う。


これじゃない。


欲しいのは、柔らかくて甘くて優しい何か。こんなに大きくて暑苦しくて硬い物じゃない。


欲しい物に近いと感じる物は町にも溢れていた。だがしかし、それは既に他人の物になっていて違った。


彼がいくら探しても、探し物が何か分からないままだった。


だがしかし、男が全く違うと言われたら、それも違った。欲しい物に一番近いのは、やっぱり男だった。


時折触れる体温に、かけられる言葉に、体の何かが緩んで弾む。頭を乱暴に撫でられ、肩車された時には胸の奥がトクンと跳ねた。


何だろう?


彼は首を傾げて思考した。だがしかし、それが何かと感じる器がなかった。


結局、理解できなかった。


ただ、男から離れるのは嫌だった。それを言い表す術がなく、理解できる心もなかったが、漠然とした感覚が頭を満たした。


何故?と考え、暗殺の命令を果たしていないからと彼は判断した。長年かせられた任務を達成していないのが、気になるのだろうと。


何となしに続ける暗殺作業。


心の中に存在する疑問。



おせらく違うだろうと思いながら……。だが、不確実な仮定にNOとは言えなかった。


暗殺を止めれば、男は自分を見なくなるだろうから。探し物をしている男は自分を見なくなる。


そうならない為に出来る事を、彼は知らなかった。彼には暗殺しかなく、それを寂しく思う心も感情もなかった。


だから、彼は暗殺を続ける。自分の心があるかないかも理解せず、ただ、僅かな胸の動きに従って動いた。


その男が最近おかしい。日課の覗きをしながら、監視ノートに書き込みながら首を傾げた。双眼鏡を調整した彼は男を見た。


男は、なんかキッショイ顔をしてスキップしていた。


彼は気付いた。


もしかして男の探し物が見付かったのか?そう考えた時、急に胸が痛くなった。彼は不思議に思いながらも、確認作業を開始した。妙にざわめく建物の中、魔術を使って見た。


透視した先。


そこにいた人物。それは……、純白の翼を持つ男。まるで夢から出てきたように、フワフワとした金髪をたなびかせた現実感のない容貌。


彼はベッドの上に横たわり、黒翼の男に頬を撫でられて微笑んでいた。


その笑顔を見た時、胸が締め付けられた。ドクンと脈打ち、競り上がるような感覚がした。


ああ……ああ欲しい。


●●●●

●●●●

●●●●

●●●●


声が騒ぐ。



「「「みーつけた」」」

「このひと?」

「わからない」

「かのうせいたかいね」


興奮した声達がキャラキャラと笑う中、彼は手に入れた白い羽根に頬擦りした。頬擦りした白い羽根は、暖かくて甘い匂いがした気がする。


彼は再び監視した。


彼の部屋には、次第に男に関する物とは別の資料が溜まっていく。クレヨンと画用紙で作成された資料は拙い文字と裏腹に、その内容は精緻かつ事務的に書かれた観察記録だった。


その人の生活習慣等を纏めた資料を眺めながら、彼はとあることに気付いた。


声達に後押しされるように、彼は動き出した。



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