【産まれなかった子供】【改稿】
彼が体の起動を開始した時から、その声は聞こえていた。
「ねえ?なんでさがさないの?」
「わたしはさがしているのに」
「あれ?なんでからだがあるのに、きみは●●●●がいないの?」
「●●●●をみつけてないの?」
「へんなのー」
「へーん」
「だめだよ。このこはみつけるまえにつかまったんだ」
「あそこで、たくさんつめこまれて、わからなくなってるんだ」
「だからなの?」
「だから●●●●がいないの?」
「かわいそー」
「だからかんじょうがないんだね」
「かわいそー」
声が言うのは、彼には欲しい物があるらしい。何故か理解できないソレは、声達も捜し求めているらしかった。
だけど、彼には分からない。何が欲しいのか、何を捜せばいいのか。
「おもいだせたらいいね」
「おもいだせたらいいね」
「みつかればいいね」
「ぼくはみつけたよ。とてもあたたかいひとなんだ」
「わたしもみつけた!やさしそうなひと」
「きみもがんばれ」
「はやくおもいだせればいいね」
「すてきな●●●●がみつかればいいね」
「がんばって」
「がんばって」
声はいつも彼に語りかける。彼が何故と尋ねると、仲間だかららしい。
声は頻繁にメンバーが変わった。ある日突然いなくなり、新顔が増える。
誰かがいなくなる度に聞こえる歓声に、彼は耳を塞いだ。
保存溶液に満たされた容器と、機能確認施設を行き来する日々。
刺される太い針を、大きな瞳に映しても彼は特に何も思わなかった。だが、あの無機質な研究所から解放された時、目の前にいる男を見て胸が一瞬だけ弾んだ。
だけど違う。
とても近いけど違う。
これじゃない。
欲しいのは、柔らかくて甘くて優しい何か。こんなに大きくて暑苦しくて硬い物じゃない。
欲しい物に近いと感じる物は町にも溢れていた。だがしかし、それは既に他人の物になっていて違った。
彼がいくら探しても、探し物が何か分からないままだった。
だがしかし、男が全く違うと言われたら、それも違った。欲しい物に一番近いのは、やっぱり男だった。
時折触れる体温に、かけられる言葉に、体の何かが緩んで弾む。頭を乱暴に撫でられ、肩車された時には胸の奥がトクンと跳ねた。
何だろう?
彼は首を傾げて思考した。だがしかし、それが何かと感じる器がなかった。
結局、理解できなかった。
ただ、男から離れるのは嫌だった。それを言い表す術がなく、理解できる心もなかったが、漠然とした感覚が頭を満たした。
何故?と考え、暗殺の命令を果たしていないからと彼は判断した。長年かせられた任務を達成していないのが、気になるのだろうと。
何となしに続ける暗殺作業。
心の中に存在する疑問。
おせらく違うだろうと思いながら……。だが、不確実な仮定にNOとは言えなかった。
暗殺を止めれば、男は自分を見なくなるだろうから。探し物をしている男は自分を見なくなる。
そうならない為に出来る事を、彼は知らなかった。彼には暗殺しかなく、それを寂しく思う心も感情もなかった。
だから、彼は暗殺を続ける。自分の心があるかないかも理解せず、ただ、僅かな胸の動きに従って動いた。
その男が最近おかしい。日課の覗きをしながら、監視ノートに書き込みながら首を傾げた。双眼鏡を調整した彼は男を見た。
男は、なんかキッショイ顔をしてスキップしていた。
彼は気付いた。
もしかして男の探し物が見付かったのか?そう考えた時、急に胸が痛くなった。彼は不思議に思いながらも、確認作業を開始した。妙にざわめく建物の中、魔術を使って見た。
透視した先。
そこにいた人物。それは……、純白の翼を持つ男。まるで夢から出てきたように、フワフワとした金髪をたなびかせた現実感のない容貌。
彼はベッドの上に横たわり、黒翼の男に頬を撫でられて微笑んでいた。
その笑顔を見た時、胸が締め付けられた。ドクンと脈打ち、競り上がるような感覚がした。
ああ……ああ欲しい。
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声が騒ぐ。
「「「みーつけた」」」
「このひと?」
「わからない」
「かのうせいたかいね」
興奮した声達がキャラキャラと笑う中、彼は手に入れた白い羽根に頬擦りした。頬擦りした白い羽根は、暖かくて甘い匂いがした気がする。
彼は再び監視した。
彼の部屋には、次第に男に関する物とは別の資料が溜まっていく。クレヨンと画用紙で作成された資料は拙い文字と裏腹に、その内容は精緻かつ事務的に書かれた観察記録だった。
その人の生活習慣等を纏めた資料を眺めながら、彼はとあることに気付いた。
声達に後押しされるように、彼は動き出した。




