お世話します
トテトテ
パサパサ
トテトテ
ゴシゴシ
汚れがこびりついた床を、ボロ布で作った雑巾で拭きながら駆け抜ける。
くっ雑巾駆けなんて、いつ以来なのだろうか?足腰がプルプルするぜ!だがしかし、私はへこたれないぜ!
気合いを入れる為に羽をパタパタ素早く動かして、気分的にターボ気分。気合いが高まった瞬間、足に力を込めてダッシュする。
「ファイトォォォ一発ぅぅ!」
こんにちは皆さん。私はただ今、お掃除中です。
あの後、白い半袖のシャツにハーフパンツという衣服を与えられた私は居住スペースに案内され、私は恐れ戦いた。腐海だ…腐海が生み出されている。
プーン
「てい!!」
目の前を飛んでいる虫をピョンと飛んで、手を打ち合わせて潰す。潰れた虫は小バエだった…。
「………」
ゾワゾワゾワ
わっ!?凄まじい鳥肌が!
マスターがソファーに座ると、ボフンと埃が立ち上った。
うああああ!!汚い汚い汚いいいい!
その一言が頭の中を駆け巡る。小バエが飛び回る時点で無理!マスターが説明しているが無視した。
「マスター…掃除道具は何処ですか?」
私はマスターの肩をグワシと掴んで詰め寄り、気が付くと部屋中を掃除していた。
外を見ると良い天気だった。今気が付いたのだが、今は朝のようだ。よし!都合が良い!
「うおりゃ!でございます」
「な…なんじゃぁぁ!?」
私は物が溢れた室内を引っ掻き回し、外に発掘した布を敷きクッションを配置して寝床を作り、そこにマスターを突っ込む。
「な…何をするのじゃ!」
「私今からお世話の目的を果たします!お掃除でございます!」
「な…なんじゃと!?勝手にワシの物を弄るな!」
「マスター」
私がマスターに突き付けた物は、虫に喰われて穴だらけになった服であろう物。悪臭を放つそれを見たマスターが顔を引き攣らせる。
「大切な書籍が、このような物になっても宜しいんでございますか?」
「そ「他にも有りますので必要か判断して下さいまし」
ドン
ドン
文句を言おうとするマスターの前に、次々にガラクタと化した物を置く。同時に巨大な木箱を三つ、マスターの前に置く。
「今から判断がつかない物を此処に集めるので、要るものを右、要らない物を左、保留品を真ん中に入れてくださいまし」
ピシャリと言い放つと、ムスゥとしたマスターは渋々ゴミの前に座る。魔術を使っているのか、ガラクタは浮かび上がり次々に箱の中に入り分類される。
「マスター、重い物を運びたいのでございますが」
「それじゃ、これを使えば良い」
ふて腐れたマスターだが、ボタンが一つしかない小さなリモコンのような物を渡してくれた。
「これを使え。念力を封じた魔法具じゃ」
私は魔法具を片手に室内に入り、家具に向かってボタンを押すとフワリと浮いた。私が移動すると、そのままついて来た。
私は本や書類を紐で纏めて外に出すと、手際よくソファーやテーブルやガラクタを外にだす。
その時に掃除道具を発掘したので、箒で積もりに積もった埃を掃き出す。最初に、悪臭の発生源である皿が積み重なった台所を掃除したかったが、埃が舞い上がるので後回しにした。
凄まじい埃が舞い上がり目の前が見えなくなる。
「ケホケホ」
咳込みながら、シャツを脱いで口に巻いてマスク代わりにした。上半身裸で埃を集めて運ぶ。背中の羽も使い埃を落とす。
純白の羽が灰色になったが気にしない。埃!埃!埃ぃぃぃ!埃は敵だぁぁぁ!
「埃成敗でございます!」
雄叫びを上げながら埃を玄関から直接外に出した。まるで雲のようにモクモクと埃が外に立ち上る。
外に居るマスターが悲鳴をあげるが気にしない。私は猛然と掃除を続けた。
何だこの箱!?ガサゴソ言ってェェギャアアアアアア!?
黒い悪魔が悪魔がぁぁ!飛んだにぎゃぁぁぁ!ひいい!小さいのも大きいのも彩りみどりぃぃぃぃ!襲い掛かって来たぁぁぁ!
「嫌ああああああ!」
「ん?ぎゃぁぁぁぁ!」
ブーン
何かが羽ばたく低い音が無数に響く。高らかに編隊を組む奴に追い掛けられて泣きながら家から逃げ出し、マスターに助けを求める。
流石に、沢山の奴らはマスターも怖かったのだろう。悲鳴をあげて杖から炎を出して焼き払った。
「何連れて来とるんじゃ!」
「すみません!」
マスターに杖でポコポコ叩かれて悲鳴をあげて謝った。なのに許してくれないマスターは執念深いと思う。
こうして私は、夕方まで住居スペースの掃除に明け暮れた。たった一部屋にどれだけ時間が掛かっているんだか。
だって、他にも茸が生えたカーペットやら黴が生えた下着やら、化石になった元パン元カボチャが大量にあったんだもん。
私はピカピカになった室内を満足げに眺めて勝ち誇った笑いを響かせた。
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ジィィィィィ
「嫌じゃ…」
ジィィィィィ
「そんな目で見ても嫌じゃ」
ジィィィィィ
「ええい!何も隠しとらんわ!」
ゴミ袋を片手にマスターを見つめる。瞬きせずにひたすら瞼をクワッ!と開いて見つめる。今の私は瞳が大きいから迫力はあるのだろう。
マスターをジーとひたすら無言で見つめると、暫く騒いでいたマスターは渋々ゴミを渡した。
「うう…ワシのコレクションが…」
このマスターは捨てられないマスターだった。一番質が悪い、ゴミでも何でもコレクションするのだ。
ビッチリと積まれた包装紙や瓶の保管部屋を見た時は頭がクラクラした。一番恐れ戦いたのはリビングだったけどな!
それからの日常は、私とマスターとの戦いだ。
毎日小まめに掃除をして、バインダーに書類を挟み、番号をふり管理する。そして、溜め込むマスターに捨てる私。
渡された包装紙をごみ袋に入れながら台所に向かう。またゴミを溜め込もうとしていたマスターに、プンプン怒りながら朝ごはんの用意をする。
体が小さいから踏み台をズルズル引きずって台所に立つ。無機質だった台所には、ペンキでオレンジ色に塗った小箱を沢山置いて食器や調理機具をしまった。
マスターの収集癖が珍しく役立った瞬間だ。大小沢山の木箱は便利。
食料庫から出した玉葱とトマトを手作りのまな板の上で薄く切り、丸い麦パンを二つに切って目玉焼きと一緒に間に挟む。
ついでにプチトマトと丸い水牛チーズを皿に盛って、オリーブオイルをかけてサラダを作る。
よし!命名【丸々朝食セット】完成。
朝食を机の上に置いてマスターが座りやすいように椅子を引く。ソファーの上のマスターはサラダを見ると顔をしかめた。
「また野菜かぎゃ!?」
「食べなさい!」
渋るマスターの頭をガシィと掴む。毎回毎回、鶏肉は嫌、パセリは嫌、レタスは嫌、ドライフルーツは嫌。ジジイなんだから、好き嫌いしてんじゃねーよ。
毎日せっせとアイアンクローを決めていたら、大人しく食べてくれるようになりました。
「いただきます」
「いただきます」
両手を合わせて食事を始める。
これは、最初の日の食事の際に思わず言ってしまったんだけど、どういう意味か話したら納得してくれた。
どうやらマスターは根っからの研究者タイプらしい。知りたい事しか興味ない。
何故マスターが知らない知識を私が知っているか聞かれもしなかった。最初はヤバっ!と思っていたのに。意味を教えたら納得する。
必要以上は知りたがらないある意味合理的な人だ。